6月24日のイベント「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2019 TOKYO」で、ZOZOテクノロジーズの野口竜司氏は「AIは"作る"から"使う"へ~データとAIで変わるマーケティング~」と題し講演した。これからはAI(人工知能)を作ることよりも「使う」能力がより重要になってくると語る野口氏。その真意とは──。

 2019年6月初旬に米ラスベガスで開催されたカンファレンス「Amazon re:MARS 2019」。ZOZOテクノロジーズ(東京・渋谷)のVP of AI driven business, イノベーション推進部部長の野口氏はそこに参加して驚いた。AIロボティクスの推進ぶりについてだ。

世界そして日本の新たな情報を、デジタルガレージ主催の「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2019 TOKYO」で次々と紹介する、ZOZOテクノロジーズのVP of AI driven business, イノベーション推進部部長の野口竜司氏
世界そして日本の新たな情報を、デジタルガレージ主催の「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2019 TOKYO」で次々と紹介する、ZOZOテクノロジーズのVP of AI driven business, イノベーション推進部部長の野口竜司氏

 米アマゾンが持つ各ビジネスバリューチェーンにおけるロボティクスの活用はかなり進んでいるという。中でも特筆すべきは、アマゾンが自身で利用している技術を、プラットフォーム化して簡単に使えるようにした点だ。

 知能ロボット工学アプリケーションを簡単に開発できる「AWS RoboMaker」や、自律走行するモデルカーを開発しながら強化学習を学べる「AWS DeepRacer」など、すでに様々なサービスが展開されている。野口氏も現地でワークショップに参加したところ、ものの数時間でロボットを制御できるようになったという。

 2019年2月、経団連は「AI活用戦略~AI-Ready社会の実現に向けて~」という提言を取りまとめた。そこで打ち出したのは、AIをビジネスの効率化や製品の販売拡大のためにだけ使うのではなく、既存の事業構造をAI起点の事業構造へ転換するレベルまで目指すというものだ。

 その上で、AI活用のレベルを5段階に分け、経営層、専門家、従業員それぞれが、レベルごとにどんなスキルを獲得すべきかを定義している。「重要なのは、専門家にお願いするだけでなく、経営マネジメント層が意識を変えていく必要があるということだ。ご自身の会社が今どのレベルにあるのか、確認してみてもらえればと思う」と野口氏は言う。

データ化、AI化の進展で3つの変化

 データ化、AI化によって、これから起こるであろう変化について野口氏は次のように語る。

 「5GやIoTなどが普及していく中、データですべてがつながる社会になってくる。そのデータを活用するAIの実装もどんどん進む。そうなると『顧客体験の変化』『企業内の変化』『従業員の働き方の変化』の3つの変化が起こると考えている。それにどう対応していくかが重要だ」

 野口氏は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資する中国のグアジ(Guazi)の事例を取り上げた。グアジはC2Cの中古車販売のオンラインプラットフォームを展開する。顧客に対し、スマートカメラによって顔認証し、その人の購買履歴を検証する。それを元に、この顧客にはどういった価格設定をすればいいのかを決めて対応するという。これが「顧客体験の変化」だ。

 また従業員は、AIロボットを使いながら、装着したスマートグラスから情報を得て、車の査定をするようにした。すると月間の査定台数が4倍になった。これが「従業員の働き方の変化」。

 3つ目の「企業内の変化」としては、中古車の月間販売台数が5倍になったというのだ。このような顧客、企業、従業員に対する変化は、今後も進んでいくだろうと野口氏は語る。

AIを「使う」ことにフォーカスする

 データサイエンティスト協会はデータサイエンティストに必要となる3つの力として「ビジネス力」「データサイエンス力」「エンジニアリング力」を挙げている。ただ、これを一人の人間に課すのは現実的ではないだろう。

 「大きな課題はビジネス力のところだ。どのビジネスに、どのアプリケーションに、どのタイミングで投資をしてAIを実装するか。この判断自体は経営者やマネジャーでないとできない。ビジネスサイドの人間がAIの知識を学びその力を発揮しなければならないと思う」

 AIを活用したサービスを開発するにしても様々な手法がある。「自作でAIモデルを作る」「GUIツールでAIモデルを作る」「学習済み第三者AIモデルを使う」「AI搭載クラウドサービスを使う」などだ。個別対応するなら自作も良いが開発期間は長くなる。最近は、すでにあるAIモデルを導入し、開発スピードを上げていく手法も増加しているという。

 「これらをどう使い分けるか判断する能力が必要になってくる。方針の違いによって、必要なAI人材の定義も変わってくるだろう」と野口氏。

 ある自動車保険会社では、AIを自作するのではなく、アマゾンの「AWS Marketplace」にあった、写真から自動車メーカーを自動認識する学習済みAIを採用し、サービスを短期間で公開できたという。

 「アマゾンや米グーグルが様々なAIを提供するようになり、私たちはAIをいかに使うかにフォーカスすればよい時代になってきた。もちろん、作る側の人たちはこれまで以上に重要だが、使う人がどんどん増えていかないと両輪が回っていかない。使う側の人が増えていくことで、よりダイナミックに市場が変わっていくと思う」と野口氏は語り、講演を終えた。

(写真/新関雅士)

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