白馬観光開発(長野県北安曇郡白馬村)は、インバウンド需要の高まるスキー事業に加えて地域のオールシーズンのリゾート化を進め、「白馬マウンテンビーチ」を開業。海外の飲食店などの国内上陸を手掛ける著名プロデューサーが参画し、若年層の呼び込みや地域経済の活性化に拍車を掛ける。
まるで南国リゾート、アウトドア初心者やF1層に訴求
標高1400メートル、八ケ岳や浅間山を見渡す白馬八方尾根のうさぎ平テラスの屋上に「白馬マウンテンビーチ」がオープンした。グリーンシーズンの開業期間は2019年7月26日から同年10月27日まで。施設全域にビーチパラソルやビーチベッドが置かれ、水着に着替えて入場するサウナ&ジャグジーエリアでは、山岳風景を楽しみながらビーチリゾート気分を満喫できる。
サウナ人気にあやかって、スキー場という土地柄を生かした「ゴンドラサウナ」2台のほか、白馬産の薪を使った「テントサウナ」もあり、サウナで汗をかいた後はジャグジーや水風呂に入れる。水着はレンタル可能で、サウナ・ジャグジーの利用料(2時間税込み1500円)と合わせても3000円以内に収まる。
フリースペースにあるバーでは、地域の食材を使用したカフェ感覚のメニューがそろう。主な価格は「白馬産ブルーベリーのパフェ」が1200円(価格はすべて税込み)、「白馬豚と信州牛のスモークチーズバーガー」が1400円、「白馬産ブルーベリーのエルダーフラワーソーダ」が700円。
白馬観光開発は18年8月にフランス発のアドベンチャー施設を日本に初上陸させた「白馬つがいけWOW!」、同年10月には米ニューヨークの老舗ベーカリー「THE CITY BAKERY」の味と、目の前にそびえ立つ白馬三山の眺めを同時に楽しめる絶景テラス「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR(ハクバ マウンテンハーバー)」を開業。白馬マウンテンビーチは第3弾に当たる。
「白馬とはどこか、それすらも知らない若い世代も呼びたい」と、白馬観光開発の和田寛社長は意気込む。特に情報感度の高い若い女性(F1層)や全く山に親しみのないアウトドア初心者に、白馬まで上ってもらうきっかけにしたい考えだ。
3つの“非日常”エリアでマウンテンリゾート化戦略
白馬村をスキー客以外も呼び込めるオールシーズンの“マウンテンリゾート”にして、地域の価値を高めるのが和田社長の戦略だ。同社長は東京大学を卒業後、農林水産省に入職。その後、経営コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーを経て、白馬観光開発の親会社である日本スキー場開発に入社した異色の経歴を持つ。
17年に現職に就くと、18年夏に白馬つがいけWOW!、その2カ月後にハクバ マウンテンハーバーの営業を開始した。
「スキー場は非日常感を味わっていただく場所でもある」と和田社長が話すように、3つの施設でも、白馬の自然を生かした非日常感の演出に重点を置いて集客を狙っている。そこで今回、従来にない魅力づくりを目指し、総合プロデューサーに海外の人気飲食店の国内出店や空間プロデュースなどを数多く手掛ける、トランジットジェネラルオフィス(東京・港)の中村貞裕社長を起用した。
中村氏にとってこの案件が長野県での初仕事。これまで東京で培ったノウハウを地方都市の活性化に生かせないかと、積極的に地方の仕事にも取り組んできた。「(白馬には)素晴らしい絶景というポテンシャルがもともとあるが、(白馬マウンテンビーチは)“山に海”という設定付けによって非常にユニークな施設になった」と中村氏。
こうして白馬マウンテンビーチが誕生し、白馬つがいけWOW!、ハクバ マウンテンハーバーと合わせて、白馬エリアの観光のあり方を大きく変える“トライアングル”が完成した。
他社企業に声を掛け白馬で協業、集客効果に期待
近年、白馬八方尾根には春から秋のグリーンシーズンに10万人強が訪れる。年間来客数の約20%で、その多くがトレッキング客だ。和田社長は白馬マウンテンビーチで若年層を集客し、この時期の来客数を全体の3割にまで引き上げたいと考えている。その対策として、白馬観光開発は以前から外部のノウハウを積極的に取り入れてきた。今回の中村氏の起用もその一環といえる。
それ以外にも複数の企業がパートナーとしてプロジェクトに参画している。18年2月にはうさぎ平テラスの1階にカフェを新設し、スターバックスがドリンク提供を開始。白馬マウンテンビーチでは協賛企業として「コロナビール」の販売元であるアンハイザー・ブッシュ・インベブ ジャパンと、ファッションブランド「ロキシー(Roxy)」のボードライダーズジャパンなどが名を連ねる。コロナビールはスペースの一角のディレクションを担当し、ロキシーは貸し出し水着を提供する。
19年7月13日に開場した「IWATAKE GREEN PARK(イワタケグリーンパーク)」には、大手アウトドアメーカーのスノーピークが参画。同社監修の下、白馬岩岳のゲレンデ山頂付近をリニューアルした(関連記事「スノーピークがグランピングの最高峰ブランド 第1弾は八方尾根」)。“山頂シェアオフィス”として大自然の中で仕事ができる「森のテラス」や、「プライベートデッキ」など、用途ごとに異なる5つのエリアがあり、スキー場の休業時期に営業する。
白馬観光開発が外部企業とタッグを組み、短期間で白馬一帯のマウンテンリゾート化を推し進める背景には、国内のスキー市場の縮小や施設の老朽化の問題がある。その解決策が、1年中観光客を呼べる「白馬村のマウンテンリゾート化」だ。
「東京で暮らしている僕らからすると、この場所の絶景だけで非日常的な空間。冬にスキー場を運営している所で、景観を観光資源に集客している海外事例を見ているので、ここは日本にとって可能性がある」と中村氏。今回のプロジェクトを進める中で「白馬観光開発の思いに非常に熱いものを感じた」(中村氏)。
海外では冬でもスキー場の目の前でプールやジャグジーに入ってくつろぐのが普通に見られる光景だという。白馬マウンテンビーチはいったん10月で運営を終了するが、基本的には冬期の継続営業も視野に入れている。
(写真/丹野加奈子、写真提供/白馬観光開発)