2019年7月16日、『コトラーのマーケティング 4.0』(朝日新聞出版)共著者の一人であるイワン・セティアワン氏の来日記念講演がトランスコスモスの主催により行われた。同書でデジタル時代のカスタマージャーニーと提唱されている5Aと、その理想形を実現するための解決法を述べた。

 記念講演は、まず同書の日本語訳を監修した早稲田大学商学学術院の恩藏直人氏の講演から始まった。デジタル時代のカスタマージャーニーとされる5Aとは、認知(Awareness)、訴求(Appeal)、調査(Ask)、行動(Act)、推奨(Adovocate)のこと。理想は、そのブランドを認知した人すべてがそれを推奨している状態だが、それは現実には難しい。「自社製品を理想的な5Aの状態に重ねて、ボトルネックとなっている足りない部分を見つけ出し、補正することが現代のマーケティングである」(恩藏氏)という。

早稲田大学商学学術院の恩藏直人氏
早稲田大学商学学術院の恩藏直人氏
5Aが左右対称の蝶ネクタイ型になっているのが理想的なカスタマージャーニー
5Aが左右対称の蝶ネクタイ型になっているのが理想的なカスタマージャーニー
自社製品と蝶ネクタイ型を重ねたとき、違いが大きい部分がボトルネックとなっている
自社製品と蝶ネクタイ型を重ねたとき、違いが大きい部分がボトルネックとなっている

 続いて登壇したイワン・セティアワン氏は、顧客が商品を見つけてから買うまでの行動が、オンラインとオフラインのハイブリッド化をしていると述べた。世界中の取引のうち、オンラインで見つけてオフラインで実店舗に行って購入する人が44%で、実店舗で商品を試してからオンラインで購入する人が23%だという。「世界中の顧客の67%が、ハイブリッドな行動で商品を購入している。人々は検索して商品が見つからないと、すぐよそに行ってしまう」(セティアワン氏)

 また、好きな人と嫌いな人に2極化しているブランドが強いという。そのブランドが嫌いな人は、そのことについてSNSで誰かと話題にしていることが多く、それはSNS時代に必要とされる顧客間のコミュニケーションの一種ともいえる。「顧客みんなを満足させる必要はない。その商品やブランドが好きな人のみを満足させればいい。嫌う人が出てくることを恐れてはいけない」(セティアワン氏)

『コトラーのマーケティング 4.0』共著者の一人であるイワン・セティアワン氏
『コトラーのマーケティング 4.0』共著者の一人であるイワン・セティアワン氏

 そして、ハイブリッドな行動で商品を購入する顧客が中心になっている現在、大事なのはその商品やブランドが好きな忠誠心の高い推奨者をいかに増やすかであり、それがマーケティング4.0のコンセプトだという。

 これは5Aでいえば、ボトルネックを解決して認知(Awareness)している顧客を推奨(Advocate)まで誘導することだ。そのためには、ヒューマンセントリックマーケティング、コンテンツマーケティング、オムニチャネルマーケティング、エンゲージメントマーケティングの4つのソリューションがあるという。

5Aのボトルネックを解決するための4つのソリューション
5Aのボトルネックを解決するための4つのソリューション

 例えばヒューマンセントリックマーケティングでは、弱点をさらけ出すことが大事だという。「ミレニアル世代では自撮りした写真を加工して投稿するが、それより下の世代では加工せずにそのまま投稿する。若い世代は完璧なものがあるなどとは信じていない。弱点をさらけ出しているブランドが、正当性があるとして支持され愛される」(セティアワン氏)という。

 また、エンゲージメントマーケティングでは、ブランドを愛好してもらえるようにこまめに情報を出すことが大事で、モバイルアプリを重視すべきだという。「スマートフォンユーザーは平均して6分に1回、画面をチェックしている。1時間に10回画面を見ることになり、それだけ顧客と関係を深める機会がある」(セティアワン氏)。

 セティアワン氏は、まず5Aのすべての段階をよく知ることが重要だという。日本でもこうしたマーケティングを行っている企業はあるが部分的な取り組みにとどまっており、これからはすべてを統合していく必要があるとして講演を締めくくった。

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