スマートフォンで世界シェア4位の中国メーカー「シャオミ(小米)」。商品のデザインや直営店を中心とした販売スタイルから「中国のアップル」とも称される。しかし今や、単なるスマホのブランドではない。家電製品や日用品、食品の販売にまで手を広げ、ライフスタイルブランドになろうとしている。
シャオミは2010年4月に設立。僅か9年で80の国や地域に販路を拡大し、世界シェアは8.9%(2019年1~3月期、米IDC調べ)。韓国のサムスン電子、中国のファーウェイ(華為科技)、米アップルに次ぐ世界第4位だ。18年7月には香港株式市場への上場を果たした。
日本市場には進出していないため、その実力があまり知られていないシャオミ。創業期には「中国のアップル」と称された。高いブランド力を有するアップルのiPhoneの戦略を露骨に模倣したためで、スマホのデザインから、商品発表会でのプレゼンテーションのスタイルまでアップル風。手ごろな価格の割に性能や質感が優れていたことから、中国など途上国を中心に人気が高まった。インターネット販売に加えて、アップルストアとよく似た専売店「小米之家」を中国の主要都市に展開。販路を自社で管理できる範囲にしぼり、ブランドイメージをコントロールしてきた点も特徴だ。
創業から10年近くが経過した今、その姿はアップルの模倣という枠を超え、独自の進化を遂げている。19年6月にリニューアルオープンした中国・上海の旗艦店を訪れて、そう実感した。
上海の旗艦店は、市内中心部のショッピングセンター「上海大悦城(JOY CITY)」にある。以前は3階に売り場があったが、今回、路面店にリニューアル。しかも、1階と2階の2層構造になり、売り場面積が大きくなった。
1階の売り場の一番手前には、最新のスマートフォンやスマホアクセサリー、ノートパソコンが並べられている。この雰囲気は、広告も含めてアップルストアとよく似ている。
しかしその横の壁に目をやると、アップルにはない製品群が所狭しと掛けられていた。シャオミ自らが企画・販売しているスマートテレビだ。高機能な割に価格が安いのが特徴で、同社の決算資料によると、19年上半期、中国のスマートテレビ市場で出荷台数1位を獲得。グローバルでは5位のスマートテレビメーカーになったという。最新モデルの65型4K壁掛け液晶テレビ「Mi Mural TV」はスマートスピーカー機能を内蔵して、6999人民元(約10万5000円)。音声対話で天気情報を確認したり、映画コンテンツを探したり、IoT家電の遠隔操作ができたりする。旧来のテレビメーカーが、AV機器を起点にネットサービスとの融合を進めるのとは対照的に、シャオミはネットサービスを起点にAV機器に進出した形。米アップルや米グーグルですら、映像関連のハードウエアはテレビに接続する外付けストリーミングデバイスにとどまっており、シャオミは一歩先を行っているように見える。
さらに驚くのは、その奥に白物家電の売り場まであったことだ。ロボット掃除機、ドラム式洗濯機、空気清浄機、エアコンなどがあり、どの家電も白を基調としたシンプルなデザイン。どことなく無印良品とイメージが重なる。ただ、機能面もシンプルな無印とは異なり、いずれもIoT機能が付いているのが売り。スマホからスタートしたメーカーならではの発想だ。ちなみに、これらの家電にはシャオミではなく、シャオミのスマートホーム機器を意味する「米家(Mi Home)」というブランドが付けられており、同名のアプリで、さまざまな家電を一元管理できる。
アパレル、日用品、食品までそろうセレクトショップ
ここまでなら、スマホを起点に黒物家電、白物家電へと商品群を拡大していく、新しい時代の家電メーカーの一つと解釈できる。しかし、シャオミの事業領域はそこにとどまらない。家電売り場の先に並べられていたのは、スーツケースにバックパック。いずれもシャオミのオリジナル商品だ。スマホで築き上げたスタイリッシュなブランドイメージを生かし、家電以外の分野へも進出を始めているのだ。
2階の売り場に上がってみると、そのイメージはさらに強まる。売られているのはハンディ扇風機や電動歯ブラシといった小物家電から、Tシャツなどのアパレル、食器や寝具などの日用品まで幅広い。何と飲料まで売られていた。
さすがにこれらの商品全てを、シャオミが企画販売しているわけではない。シャオミが自らの世界観に合った商品を集めて販売するセレクトショップの位置づけで、「小米有品」と名付けられている。ネット販売も行われており、サイトでは「シャオミの『ニューリテール戦略』で重要な役割を担う」と説明。今、中国ではアリババなどが、ネット通販とリアル店舗を融合させるニューリテール戦略を進めているが、シャオミもこの時流に乗ろうとしている。
では、シャオミの世界観とは何か。ウェブサイトの説明によると「華美でなく、コストパフォーマンスに優れること」「美しく、品位があること」「スマートデバイスでなくても、最新の技術や材質を用いていること」とのこと。こうした価値観を共有するブランドを「シャオミエコシステム」に組み込み、事業の伸長を図っている。
ライフスタイル製品事業が大幅な伸び
シャオミの2019年上半期の売上高は957億人民元(約1兆4364億円)。そのうちスマートフォン事業は590億人民元(約8855億円)で、IoTライフスタイル製品事業は270億人民元(約4052億円)だった。前年同期と比べると、スマホ事業が9.8%の伸びなのに対し、IoTライフスタイル製品事業は49.3%増。スマホ以外の事業伸長が著しい。中国以外ではまだスマホメーカーのイメージが強いが、スマホでシェアトップを維持しつづけているインド市場では、スマートテレビも展開。今後、海外市場にもIoTライフスタイル製品群を導入していくとみられる。
スマホメーカーから総合家電メーカー、そしてライフスタイルブランドへ――。シャオミの歩む道は、デジタルネイティブ世代へ向けたブランド拡張策として興味深い。