「目に優しいグリーンノートを作ってほしい」――。視覚過敏の女子高生の切実なツイートを見た東急ハンズが販売を開始したところ、「目に優しい」とその他のユーザーにも受け、約1カ月で3300冊も売れるヒットとなった“中の人”とバイヤーの連携による隠れた需要への迅速な対応が成功の鍵だった。

東急ハンズはツイッター公式アカウントの“中の人”とバイヤーとの連携でグリーンノート需要にいち早く対応した。(左から)“中の人”を担当するデジタル戦略部長の本田浩一氏と、MD企画部バイヤーの山内里紗氏
東急ハンズはツイッター公式アカウントの“中の人”とバイヤーとの連携でグリーンノート需要にいち早く対応した。(左から)“中の人”を担当するデジタル戦略部長の本田浩一氏と、MD企画部バイヤーの山内里紗氏

切実なつぶやきに各メーカーが反応

 グリーンノートは一般的な白地のノートと違い、地の部分が淡い緑色になっている。発端となったツイートが投稿されたのは2019年6月9日。視覚過敏のため白地では光が反射して鉛筆の字が見づらく、良質の紙であるほど反射で目が痛かったという。中学のときに母親が買ってきたグリーンノートが使いやすく、まとめ買いしていたものの、高校入学後にメーカーが倒産したため手に入らなくなった。「市販のカラーノートはかわいいリングノートがほとんどで授業では使えない」という、切実な悩みがつづられていた。

 このツイートが大きな反響を呼び、投稿当日に3万を超える「いいね!」がついた。「初めて視覚過敏という言葉を知った」と、ネットで見つけたグリーンノート情報を知らせてくれる人もいたほか、「自分も似た症状で困っている」という共感や、この症状の存在を広めてくれたことへの感謝のツイートなどが相次いだ。中には「視覚過敏ではないが、こっちのほうが目に優しそうだから使ってみよう」と疲れ目対策で使用を検討する声も。

 1人の女子高生による切実な悩みのつぶやきは、多くのユーザーの潜在的なニーズをあぶり出したのだ。

 早速、流通やメーカーも動いた。投稿翌日にロフト公式アカウントがECサイトで販売中の商品を紹介したり、多様なサイズのグリーンノートの追加入荷が決定したことを知らせたりした。2日後にはコクヨが要望に近い商品を紹介。3日後には水平に開くノートが「おじいちゃんのノート」として話題になった中村印刷所が、色みやページ数などの希望をツイート主に尋ね、無料でグリーンノート製作に乗り出した。

中村印刷所の特徴的な水平開きノートは通常方眼だが、グリーンノートはツイートした本人の希望でケイ線でも作った
中村印刷所の特徴的な水平開きノートは通常方眼だが、グリーンノートはツイートした本人の希望でケイ線でも作った

 いち早く実店舗での取り扱いを始めたのが東急ハンズだった。最初の“悩みツイート”から5日後の19年6月14日に、全国の16店舗でとじノート4種、リングノート3サイズ、ルーズリーフ2種を並べた。

 当時ハンズで販売していたカラーノートは、かわいいデザインノートが多く取扱店舗も限られていた。視覚過敏に起因するグリーンノートへの需要は把握していなかったという。そこでまずは取引があり、グリーンノートの在庫があるメーカーから早急に取り寄せた。

隠れた需要に中の人とバイヤーが即座に反応

 発端となったツイートについて東急ハンズ公式アカウントで“中の人”を担当するデジタル戦略部長の本田浩一氏は、「フォロワーから教えていただき、バイヤーに持ち掛けたら、そちらも既に動き出していて驚いた。口説き落とす必要はなかった」という。通常、ツイッターが店頭の品ぞろえに影響を与えるのはフォロワーからのリクエストが発端となることが多く、バイヤーにその商品の魅力を伝えて口説かなくてはならないという。しかし今回は注目度の高さからバイヤー側もほぼ同時に事態を把握し、反応していた。

 東急ハンズMD企画部バイヤーの山内里紗氏は、「ツイート翌日に別のバイヤーから『話題になっている』と。視覚過敏ではない人でも目に優しいなどの利点があり、導入することにした」と話す。

16店舗でグリーンノートを発売すると知らせるツイートを4日後に発信し、翌日には店頭に並んだ
16店舗でグリーンノートを発売すると知らせるツイートを4日後に発信し、翌日には店頭に並んだ

 最初につぶやいた女子高生には直接取り扱いを開始することを返信し、感謝と購入の意思が伝えられた。店舗での取り扱いを告知するツイートにも、感謝の声が相次いだ。

 「私も視覚過敏だという人から『小さい声も拾ってくれてありがとうございます』と言っていただいた。こちらこそ、気づかなかった需要や我々が役に立てる商品があることを教えてもらい感謝している」(山内氏)

「今後もあらゆる人にとって使いやすいものを意識して選んでいく」と山内氏は語る
「今後もあらゆる人にとって使いやすいものを意識して選んでいく」と山内氏は語る
目に優しいと分かるシールで他のノートと差別化した。選びやすさや需要の喚起につながる
目に優しいと分かるシールで他のノートと差別化した。選びやすさや需要の喚起につながる

 本田氏はツイッターを通じたマーケティングについて、「フォロワーはハンズのスタイルをよく理解しているため、的確な情報を提供してくれる。ツイッターでは突然このような波が起きるので、すぐ対応できるよう常にアンテナを張っていきたい」と、その重要性を述べる。

本田氏は、「ハンズは問題解決の面でとても期待されている。それに応えようという社員が多い」という
本田氏は、「ハンズは問題解決の面でとても期待されている。それに応えようという社員が多い」という

 グリーンノートへの反響は大きく、販売から約1カ月たった7月も6月と同水準の売れ行きが続き、取扱店舗も35店に増えた。最初は在庫限りの仕入れだったが、再販をかけた商品もある。前述の中村印刷所が製作した水平開きのグリーンノートを7月末から入荷次第順次発売し、19年8月5日にはグリーンノートの累計販売数が約4150冊に上った。グリーンノートのヒットが一過性に終わらなければ、多くのユーザーにとって目に優しいだけに、新たなスタンダードとして受け入れられる可能性がある。

グリーンノートはノート界の新たな定番商品になるかもしれない
グリーンノートはノート界の新たな定番商品になるかもしれない

(写真/中村宏、写真提供/東急ハンズ)