レモンサワーブームもあり、缶チューハイが店頭をにぎわせている。350ミリリットル缶で実売価格120円前後の商品が多い中で異彩を放っているのが、実売価格300円前後(税別)という缶チューハイとしては高額な博水社(東京・目黒)の「ハイサワー缶PREMIUM 沖縄シークヮーサー×レモン」だ。
博水社の主力商品は割り材の「ハイサワー」シリーズで、初のアルコール飲料となる「ハイサワー缶」を発売したのは2013年のこと。ハイサワー缶は350ミリリットル缶で実売価格165円前後と缶チューハイの中ではやや高額だが、高級スーパーを中心に売り上げを伸ばしている。博水社の田中秀子社長によると前年比約2倍の売れ行きだという。
そして19年4月には、新製品「ハイサワー缶PREMIUM 沖縄シークヮーサー×レモン」(以下、ハイサワー缶PREMIUM)を発売した。実売価格300円前後で、缶チューハイとしては異例の高額製品だ。
ハイサワー缶PREMIUMは高級路線を目指して作られたわけではない。田中社長は「高級品を作ろうとしたわけではなく、中身にこだわっていくうちにこの価格になった」と話す。きっかけはハイサワー缶の売れ方だ。
レモン果汁7%のハイサワー缶は成城石井など高級スーパーで人気が高く、購入者は他社製品に比べて女性比率が高いという。また、何本も飲むのではなく、1本だけ飲むような飲み方をする人が多いという。
「売り場を見ていると、女性が1本だけ買っていくことが多い。1本買って、それを大事にじっくり飲むという飲み方だ。二日酔いで翌日に響かないよう、そうした飲み方をしたい人は男女問わず多いのではないか」(田中社長)
ハイサワー缶PREMIUMは、“大事に飲む”需要に応えられる味を目指した製品だ。沖縄産シークワーサーのストレート果汁とシチリア産レモン果汁を使っているのが特徴で、果汁17%と果汁の割合が高い。
シークワーサーは海外の同種の安価なかんきつ類ではなく、沖縄産の“本物”を使っている。価格が高いうえ、濃縮還元でないストレート果汁を使うためコストがかかる。それでも素材にこだわったのは、1980年発売のロングセラー「ハイサワーレモン」の経験から、「長く愛好される製品は、素材にこだわったシンプルなものだと学んだから」(田中社長)だ。
開発には苦労もあった。最初はシークワーサーを使った割り材を作ろうとしたが、お酒と合わせると苦みが強くなってしまうため、苦みの少ないシチリア産レモンと合わせることで飲みやすくした。「果汁17%」とは半端な数字に見えるが、これは味を追求した結果だ。「レモンやお酒との比率を数えきれないほど試して、味が一番良かったのが果汁17%だった」(田中社長)。割り材ではなく缶チューハイの形で発売したのも、その完成した比率を崩したくなかったからだ。
ハイサワー缶PREMIUMは好調で、これまでの缶チューハイとは少し違う売れ方をしているという。「プチぜいたく、プチご褒美として自分で飲むために買う人や、母の日に贈るためなどプレゼント用に買う人がいる。“ちょっといいもの”という捉え方をされているのではないか」(田中社長)
地元重視が全国につながった
缶チューハイは大手メーカーからプライベートブランド(PB)まで、1年間に非常に多くの新商品が発売されている。ハイサワー缶の発売当初は全国展開を考えていたが、大手の製品に比べて価格が高いこともあり、取り扱ってくれる業者が少なく売り込みに苦労した。「もう販売をやめようと思うこともあった」(田中社長)という。
「博水社の規模では、大手のように頻繁に新商品や大量の広告は出せない。スーパーの陳列棚に並べてもらえても、広告費用をかけた大手の製品が発売されると、すぐ置き換えられてしまう。そこで全国展開は諦めて、ハイサワーを支えてくれた地元や、おいしいと言ってくれるファンを大事にしようと思った」(田中社長)
全国よりもまず地元である東京・目黒で売ろうと、パッケージに“東京目黒”と入れ、地元の酒屋や飲食店を中心に売り込みを行った。するとインターネットを中心に目黒のご当地物として注目が集まり、人気が広がり始めた。その評判を聞きつけた成城石井が販売をはじめ、さらにそれを見た他の高級スーパーなどが取り扱うようになり、結果的に全国展開につながった。
「味や品質にこだわった商品を扱っている成城石井は、他の小売業者に注目されている。そこで取り扱ってもらったことが大きい。品質にこだわり、地元やファンを大事にすることが人気につながった」(田中社長)
ハイサワー缶PREMIUMも同様に品質にこだわる姿勢から生まれた。ハイサワー缶とともに、ハイサワーのようなロングセラー商品になりそうだ。
(写真/酒井康治)