リクナビが利用者に十分な合意を取らず内定辞退予測データを販売していた問題などで、パーソナルデータの取り扱いに関する社会的疑念が広がっている。そんな中、NTTドコモは、パーソナルデータに関する同意内容を確認したり、変更したりできるサイトを、2019年12月に開設する。
スマホの位置情報に、コンテンツサービスでの閲覧履歴、そしてキャッシュレス決済による購買履歴……。NTTドコモが収集可能なパーソナルデータは多岐にわたっている。事業者のマーケティングにとっては宝の山といえるが、一方で消費者からは、それらがどのように使われているのか厳しい視線が注がれている。
ドコモは2018年5月にパーソナルデータの取り扱いに関する行動原則「NTTドコモ パーソナルデータ憲章」を制定。しかし、これまでは社内で運用されてきただけで、公表はしてこなかった。今回、社内での運用が順調に進み、実績を積んできたと判断。ユーザーなど社外に広く公表するとともに、プライバシーポリシーを分かりやすく再編することを決めた。約3カ月の周知期間を経た19年12月から新しいプライバシーポリシーの適用を開始するとともに、各ユーザーが同意事項を確認したり変更できたりするサイト「パーソナルデータダッシュボード」を開設する予定だ。加えて、パーソナルデータの活用について分かりやすく紹介するコンテンツをアップし、ユーザーに理解を求めるという。
ドコモのプライバシーポリシーは、もともと通信回線の契約を想定したものだったが、その後、クレジットカード事業や金融事業への進出に伴い、内容が複雑化していた。さらに近年は、回線契約がなくても「dアカウント」を作ればdポイントなどがためられる「+d」戦略を推進。ポイントの獲得・利用先としてパートナー企業との連携が加速しており、購買データなどの活用の重要性が高まっている。パーソナルデータの第三者への提供については規約に明記し、事前に同意を得てはいるものの、「安心して情報を提供してもらうため、丁寧な説明が不可欠と考えた」(NTTドコモデジタルマーケティング推進部長の白川貴久子氏)という。
「パーソナルデータダッシュボード」を提供開始
取り組みの中でも特に目新しいのは、パーソナルデータダッシュボードだろう。過去に同意したパーソナルデータに関する契約を一覧で確認できるほか、パーソナルデータの第三者提供に関して、同意内容を変更できるようにするという。具体的な内容は検討中というが、位置情報、購買履歴などパーソナルデータのカテゴリーを4~5つ程度に分類したうえで、それぞれの提供範囲を、ドコモのサービス内での利用だけにとどめるか、第三者への提供も認めるか、選択できるようになる見込みだ(サービス提供に必須なデータ提供を除く)。将来的には、提供先の企業まで選択できるブラックリスト方式を取り入れる可能性もあるという。
こうした取り組みはユーザーの権利保護になる一方、第三者への提供を拒否するユーザーが増えると、データ活用の観点からはマイナスに作用することになる。そのためにも「購買履歴を提供するから割引クーポンやポイントが得られる、といったユーザーへのメリットをきちんと打ち出す必要がある」(白川氏)。
しかし、ユーザーが自らへのメリットを感じにくいデータの活用先もある。例えば、ドコモのデータサービス「モバイル空間統計」がそれ。基地局と携帯電話との通信データと契約情報とを組み合わせ、1時間ごとの人口推計を24時間365日把握できるのが売りだ。道路の整備や災害対策などで官公庁や自治体が活用しているほか、民間でも店舗の出店時の商圏分析などに使われている。
もちろん、統計の作成に当たっては、電話番号といった個人を識別できる情報は使用せず、年代、性別といった大ぐくりの属性に変換される。とはいえ、個人情報を基にしたデータであるため、ドコモとしてはパーソナルデータに該当すると判断。匿名化する場合でも第三者提供の可否をユーザーに問うことにしている。「ユーザー個々人へ直接のメリットがあるわけではないが、社会的な意義があることをアピールして納得してもらうしかない」(白川氏)。同時に公開予定のマンガ形式のコンテンツを通じて、パーソナルデータ提供への理解を求めていくという。
ユーザーがデータ提供を過度に恐れる可能性も
データ活用の“裏側”を見せれば見せるほど、ユーザーの拒否反応が増えるリスクは否定できない。それでも、白川氏は「提供したデータが何に使われているか分からないという状況が、ユーザーにとって最も不安感を抱かせるのではないか」と話す。ドコモの取り組みが狙い通りに進み、データの利活用を促進するのか。それともパンドラの箱を開ける結果となって、逆に個人情報の利活用にブレーキがかかってしまうのか。ドコモの取り組みがどちらに転ぶかが注目される。