少子化も、グローバル企業からの警告やクレームもなんのその。老舗駄菓子メーカーのオリオン(大阪市淀川区)の商品が今、再び注目を浴びている。「ココアシガレット」と聞けば、食べた記憶のある大人も多いだろう。1個30円の菓子に訪日外国人が群がる。人気シンガーのSNS投稿も追い風に。

1951年発売のオリオンの看板商品「ココアシガレット」。ハッカの香りとココアの風味が口の中に広がる砂糖菓子で、最近は禁煙グッズとして大人にも好評
1951年発売のオリオンの看板商品「ココアシガレット」。ハッカの香りとココアの風味が口の中に広がる砂糖菓子で、最近は禁煙グッズとして大人にも好評

品薄状態が続き、業績は好調

 子供の頃、十円玉を握り締めて近所の店へ買いに行った駄菓子には、大人の心もひきつける魅力がある。昔懐かしい駄菓子屋への郷愁に加え、病みつきになる独特の味と、たった数十円で得られる充足感が、駄菓子好きに長く愛される人気の理由だろう。

 とはいえ、商品単価30~100円という薄利多売のビジネスが時代を超えて存続するには、経営戦略上の秘訣があるはず。そこで老舗駄菓子メーカーのオリオンに取材すると、ロングセラー商品が再ヒットする、SNS時代ならではの“売れる条件”が見えてきた。

大阪市淀川区のオリオン本社。本社内の工場では主に「梅ミンツ」を製造している。インバウンドとSNS効果で売り上げを伸ばしている
大阪市淀川区のオリオン本社。本社内の工場では主に「梅ミンツ」を製造している。インバウンドとSNS効果で売り上げを伸ばしている

 オリオンといえば、缶飲料をかたどったコーラ味のラムネ菓子「ミニコーラ」や、たばこのPeaceを思わせるパッケージの砂糖菓子「ココアシガレット」などのパロディー菓子で知られる菓子メーカー。森永製菓から独立したメンバー3人が、戦後まもない1948年に創業。以来、子供に夢を提供することをモットーに商品開発に取り組み、数々のヒット商品を生み出してきた。

 商品開発のコンセプトは「見て楽しい、もらってうれしい、食べておいしい、また欲しいの4C(フォーシー=星)」。「そこに作る人たちの魂が加われば、オリオンのトレードマークでもある5つ星の商品が生まれる」と、常務取締役・企画本部長の高岡五郎氏は得意顔で話す。

1978年発売のロングセラー商品「ミニコーラ」をはじめとするミニシリーズ。缶飲料をかたどった小さな容器に、コーラ味やピーチ味などのラムネが入っている
1978年発売のロングセラー商品「ミニコーラ」をはじめとするミニシリーズ。缶飲料をかたどった小さな容器に、コーラ味やピーチ味などのラムネが入っている

 そんな歴史のある老舗メーカーの同社が、ここ数年、売り上げを伸ばしている。2018年度の年商は16億4000万円。ここ2、3年は生産が追いつかず、品薄状態が続いているという。「これまで残業でしのいできたが、働き方改革で残業ができなくなる。そこで、機械の生産能力を上げることに注力している」と高岡常務。

 本社内の工場では主に「梅ミンツ」を生産。ミニコーラは外部工場に製造委託しており、約1億円を投じて生産能力を1割増強した。さらに年間販売個数400万個、シリーズ累計で年間1500万個を売るココアシガレットも「インバウンドの土産として、アホほど売れている」(高岡常務)。19年度中に1億円以上を投じて生産効率の高い機械を導入し、年間1900万個に増産する計画だ。

 1951年の発売当時、1個5円で販売されていたココアシガレットは、「大人がたばこを吸う姿に憧れる子供のために作った」という元祖パロディー菓子。現在の価格は1個30円(税別、以下同)。ピーク時には年間1800万個の販売実績があったが、過去最高を更新する勢いで売り上げを伸ばしている。

