簡単なAIなら文系人間も作れる

どんな勉強をするとAI人材になれるのですか。

前期は「G検定(ジェネラリスト検定)」というAIについての検定のテキストを使って勉強し、後期は実際にAIを開発してみようと思っています。また、AIに積極的な企業にインターンに行ってもらおうと考えています。G検定でAIの歴史、ディープラーニングとは何か、医療や農業などにおけるAI活用の現状まで、トータルで詳しくなれます。文系向けの試験ですから、AIをビジネスに活用したいと思っている社会人の方にもお勧めします。

 ITスキルを学ぶことに抵抗がないなら、グーグルが提供するTensorFlow(テンソルフロー)というライブラリーを使えば、犬と猫を見分ける程度のAIなら簡単に作れます。文系でもAIを理解し、AIを使った商品やサービスの企画ができる人材は大量に必要とされるはずです。

 社会人であれば「G検定」レベルの知識は最低限必要だと思ってください。そのうえで、AIの技術者やAIをビジネスで使っている人たちと議論をしてアクティブな情報を得るべきです。そしてできれば少しでもライブラリーを使って簡単なAIの開発に挑戦してみてほしいですね。テンソルフローの使い方を説明した本も出ていますから。

AI時代のマーケティングはどうなると思いますか。

「純粋機械化経済」の中でも触れましたが、物の購入の仕方は変わってくると思います。アマゾンが狙っているのは人の欲望の先回りをすることです。アマゾンの 「Dash Replenishmentサービス」(DRS)は、プリンターのインクカートリッジや洗剤のような度々補充が必要な消耗品を発注しなくても自動で届けてくれるサービスです。購入ボタンを押すこともなく、AIスピーカーに購入を依頼することもありません。いずれは潜在的に欲する商品が注文もせずに勝手に届けられるのが当たり前になる時代が来るかもしれません。

ではマーケターは不要な時代になりますか。

ビッグデータの解析でマーケティングはできるという考え方もありますが、限界があると思います。売れる商品は今までにない画期的なもので、かつそれが多くの人に受容されるものです。AIのデータ解析からは過去の流れに沿ったものしか判断できない。流れから逸脱した新しいものを良いか悪いか判断できるのは今のところ人間だけです。音楽でいうと、過去の曲のまねはAIにできますが、新しいメロディーの音楽を作り、それが売れる曲なのかの判断はAIにはできません。

 90年代に小室哲哉さんの曲が大ヒットしましたが、AIは小室さんのような曲を自ら生み出すことはできないということです。AIにできるのは小室さんとよく似た曲を作るところまで。それも最初に小室さんに何曲か曲を作っておいてもらわないと、それさえできません。

 人間には「これいいな」と感じる感性がありますが、AIにはそれがありません。マーケティングでAIを活用するには、過去のデータ分析やテキストマイニングで現在のSNSを分析するといったことが考えられますが、人間にしかできないことが存在するわけです。

 AIを活用するのは大事ですが、それを超える「ひらめき」の部分がマーケターには必要です。常識にとらわれず、でも多くの人がどういう感性を持っているかも知っている。そんなふうに変人の部分と常識人の部分を持っていないといけないというのは、AI時代でも変わらないのではないでしょうか。

著作「純粋機械化経済」の読みどころを教えてください。

中国がAIでいかに先行しているかを示し、日本は巻き返しを図らなければならないことが分かると思います。また、米国では既にAIの影響で緩やかに雇用(正確には労働参加率)が減ってきていることも分かります。一方、日本では少なくとも2030年頃までは肉体労働を中心に人手不足は解消しないと考えられます。

 AIについての本は、技術とせいぜい経済の話までを紹介することが多いと思いますが、この本では技術、経済、哲学、歴史まで幅広くカバーし、枠を取っ払って横ぐしを通したつもりです。ひらめきは従来とは異なる組み合わせから生まれるものだと思っています。AIに負けない発想法の参考にしていただければうれしいですね(笑)。

「純粋機械化経済」(日本経済新聞出版社)
第1章の「AI時代に日本は逆転できるか」から第8章「AI時代の国家の役割――中枢を担うのは国家か、プラットフォーム企業か」まで492ページにわたって技術的な話から経済、歴史、思想・哲学までを幅広くカバー。

(人物写真/的野弘路)