電通グループのマイデータ・インテリジェンス(MDI)は7月3日、スマートフォンアプリ「マイデータ・バンク『MEY』」の一般提供を開始した。このアプリを使い、事前に募集した一般個人モニター1万2000人のパーソナルデータをキリンホールディングスなど10社に提供して利活用する「情報銀行トライアル企画」も始めた。
マイデータ・バンク「MEY」などMDIが始めたアプリやサービスは「情報銀行」のスキームに則っている。企業が個人の同意を得てパーソナルデータを預かり、個人の代わりに妥当性などを判断した上で第三者にデータを提供、販売。データを提供した個人がその対価を受け取ることができるもの。MDI取締役執行役員COOの森田弘昭氏は、「誰でも利用できる本格的なサービスとしては、今回が国内初」と語った。
情報銀行事業には、MDIの他にも複数社が参入を表明している。例えば、三井住友信託銀行やイオングループのフェリカポケットマーケティングは既に、日本IT団体連盟による情報銀行認定を取得。さらに数社が実証実験や認定取得を経ての事業参入の準備を進めている。
アプリ開発などインフラ整備を先行
MDIも認定を申請しているが、まだ取得できていない。取得前に一般向けサービスを開始した理由について森田氏は、「実証実験よりも、いち早く事業を開始することを重視した」と話す。情報銀行を中心にしたデータ流通エコシステムが安全な形で機能するかを確認するため、アプリ開発などインフラ整備への投資を優先したという。
MEYアプリの利用を開始すると、会員にはそのデータを必要とする企業から「利用目的」と「提供に対するインセンティブ」を明らかにしたデータ提供依頼が届く。インセンティブとしてはMEY独自ポイントやスポンサーからのクーポンの他、ユーザーの行動に即したおすすめ商品の紹介やライフスタイル提案などもある。そうした会員、MDI、データ利活用企業という3者の関係を表すのが下の図だ。
データ利活用企業から会員に「1週間分の食事画像を提供してください」という依頼をする場合、その依頼を承諾した会員はその対価を受け取れる。対価としては、さまざまなサービス、商品、金銭などがあり、例えば、「会員の食生活に合わせた健康食品や情報コンテンツを提供すること」なども考えられるという。もちろん、会員が自分のデータを提供したくないと判断したら、アプリから「データ提供の許諾取り消し」ができる。特定の企業へのデータ提供も同様に停止することが可能だ。
一方、MDIから企業に提供するサービスは大きく2つに分けられる。1つは、アプリユーザーから同意を得て収集したデータを提供すること。もう1つは、情報銀行基盤(プラットフォーム)を通じた顧客データ管理サービスの提供だ。
業種を超えたデータ連携も可能に
例えば、アプリの会員データと自社の顧客データとを掛け合わせて、メーカーのマーケターが、新しい見込み客に関する効果的なアプローチや、ライト層のフォロー、優良顧客に向けての新商品の開発などに活用できるだろう。
家電メーカーと食品メーカーなど、業種を超えた企業同士のデータ連携により、自社だけでは得られない顧客インサイトの深掘りなども可能になりそうだ。
MDIは、1万2000人を集めたトライアル企画とは別に、2019年末までに300万人、20年末までに1000万人の新規会員獲得を目指す方針だ。そのため主要なサービス事業者とのID連携を進める。具体的には会員が利用しているECサイト、動画配信サービス、航空会社のマイレージプログラムといった各種サービスの会員IDをアプリに集約し、シングルサインオン環境を会員に提供する計画だ。
情報銀行プラットフォームの利用企業の開拓も始めた。森田氏によれば、「現在、100社以上の企業と商談が進行中。いつからどう利用するかという条件面を交渉している段階にある」という。情報銀行自体の一般認知はまだ低いが、同社はスタートダッシュにより、この新ビジネスを早期に軌道へ乗せたい考えだ。