資生堂は2019年8月29日、オープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」への採択企業3社を発表した。3社から見えてくる狙いは、ヘルスケア分野とデータ活用の拡大だ。fibonaの取り組みの1つ、「スピード感のあるβ版の市場投入」を実現するために、クラウドファンディングサービスを提供するマクアケ(東京・渋谷)との協業も発表した。

19年7月の募集で3社が採択された。これから企画の段階に入るとし、最長3カ月をかけ企画を練るという
19年7月の募集で3社が採択された。これから企画の段階に入るとし、最長3カ月をかけ企画を練るという

 fibonaは資生堂が19年7月に発表したオープンイノベーションプログラム。資生堂との連携機会を探るベンチャーを募集し、新商品やサービス開発につながるイノベーションの種を見つけ出すのが狙いだ。19年7月1~26日にかけて応募を募り、約50社の応募企業の中から採択企業3社を発表した。

 fibonaは4つの活動プランで構成されている。

  • 1.スタートアップ企業とのコラボレーション
  • 2.生活者とのコラボレーション
  • 3.スピード感のあるβ版の市場投入
  • 4.新たな研究風土醸成

 資生堂R&D戦略部長の荒木秀文氏は「狙っているのは化粧品ではなく、もう一歩先のBeauty(美容)」と採択の理由を説明する。そのうえで、「コアとなる技術、アセット(資産)を持っていること、資生堂が持っているアセットを掛け合わせたとき、将来のイメージ像が見えたことが決め手となった」(荒木氏)。

 採択された企業は、3Dスキャニング技術を持つDigital Artisan(デジタルアルティザン、東京・目黒)、スマートフットウェア「ORPHE TRACK(オルフェトラック)」を開発するno new folk studio(ノーニューフォークスタジオ、東京・渋谷)、尿検査の結果から最適な食事やサプリメントを提案する「VitaNote(ビタノート)」などのサービスを運営するユカシカド(東京・渋谷)の3社だ。

採択したスタートアップ3社
採択したスタートアップ3社

 採択された3社の共通点は、ヘルスケア分野の事業を展開すること。Digital Artisanは、人体の3Dスキャニングを得意とし、資生堂の持つ肌や健康のデータと掛け合わせた新たなヘルステックを生み出す考え。no new folk studioは、履くだけでランニングやウオーキングのデータが取得できるウエアラブル端末を提供する。歩き方と美容の相関をテーマに採択された。ユカシカドは、尿検査から栄養の過不足や実際の栄養吸収量を算出したり、そのデータからオーダーメードサプリを注文したり、体の内側から健康になれるサービスを展開するといった、三者三様のヘルスケア分野の技術を持つ。これらの技術を活用して、化粧を超えた美容・健康事業を生み出すことを狙う。

 また、いずれもデータを持つ企業であることも共通する。荒木氏は「今後、データを持つ企業が、勝負の鍵を握るのは間違いない。資生堂自身にも、膨大なデータはあるが使い切れていないのが現状だ」と話す。

マクアケとの協業も発表

 さらに、「スピード感のあるβ版の市場投入」(荒木氏)を実現するために、マクアケとの協業も発表した。

 資生堂とマクアケの共同プログラム「fibona with incubators program」は、マクアケのインキュベーション支援サービス、Makuake Incubation Studioを利用して、資生堂の研究開発部門発のアイデアを事業に昇華させることを狙う。

資生堂R&D戦略部長の荒木秀文氏。「化粧品のアセットは既に持っているので、化粧品以外の美容やヘルスケア分野を展開したい」と話す
資生堂R&D戦略部長の荒木秀文氏。「化粧品のアセットは既に持っているので、化粧品以外の美容やヘルスケア分野を展開したい」と話す

 荒木氏は「市場や顧客のニーズの変化が速い。1、2年を研究に費やして完成品を出す頃には、もう市場が変わっている。期待やニーズに応えるために、スピード感を持って世に出していきたい」と話す。3社それぞれ実現可能性や進捗は異なるが、早ければ年内にMakuake上で発表できるプロジェクトもあると言う。

 同プログラムでは、ビジネスモデルの設計や製品の企画立案など、fibonaで採択された3社の持つ研究知見やアイデアを形にし、Makuakeでプロジェクトを実施してテストマーケティングをする。

 スタートアップ企業の募集は今後も「年に2回」(荒木氏)、続ける方針。第1回は募集期間が短く、国内からの募集にとどまったが、20年以降は海外からの募集も視野に入れる。

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