「見て楽しい、もらってうれしい、食べておいしい、また欲しいの4Cがコンセプト」と話す高岡五郎常務。「飲み屋で面白いアイデアが生まれることが多い」
「見て楽しい、もらってうれしい、食べておいしい、また欲しいの4Cがコンセプト」と話す高岡五郎常務。「飲み屋で面白いアイデアが生まれることが多い」

あいみょんがインスタで投稿し、話題に

 好調の要因は、ドラッグストアやディスカウントストアにまで販路が広がり、外国人観光客の需要が拡大したことが大きい。もともと東南アジアには30年以上前に進出しており、なじみのある日本土産をまとめ買いする観光客が急増したことも一因と思われる。

 もう1つの要因は、SNSでの投稿がきっかけで「ココアシガレット」に対する注目度が高まったことだ。なかでも19年2月、シンガーソングライターのあいみょんが自身のインスタグラムに投稿した雑誌の写真が大きな反響を呼んだ。ココアシガレットを指に挟み、たばこを吸っているようなポーズは、まさに多くの大人が記憶する子供の頃の経験そのもの。インスタのコメント欄には「おっさんもガキの頃にやった覚えがある」「食べたいなぁ、ココアシガレット」「シガレット懐かしー」「持つ人が持つとリアルに見えるなー」など、ココアシガレットに関するコメントも多く、約16万8000件のいいね!を集めた。

あいみょんがインスタに投稿し、話題を集めた1枚。たばこを吸っているのかと思いきや、ココアシガレットを指に挟んでいる姿がカッコいいと評判に
あいみょんがインスタに投稿し、話題を集めた1枚。たばこを吸っているのかと思いきや、ココアシガレットを指に挟んでいる姿がカッコいいと評判に

 ツイッターにも同じ投稿がされ、10万9000いいね!を獲得。あいみょんの飾らないカッコよさにレトロ感満載のココアシガレットがマッチし、SNSでバズったことがブランド人気の再燃につながった。

 さらに加熱式たばこ「IQOS(アイコス)」をモチーフにした「myCOS(マイコス)」も、「健康志向の高まりでココアシガレットが変貌」と、ツイッターで話題を集めた。18年6月に発売し、19年に入ってアマゾンの食玩部門ランキングで1位を獲得。商品名にひっかけてパッケージに描かれた舞妓(まいこ)のイラストは、インバウンドの需要を見込んでのものという。

加熱式たばこをモチーフにしたミント菓子「マイコス」は6本入り50円(税別)。大手たばこ会社からのクレームを乗り切るため、ローマ字表記を変更した(写真は「myCOS」に変更する前のパッケージ)。舞妓のイラストもしゃれが利いている
加熱式たばこをモチーフにしたミント菓子「マイコス」は6本入り50円(税別)。大手たばこ会社からのクレームを乗り切るため、ローマ字表記を変更した(写真は「myCOS」に変更する前のパッケージ)。舞妓のイラストもしゃれが利いている

パロディー菓子、世界企業に勝つ

 駄菓子ビジネスはこの半世紀で大きく変貌を遂げている。オリオン創業当時、主要販路だった駄菓子店は全国におよそ6万軒あった。しかし少子化に加え、塾に通う子供の増加や、テレビゲームなど遊びの多様化で、駄菓子屋が持つ“放課後のたまり場”としての役割が薄れ、次第に街中から駄菓子店が消滅し始めた。80年代後半にチェーン店の「だがし夢や」が開業した頃から、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで駄菓子が売られるようになったことも、駄菓子屋の減少に拍車をかけた。

 一方、同社は84年、本社内の工場に自動梱包ラインを設置し、生産の機械化に着手した。コンビニに商品を安定供給できるメーカーが少ないなか、商品バーコードを付けたことでコンビニの販路を開拓。90年代半ばには第2次駄菓子ブームに乗って、業績は一気に拡大した。

