「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」を運営するユー・エス・ジェイ(USJ)は、パーク内の来客者の行動をリアルタイムに追跡(トラッキング)し、そのデータをマーケティングだけでなく新サービスの開発にも活用している。データドリブンからユーザーエクスペリエンス・ドリブンがキーワードだ。

 2019年6月24日に開催されたデジタルガレージ主催の「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2019 TOKYO」の講演で、 USJのマーケティング本部デジタルマーケティングマネージャーの柿丸繁氏が、行動データ活用の具体例を披露した。

「データドリブンからユーザーエクスペリエンス・ドリブンへ」と語るUSJのマーケティング本部デジタルマーケティングマネージャーの柿丸繁氏
「データドリブンからユーザーエクスペリエンス・ドリブンへ」と語るUSJのマーケティング本部デジタルマーケティングマネージャーの柿丸繁氏

 5年前の入社当時、ウェブ行動データやリアル行動データを組み合わせて、データに基づいたサービスを展開しようとしたが、データが多くない世界で理解が進まずもんもんとしていた柿丸氏。その変化のきっかけとなったのは、入場口のチケットきょう体の入れ替えプロジェクトだった。当時のCEOからハードの入れ替えだけでなく、マーケティングでの活用も考えるよう指示があり、根本から考え抜いたという。

 「入り口で来場者の認証ができて個人のデータが分かるということは、パーク内でサービスを展開する上でそもそも何が変わるんだろうと考えた。この時、データドリブンではなく、ゲスト(来場者)の体験から考える『ユーザーエクスペリエンス・ドリブン』に発想を変えた」と柿丸氏は語る。

来場者の行動データ取得を可能にした「ジオマグネティック」

 とはいえ、パーク内の行動データはブラックボックスだ。どうすればリアルタイムに行動データを取得できるのか。

 「伊能忠敬プロジェクト」と名付け、全地球測位システム(GPS)、ビーコン、加圧マットなどさまざまな手法を検討したが、どれも一長一短があった。最終的に採用した手法が「ジオマグネティック」というものだ。

 地球上には北極と南極の間を通る磁場がある。磁場は建物などの障害物にぶつかって揺れ、場所によって固有のゆがみが生じる。このゆがみこそが、その場所を特定する“地面の指紋”ともいうべきデータとなる。

 USJのスタッフはパークが閉まった後にパーク内を何度も練り歩き、測位アプリケーションを使って、すべての場所の指紋を採取することに成功した。これにより、スマートフォンのコンパス機能とジャイロセンサーを利用することで、来場者の1日の移動経路がすべて分かるようになった。

 「リアル行動データを追跡できるようになって、当初から言っていたのは『サービス化』していこうということだ。行動データという鮮度の高いデータを基に、セミリアルタイムにアトラクションやレストランなどのお薦めを伝えるパーソナルガイドのようなものを考えていた」と柿丸氏。

 例えば、朝に入り口付近にいる来場者にカチューシャなど身に着けるものを勧めて買ってもらうといった、その時間帯でないと意味がないリコメンドを発信することが可能となった。

 次に取り組んだのが、行動データの分析活用だ。USJは有料の優先搭乗券「エクスプレスパス」を販売している。複数のアトラクションの優先搭乗券をまとめているパスもあり、すべてのアトラクションを利用しない人もいる。

 パスを買ったが利用しなかったという実績データの2年半分を利用し、予測モデルを開発。約半年かけて精度を上げ、予測と実績がほぼ一致するところまでたどり着いた。

混雑予測モデルも開発できる

 「エクスプレスパスの販売データと当日の午前中の利用情報を基に需要を予測、当日の販売量を調整することが可能になった。自分たちしか取れない鮮度の高いデータだからこそ実現できたという事例だ」と柿丸氏は語る。

 そして、行動の違いによるクラスタリングの構築もした。絶叫アトラクションばかり乗るクラスタ、鑑賞系のアトラクションにだけ行く世界観重視のクラスタなど5つに分け、それぞれに違ったコミュニケーションをしている。

 レストランの混雑予測サービスも開発中だ。レストランや物販店舗の滞在時間のデータもリアルタイムで取るため、混雑予測モデルを作ることが可能だという。とにかく早く食べたいという来場者へお薦めのレストラン情報を発信したり、マップ上に混雑度合いをマッピングしたりすることを想定している。2020年のサービス開始を目指す。

 「来場者からリアル行動データを取得させてもらうには、来場したタイミングで規約に同意してもらわなければならない。これはとてもハードルが高いものだ。しかしデータを提供した方が今日一日、最大限楽しめることを理解すれば同意してもらいやすくなると思う。そのためにも、分かりやすく単純なサービスを提供することが重要だ」と柿丸氏。

初めから仕組み化を考える

 サービスを作る際に大切なのは、「仕組み化」を初めから考えておくことだと柿丸氏は言う。必要なデータを選択し、正しくデータを加工・格納し、分析してインサイトを把握した後、伝達する手段を検討する。こうしたステップをきちんと踏んだかどうかの検証が必要だ。

 その上で、データのインターフェースがしっかりとあって、最終的にMA(マーケティングオートメーション)や、クラウド上でソフトウエアを提供するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)にどう接続するかまで、あらかじめ設計しておくことが重要だという。

 「効率化を目指すということではなく、何回やっても同じように再現する、誰がやっても再現するといった仕組みが理想だ」と柿丸氏は語る。

 今後、データ活用が進み、バーチャルの世界が充実していく中で、リアルのテーマパークはどのように変化していくべきなのだろうか。

 「バーチャルの世界が進んだら、もうリアルのテーマパークが不要になるとは思わない。リアルの世界にバーチャルのコンテンツが実在する感覚になるといった、よりリアルが拡張し深みが増す世界だと想像している。バイオデータや表情識別データなどを組み合わせれば、その時、その人の喜怒哀楽まで理解できるようになるかもしれない。テクノロジーを使って、来場者をより理解し、より良いサービスを提供していきたい」と柿丸氏は語り、講演を締めくくった。

(写真/新関雅士)

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