LINEが新たにAIビジネスに参入する。チャットボットや音声認識といった技術で企業の業務効率化を支援する。GoogleやAmazonなどの海外製AIが日本でも浸透しているなか、同社はどのように戦うのか。鍵はLINEが持つ“日本語”に関する膨大な量のデータだ。
「日本語ファースト」のAI開発で勝負を挑む
LINEが2019年7月23日に発表したAIソリューション「LINE BRAIN」は、LINEが保有するチャットボットや音声認識、光学式文字読み取り装置(OCR)、音声合成などの技術を企業に提供するサービス。企業はLINEが持つ技術を使いながら自社のAIを育て、業務改善や顧客対応に活用できる。
既に日本にはGoogleをはじめグローバル企業のAIが浸透している。LINEはどこに勝機を見出したのか。同社LINE BRAIN室の砂金(いさご)信一郎室長は「自然言語処理の観点に立つと、我々は日本語ファースト、そしてアジア言語圏ファーストの開発により、彼ら(海外企業)がプライオリティーを置きにくい言語やライフスタイルで優位性が作れる」と語る。
AI学習には膨大なデータが必要となるが、日本語に関する大量のデータを収集できるのがコミュニケーションアプリ「LINE」だ。LINE利用者は日本が最多で、月間アクティブユーザー数(MAU)は8000万以上に上る。多くの日本語データが集まるのは容易に想像がつく。
米マイクロソフトに在籍経験のある砂金室長は、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などのグローバル企業は英語圏でのサービス展開は得意なものの、「日本語に特化し、日本のマーケットに向けてすごく凝ったものを作ろうとするのは、今の状況だとやりにくい」と見る。グローバル企業の規模感を考えれば、小さな日本語圏よりも全世界に広がる英語圏に力を注ぐほうがいいと考えるのは当然だろう。
「(日本語の)学習素材を集め、ソリューションのパターンを増やす点に関しては(グローバル企業よりもLINEに)優位性がある。彼らが実現できていないところを我々が埋められると思っている」(砂金室長)
さらに台湾やタイ、インドネシアを含めればLINEのMAUは合計1億6000万以上。LINEは日本をはじめとするアジア地域でAI開発をリードするつもりだ。
技術の組み合わせにより、AIによる自動電話対応も可能に
他にも「LINE BRAIN」をベースにしたサービス「DUET(デュエット)」も提供する。同サービスは飲食店における電話予約やキャンセルをAIで対応できるようにしたもの。チャットボットと音声認識、そして音声合成の技術を組み合わせて実現する。
DUETはまだ開発段階だが、LINEの事業説明会では飲食店の予約システムを提供するエビソル(東京・渋谷)と飲食店の予約サービスを提供するBespo(ビスポ、東京・港)との協業が発表され、実証実験に向けた協議を始める。
LINEは両社との協業で、飲食店の人材不足解消につなげたい考え。LINE取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏は「飲食店の店員が本来やるべきことに集中できるよう、パートナーのように(AIを)使っていただきたい」と述べた。
LINE BRAINの一般開放は2020年を予定
LINE BRAINの販売は7月から開始しており、先行してチャットボットとOCR、音声認識の技術を一部の企業に順次提供している。すべての技術を一般開放するのは2020年以降を予定している。 同サービスは発展途上にあるため、 実際に企業に使ってもらいながら精度を高めていく必要がある。そのため導入時期が早ければ料金は安くなる。利用料金はユーザー企業向けの「Starter Pack(スターターパック)」の場合、最も早い時期(Super Early)の導入で3カ月100万円(税別)となっている。導入前に機能検証をしたいという企業には、「キャッチアップ・プログラム」という体験版も提供する。

LINE BRAINに関する売り上げは初年度から見込んでいるわけでなく、「中長期で大きなビジネスに育てていこうというのがもくろみ」(砂金室長)とのこと。今後は自社内での研究開発だけでなく、必要に応じてAIスタートアップやSIerとも協業する方針だ。
「彼ら(AIスタートアップ)もデータがあれば、もっといろんな学習ができて精度を上げられる。競合になることもあるが、協業して補いながら開発を進められると思う。どちらかというと、データの規模感とそれを集められるプラットフォームとしてのLINEの強みで勝負していく」(砂金室長)
(写真/荒井貴彦)