 創業以来守り続けてきたのが価格だ。「子供が手の届く価格」を重視し、ミニコーラは78年の発売以来1個30円、SNSで話題のココアシガレットもたった30円で手に入る。“30円の壁”を守るための企業努力も惜しまない。ミニコーラは70年代、2000年、現在と粒の大きさを少しずつ変えてきた。同じグラム数でも粒を大きくすることで製造時間が短縮でき、生産能力を30%アップできるからだ。

 「生産方法で工夫してコストを抑えることで値段を据え置きにし、お客様の信頼をつないできた。現在のミニコーラは4代目。改善、改良、改革をずっとやってきたから長く売れ続けている」と、高岡常務は胸を張る。

 ただ、主力商品がパロディー菓子だけに、著名ブランドや企業から抗議を受けることや訴訟を起こされることも少なくない。例えばミニコーラは発売の翌年、米コカ・コーラから不正競争防止法違反で警告を受けた。しかし飲料と菓子では分類区分が異なるうえ、日本市場での販売実績が認められ、10年にわたる裁判で勝訴。商標登録が実現したのは今から2年前のことだ。

 マイコスも当初は「myQOS」と表記していたが、米フィリップ・モリス・インターナショナルからのクレームを受け、「myCOS」と表記変更して切り抜けたという。世界の大企業を相手にした戦いで勝利を収められたのも、笑いの文化を企業風土に根付かせ、機転を利かせて苦境を乗り越えようとする大阪商人のサービス精神としぶとさのたまものといえるだろう。

平成はパロディー、令和は商標で商機つかむ

 「ミニコーラの勝訴で味をしめて、平成はパロディー路線で突っ走った。令和はブランディングの時代。企業とのコラボにも積極的に取り組み、ブランド力をさらに強化したい」(高岡常務)

 19年夏はココアシガレットとミニコーラでコラボ商品を展開。あいみょん効果で売り上げを伸ばし続けるココアシガレットについては、7月末からブランドロゴ入りiPhoneケースとスマホホルダーなどの販売をスタートした。

7月末から販売しているココアシガレットのスマホケース。ミニコーラやココアシガレットの商標を使用したグッズは今後増えそう
7月末から販売しているココアシガレットのスマホケース。ミニコーラやココアシガレットの商標を使用したグッズは今後増えそう

 猛暑で売れ行き好調だったのがミニコーラの氷菓だ。アイスクリームやゼリーなどの製造販売を手がけるセリア・ロイル(福岡県朝倉市)と協業した商品だ。

 「営業担当の娘さんから『ミニコーラのアイスを作ってほしい』という話があり、子供の夢をかなえるのが駄菓子屋の使命なので即答した」と高岡常務。懐かしいコーラ味のかき氷の中に、ミニコーラのラムネが入ったシンプルなアイスで、さっぱりとして口溶けがいい。パッケージも赤と白のミニコーラのデザインを踏襲しており、アイス売り場でも存在感を放ちそうだ。今回はテスト販売で19万個を限定生産。市場での反応が好調なことから20年度は本格生産を見込むという。さらに19年秋には、円谷プロダクションからの依頼で実現したウルトラマンとミニコーラのコラボ商品も登場する予定だ。

 子供たちに愛され続け、ロングセラー商品となったオリオンのパロディー菓子。40年を経た今、大人の子供心に触れる商品で新たな商機をつかもうとしている。

セリア・ロイルとのコラボで実現したミニコーラの氷菓。19年7月15日に発売し、西友、イオン九州、ライフなどで売れ行きは好調
セリア・ロイルとのコラボで実現したミニコーラの氷菓。19年7月15日に発売し、西友、イオン九州、ライフなどで売れ行きは好調
コーラ味のかき氷の中に、ミニコーラのラムネが入った「ミニコーラ氷」140円(税別)。20年度は増産し、本格的に販売する予定
コーラ味のかき氷の中に、ミニコーラのラムネが入った「ミニコーラ氷」140円(税別)。20年度は増産し、本格的に販売する予定

(写真/橋長初代)