大手企業が協賛に名のりを挙げ、若い世代のマーケティング手段としても注目されるeスポーツ。協賛対象であるeスポーツチームはどう見ているのか。サンリオや韓国サムスン電子などとのコラボも手掛ける古豪チーム「DeToNator(デトネーター)」代表の江尻勝氏に、eスポーツの可能性と課題を聞いた。

プロゲーミングチーム「DeToNator」代表/Ownerの江尻勝氏。小室哲哉氏や谷村新司氏などを担当する美容師/ヘアメークとして活動していたが、ネクソン運営のFPS『サドンアタック』でゲームに開眼。自身もプレーヤーとして活躍した後、2009年9月にDeToNatorを設立
プロゲーミングチーム「DeToNator」代表/Ownerの江尻勝氏。小室哲哉氏や谷村新司氏などを担当する美容師/ヘアメークとして活動していたが、ネクソン運営のFPS『サドンアタック』でゲームに開眼。自身もプレーヤーとして活躍した後、2009年9月にDeToNatorを設立

サンリオやサムスンと相次ぎコラボ

 DeToNatorは、ゲームやeスポーツの分野で最も有名なプロゲーミングチームの1つだ。設立は2009年9月。日本で“eスポーツ”という言葉が広がるはるか前に活動を開始した。現在はメンバーとして、バトルロイヤルゲーム『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)』や対戦型格闘ゲーム『ARMS』の大会で戦う選手、ゲーム配信プラットフォーム「Twitch」のライブ配信で人気のストリーマー(配信者)などを擁している。

 最近は、企業との取り組みにも積極的だ。ゲーミングブランドの「REPUBLIC OF GAMERS」(ASUS)や「Logicool G」(ロジクール)、ゲーミングチェアブランドの「DXRACER」(ROOM WORKS、兵庫県川西市)といったゲーム周辺機器メーカーからスポンサードを受けているのはもちろん、異業種とのコラボレーションの実績も目覚ましい。

 19年2月には、アマゾンのゲーミングデバイスキャンペーンに参加。Twitch上にある各ストリーマーのチャンネルにキャンペーンページへのバナーを張り、ゲーム配信の視聴者を誘導した。

 19年3月には、サンリオから声を掛けられ、同社が運営する「サンリオピューロランド」でDeToNatorのファンミーティングを開催。DeToNator所属の選手やストリーマーを中心に据えた企画を展開し、多くのファンを集めてきた。9月に開催される東京ゲームショウ2019では、サムスン電子のブースに共同出展する。

19年3月のDeToNator設立10周年記念ファンミーティングはサンリオピューロランドで開催。異なるファン層の来場に期待したサンリオからの声を掛けられたという
19年3月のDeToNator設立10周年記念ファンミーティングはサンリオピューロランドで開催。異なるファン層の来場に期待したサンリオからの声を掛けられたという
サンリオとは製品コラボも。Tシャツやタオルを販売している
サンリオとは製品コラボも。Tシャツやタオルを販売している
ゲーミングパソコンやゲーミングチェアなど、ゲーム周辺機器にはDeToNatorモデルもある
ゲーミングパソコンやゲーミングチェアなど、ゲーム周辺機器にはDeToNatorモデルもある

江尻氏が語る「プロゲーマー」とは?

 現在、日本でもeスポーツのチームや選手に協賛する企業は増えつつあるが、その一方で、プロチームやプロゲーマーに関する一般の認知はまだ低く、イメージは曖昧なままだ。業界団体の日本eスポーツ連合(JeSU)は、公認タイトルについてプロライセンスを発行しているが、ライセンスがなくても国内外の大会に出場している選手や、企業からスポンサードを受けている選手もいる。

 eスポーツにおけるプロとはどんなものか――。江尻氏に問うと、「本来、プロプレーヤーとは、給料をもらってその競技にフルタイムで取り組み、プロリーグなどの輪にも参加している人のこと。そう考えると、日本のeスポーツ業界にはほとんどいない」という答えが返ってきた。

