興行収入250億円、観客動員1900万人、歴代の邦画の興行収入2位。革命的なヒットとなった『君の名は。』から約3年。新海誠監督の次作となるオリジナルアニメ映画『天気の子』が、2019年7月19日に公開となった。初日から3日間の興行収入は、『君の名は。』の約128.6%のスタートダッシュを見せた。そして7月29日には、公開後11日間で観客動員300万人、興行収入40億円を達成したと東宝が発表。絶好調の『天気の子』の軌跡について、新海監督の公開直後の思いを聞いた。
11日間で興行収入40億円達成という数字の感想を聞かせてください。
新海誠氏(以下、新海氏) ああ、数字が出たんですね。300万人40億円。素晴らしいですね。ひとまず正直な感想として、安心しました。「いくら以上達成するのがあなたの仕事ですよ」と言われているわけではありませんが、チーム全体としては、当然「大ヒットですよね」という空気はにじませるわけです。というより、映像製作のチームはそういう意識はしていないのですが、企画会社や配給会社は大ヒットを狙う気持ちでいて、その上ですごい宣伝をやってくれていますから。僕の監督としての役割はヒットの数字を作ることではなく、観客の期待に応えて何をどう届けるかという部分だとは思いつつも、やはり単純にホッとしました。
映画が完成したのは、7月7日と公開直前。そこで完成して初めて世間を見渡すと、ものすごい宣伝が始まっていました。電車に乗っても駅でもバスでもコンビニでも。テレビをつければCMをやっている。ざわざわとした変なプレッシャーはその時点から来ましたね(笑)。
『君の名は。』の250億円という重圧があったんじゃないかと心配されますが、脚本を書き始めるときはそうでもないんです。なぜなら、海外の映画ならいざ知らず、国内の映画で「これをやれば何十億」という明確なヒットのノウハウは、おそらくどの監督も持っていない。じゃあプロデューサーの川村元気が何か法則を持っているのかというと、知りませんけど(笑)、おそらくないです。
だから数字を最初に考えても仕方がない。とにかく、いい作品を作ることが課題で、それが数字に結び付けばいいなと思う。もっといえば、作品の「いい」「悪い」は、観客の判断なわけで、もう少し客観的な指標として「面白い」映画かどうかがあると思う。「嫌いだし、悔しいけど面白い」「退屈はしなかった」「意味が分からないけど泣いてしまった」。こうした思いは、全部「面白さ」だと思います。それをどうやって達成するかは、ひたすら考えていました。
3年という製作期間は短くはなかったですか。
新海氏 細田守監督も最近は3年ペースを保っているし、宮崎駿監督の初期はもうちょっと早いペースだったかと思うので、僕たちが特別早く製作したとは思いません。でも、やってみて実感することは、これ以上短くすることはできない。
では4年、5年あればいいのかというと、そうでもない。時間をかけすぎると、お客さんが見たいものはこうじゃないか、僕はこういうものを作りたいという気分が、だんだんずれていってしまうと思うんです。
じゃあ、3年前に今の世の中でヒットするものを予測していたかというと、それは無理です。未来予測は僕の仕事ではないし、そんなことをしても意味がない。ただ、『君の名は。』の製作が始まったのは14年で、『天気の子』はだいたい17年から。この3年でずいぶん世の中は変わっています。例えば、確実に人々は貧しくなっている。帆高も陽菜もお金がないという描写は、『君の名は。』ではなかったことです。キラキラした部屋よりも、狭くて古い部屋で工夫して快適に過ごしているというほうが、お客さんの気分には合っている。
もう一つ、天気の話としては、夏が暑くなっているのは確かです。気候変動を認める人とそうでない人がいるけれども、科学的には確実にそうなっていて、当然雨がたくさん降る。来年、再来年の夏はきっと雨が多いんだろうな、と思っていました。今年の梅雨が長かったのはたまたまですが。
このコンテンツは有料会員限定です。お申し込みをされますと続きをご覧いただけます。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー