大手回転ずしチェーンのスシローは2019年7月18日、「匠(たくみ)の一皿プロジェクト」を発表した。フランス料理や中華など各業界で注目されている名店のシェフと共同で、これまでにない逸品を作り上げる。外部の知見を取り込むことで、自社単独ではできなかった新たな定番商品の開発を目指す。
「もっとうまいすし」で回転ずしの常識を破る
匠の一皿プロジェクトではすし以外の分野で活躍する著名店の料理人と組んで、一から商品開発を手掛ける。味にお墨付きをもらう「監修」でも既存商品を使用した「コラボ」でもない、新たなオリジナル商品を生み出すのがポイントだ。スシローグローバルホールディングス取締役執行役員の堀江陽氏は「スシローの商品開発の歴史を開くと言っても過言ではない。(お客様に)もっとうまいすしを腹いっぱい、もっと心もいっぱいになっていただきたいという思いでスタートした」と、同プロジェクトにかける意気込みを語る。
自社単独での商品開発でなく、外部の力を借りた背景を堀江氏は「サイドメニューやデザートなど色々やっているが、毎日やっていると『もっとうまいものはないのか』と思う。我々もよくさまざまなお店のアイデアをいただく。すし以外の方たちと交流することで、新しい“うまい”が表現できるのではないか」と説明する。
今回“匠”としてスシローが選んだ料理人は4人。中華料理の「中国菜エスサワダ」オーナーシェフ・澤田州平氏、居酒屋料理の「ブランカ」店主・吉岡哲生氏、フレンチの「神戸北野ホテル」総料理長・山口浩氏、和食の「賛否両論」店主・笠原将弘氏だ。彼らを選んだ理由は「和食、洋食、いろんな分野の方をご紹介するのですが、和食の型、和食のルール、和食の作法……そうしたものにとらわれないメニュー作りを、料理で表現できる方たちだったから」(堀江氏)。すしという普段と異なるジャンルに挑むため、既成概念にとらわれない、料理に対する柔軟な姿勢を重視したようだ。
このプロジェクトには新たな定番商品を発掘する狙いもあるという。しかし、ただ有名料理人を起用すればうまくいくわけではない。発表された商品は上記4人が腕によりを掛けて開発に取り組んだだけに、それなりに“凝った品”がそろっている。調理内容が複雑化して一皿ごとの工程数も増えれば、安定供給の面で不安が残る。数店舗だけの“実験販売”ならまだしも、全国500店舗以上で同品質の「匠の一皿」が提供できるかどうかがプロジェクトの成否に大きく影響する。
その点について「商品開発部の実力が付いて、再現性の高いものを作れるようになった」(堀江氏)ことも、スシローがこのタイミングで独自性あふれるすしの開発に乗り出した大きな理由だ。当初、商品として提供できるようになるまでに6カ月は掛かるだろうと目されていたが、スシローの開発部門と料理人双方の努力により、2~3カ月ほどで完成にこぎ着けた。店舗側の供給体制も万全なようで、常時店頭に3~4品程度の『匠』を用意していく考えだ。
紹興酒漬けのネタや鱧(はも)を使ったすしも
2019年7月19日から提供が始まった匠の一皿の第1弾は、澤田氏と吉岡氏の品。澤田氏は「赤海老とうにの紹興酒漬けにぎり」(150円、価格はすべて税別)と「よだれ鶏にぎり」(150円)、「本格担々麺」(380円)を担当した。広東料理をベースに、枠にとらわれない自由な発想の料理を提供すると評判の澤田氏が目指すのは「中華の枠を超えた新しい中華」。澤田氏は「割烹(かっぽう)に負けない食材を使い、そこに中華のエッセンスを入れて、日本人だからこそできる中華をつくりたい」と言う。その言葉通り、特に紹興酒漬けにぎりは「(今回の企画以前に)自社で技を盗んで開発しようとしたができなかった」と堀江氏も悔しがるほどの出来だ。
一方吉岡氏は「絶品鱧(はも)カツにぎり」とデザートの「琉球パフェ」(300円)を担当。最初に提供されるのは琉球パフェで、こちらはスシローのスイーツ部門「スシローカフェ部」も開発に加わった。スシローオリジナルの紫芋アイスとココナアイスの上に、パインやサーターアンダギー、ちんすこう、黒糖ピーナツがバランスよく配置されている。絶品鱧カツにぎりのほうは近日発売予定とのこと。
発表会では山口氏と笠原氏が開発したすしも公開された。どちらもフレンチや和食といった自らの強みを生かし、なおかつオリジナリティーあふれる一皿だ。味だけでなく、見た目にもインパクトがある。こちらも近日発売予定となっている。

“光るタピオカ”で台湾「Sharetea」と初のコラボ
他にもスシローカフェ部から日本初上陸となる台湾のカフェブランド「Sharetea」とのコラボ商品「光るゴールデンタピオカミルクティー」(280円)が発表された。Shareteaは世界で500店舗以上を展開する台湾発祥のドリンクのフランチャイズ。新商品はその名の通り、光を当てると金色に光るのが特徴だ。ミルクティーとタピオカ、いずれも日本で好まれる味や食感を研究して改良されている。

Shareteaはこのタピオカを台湾をはじめ他の系列店舗でも使用しているそうだが、「光らせる」というのはスシロー側のアイデア。なお、なぜ光るのかについては企業秘密とのこと。スマホのライトを下から当ててもきれいに発光するので、店舗ではインスタ映えを狙って撮影するお客も増えそうだ。
(写真/酒井康治)