 野球やサッカー、バスケットボールなど、プロリーグがある競技では、選手が活躍できる大会や試合があり、それを多くの観客が見る環境が整っている。大会や試合の運営もマネタイズできている。こうした環境があって初めて、プロはプロとして生きられるというのが江尻氏の考えだ。

 「eスポーツ元年」と呼ばれた18年以降、日本でもeスポーツの市場は急成長し、高額な賞金が設定された大会も成功を収めてきた。しかし、チーム、プレーヤー、大会のいずれも、協賛企業からのスポンサー収入が頼りだったり、ゲームタイトルを持つメーカーが自社で主催することでようやく回っていたりというのが実情。ごく一部を除いてプロが生きていけるだけの競技シーンが成立しているとは言いがたい。

 「実際、DeToNatorでもプロと言えるのは、韓国で開催されている『PUBG』のプロリーグ『PUBG KOREA LEAGUE』に参加しているチームくらい。同リーグは規約上、所属団体とのプロ契約を出場の条件としている。つまりリーグ自体がプロであることを要求している。しかも、リーグの運営もきちんとマネタイズできている」(江尻氏)そうだ。

『PUBG』のプロリーグ「PUBG KOREA LEAGUE」に参加するDeToNatorのメンバー
『PUBG』のプロリーグ「PUBG KOREA LEAGUE」に参加するDeToNatorのメンバー

協賛企業にはデータで価値を説明する

 eスポーツの競技環境が整っているとはまだ言えない状況で、江尻氏は、所属の選手たちをどうサポートし、チームを存続させてきたのか。取り組みの要は、スポンサー企業の獲得とチームとしての収益源の拡大だ。

 現状、DeToNatorの主たる収益は、スポンサー企業からの協賛金。スポンサー企業と話す上で、江尻氏はDeToNatorに何ができるのかをデータで示すことを強く意識しているという。企業に渡す資料には、メンバーのTwitterのフォロワー数、ウェブサイトのページビュー、ストリーマーが配信するライブ配信の視聴者数や年齢層、コラボ商品の販売数といった実績データが並ぶ。江尻氏は海外のeスポーツチームなどとの交流によって、数字が持つ説得力の高さに気づいたそうだ。

 「eスポーツというのは、ゲームを使ったコンテンツの1つ。だから、各企業が業績を上げるために、ゲームというジャンルでDeToNatorはこういう協力ができますよ、と示さなければいけない」(江尻氏)。そうすることで、プロゲーミングチームには、テレビCMなどの従来型広告とは一線を画す、新しい広告媒体としての価値があることを理解してもらうという。

 「中には、『若い人が頑張ってるんだからサポートしよう』と言ってくれる企業もある。でも、そういう支援は、企業の状況によっていつ切られるか分からない。選手は所属するチームに、チームはスポンサーにきちんと“対価”を提供できてこそ、パートナーとしての関係ができる」というのが江尻氏の信念だ。

DeToNatorが企業向けに作成している資料。50ページ以上あり、DeToNatorの来歴から今まで開催したイベントの紹介、ウェブサイトのページビューやライブ配信の視聴者数といったデータが並ぶ。相手企業に応じて、抜粋して渡すこともあるという
DeToNatorが企業向けに作成している資料。50ページ以上あり、DeToNatorの来歴から今まで開催したイベントの紹介、ウェブサイトのページビューやライブ配信の視聴者数といったデータが並ぶ。相手企業に応じて、抜粋して渡すこともあるという

チームとしての収益源拡大に成果

 もう1つ、注力しているのがチームとしての収益源の拡大だ。江尻氏は、「スポンサーが仮にいなくなってもチームを維持するために、チーム自体が収益を生む方法を確立する必要がある」と説く。

 そのための行動指針として掲げるのが、「若いプレーヤーの育成と教育」「ストリーマーの広告価値の提案と事業化」「海外を中心にした競技シーンへの継続的な挑戦」の3本の柱だ。

 1つ目の若いプレーヤーの育成と教育では、バンタン(東京・渋谷)が運営するエンターテインメント関連の専門学校「バンタンゲームアカデミー」と提携。カリキュラムを共同作成したり、チームのメンバーを講師として派遣したりしている。

 2つ目のストリーマーの広告価値の提案と事業化では、メンバーのライブ配信による広告収入の拡大を進める。他に、オリジナルグッズの販売や、ゲーム関連イベントの企画協力、eスポーツ関連のコンサルティング業務も行う。3つ目の海外を中心にした競技シーンへの継続的な挑戦は、当然ながら、プロゲーミングチームとしての意義と存在感を維持、強化するために必須のことだ。

 「18年の段階では、スポンサーからの資金援助と、DeToNatorとしての売り上げの比率は8対2だったが、いずれは逆転させ、2対8にもっていきたい」と江尻氏。進捗のほどを尋ねたところ、「非常に順調」と自信を見せた。

 中でも、所属するストリーマーがTwitchで行っているライブ配信の総視聴者数は伸びが大きい。18年に4700万人強だったのに対し、19年は1~5月までで3000万人を超えた。「19年は7000万人を超えそうな勢い」(江尻氏)で、これがチーム自体の収益に結びついてきているのだ。さらに、今進めている案件が順調に進捗すれば、収益の比率は逆転。19年中に4対6程度でスポンサー収入を上回る見込みだそうだ。

DeToNatorに所属するストリーマー。左からYamatoN氏、SPYGEA氏、StylishNoob氏、SHAKA氏
DeToNatorに所属するストリーマー。左からYamatoN氏、SPYGEA氏、StylishNoob氏、SHAKA氏
SHAKA氏らストリーマーはTwitchやYouTubeでプレーの様子を配信して人気を集めている
SHAKA氏らストリーマーはTwitchやYouTubeでプレーの様子を配信して人気を集めている

eスポーツリーグ「RAGE」に寄せる期待

 DeToNatorはチームとしての収益基盤を着実に築いているが、その一方で、江尻氏は現状の問題も指摘した。eスポーツという言葉が浸透するにつれて、それを誤解した人や企業が増えてきたことだ。

 「『もうかるんですよね? どうやってビジネスにしたらいいですか?』と僕の元にやってくる人や、『施設やチームを作って新たな市場を生み出したい』と、理想論で固めたプレゼン資料を作ってくる人がいる。eスポーツのイベントを開けばお金が出る、ゲーミングチームを作ったら協賛スポンサーがつくと勘違いしている企業が増えている」(江尻氏)。つまり、eスポーツを取り巻くビジネスに対し、「スポンサー企業にどれだけお金を出させるか?」という視点しか持たずに参入しようとする企業が増えているというのだ。

 前述のようなチームの詳細なデータを、江尻氏がスポンサーに提示するのも、そうした企業と区別するため。eスポーツにスポンサーとして協賛しようと考えている企業にも、江尻氏は「その大会やチームをよく精査した方がいい」とアドバイスする。

RAGEには日本のeスポーツの可能性がある

 一方で、期待を寄せるのが、CyberZとエイベックス・エンタテインメント、テレビ朝日が共同で運営している日本最大級のeスポーツのイベント「RAGE(レイジ)」だ。

 今後、eスポーツが定着していくためには、競技シーンの成長は不可欠だ。日本においても、プロゲーマー、プロチームが活躍できる競技シーンを目指すなら、理想は既存のプロスポーツと同様の仕組み、市場を作り上げることだろう。

 「その最先端にあるのがRAGEだと思う」と江尻氏。同イベントを評価しているのは、協賛企業の資金を頼りにするだけでなく、自ら投資して市場開拓と整備をしているところだ。「どう転ぶかまだ分からない黎明(れいめい)期だからこそ、どこかがお金を出して、プロがプロとして活躍できる場を作り、育てる必要がある。RAGEはそれを率先してやっている。ノウハウが蓄積され、資金も集まれば、いろんな大会を主催できる可能性を秘めている。世界に負けないイベントになるかもしれない」と語った。

(写真/志田彩香、写真提供/DeToNator)

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