京セラとライオンはソニーのスタートアップ支援プログラムを通じ、子供の仕上げ磨き専用歯ブラシを開発した。ソニーが運営するクラウドファンディングサイトで事業化に向けた支援を募集する。大手3社によるコラボは各社ともに初の試み。BtoCのノウハウを得たい京セラの発案で始まった。

「Possi」は歯磨きをしながら振動や音楽が楽しめる。子供がなじみやすいように生き物のような有機的なデザインにした
「Possi」は歯磨きをしながら振動や音楽が楽しめる。子供がなじみやすいように生き物のような有機的なデザインにした

振動が歯に伝わり、口の中で音楽が広がる?

 仕上げ磨き専用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」は、歯ブラシが歯に当たるとブラシのヘッド部分から振動が伝わり、音楽が楽しめるのが特徴。歯磨きが苦手な子供(0~5歳児)でも、楽しく歯を磨けるようにと開発された。メインターゲットは父親で、積極的に育児に参加してほしいという思いがある。スマートフォンなどの音楽が再生できる機器と有線でつなぐと電源が入り、ブラシが歯に当たると振動とともに音楽が口腔(こうくう)内に流れ子供にだけ聞こえる仕組み。

 2019年7月3日からソニーのクラウドファンディングサイト「First Flight」で事業支援を開始。本体、替えブラシ3本、電池2本、オーディオケーブルのセットで1万7500円(税込み)で、先着300セットは1万4800円(同)ですでに売り切れた。目標額は2000万円。19年7月10日現在の達成率は31%で、626万円が集まっている。

 京セラは歯ブラシ以外の本体を担当し、歯ブラシに内蔵する振動伝達アクチュエーターや本体内蔵アンプなどを自社技術で製造する。ライオンはアクチュエーターを組み込んだ歯ブラシ部の製造を担当。ソニーはスタートアップの創出と事業運営を支援する「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」を通じてインキュベーションやマーケティング、ものづくりに関するノウハウを伝えるとともに、今回はデザインやコンセプトメイキングも担当した。さらに時間管理や軌道修正といった、プロジェクト全体のマネジメントもソニーの役割だ(関連記事「企画書1枚でOK? ソニーが新規事業支援、ウリは“全部やる”」)。

「Possi」の開発メンバー。左からライオンイノベーションラボの萩森敬一氏、京セラ研究開発本部メディカル開発センターの稲垣智裕氏、ソニー・Startup Acceleration部 Business Launch Teamプロデューサーの宮崎雅氏
「Possi」の開発メンバー。左からライオンイノベーションラボの萩森敬一氏、京セラ研究開発本部メディカル開発センターの稲垣智裕氏、ソニー・Startup Acceleration部 Business Launch Teamプロデューサーの宮崎雅氏

 京セラ研究開発本部メディカル開発センターの稲垣智裕氏は、自身も0、4、6歳の3児の父親。「仕上げ磨きに悪戦苦闘する日々を何とかしたいという思いで発案した」という。京セラはオープンイノベーションで社外連携を強めて新規事業創出に注力しており、SSAPに協力を仰いで18年10月にプロジェクトがスタートした。

 ソニー・Startup Acceleration部 Business Launch Teamプロデューサーの宮崎雅氏は、稲垣氏が提示したファンディングの希望開始時期をゴールに設定。開発期間はそこから逆算し、現実的かつ最短の「9カ月」とした。大手企業3社のコラボで新製品を開発する時間として9カ月は異例の速さだ。しかもスタート当初、稲垣氏のアイデアは「京セラの圧電セラミック素子を用いた音の鳴る歯ブラシ」というものだけで、歯ブラシ部分の製造を任せるパートナー候補も決まっていなかった。

 宮崎氏に背中を押され、パートナーを探す稲垣氏が協力要請したライオンが参加したのは、19年1月からだった。「歯ブラシのリーディングカンパニーのライオンさんに断られたら、このプロジェクトは頓挫すると思っていた」と稲垣氏は振り返る。

圧電セラミック素子は電気を振動に変える特性があり、薄くて小型でも十分なパワーを出せるため、「歯ブラシに埋め込める」と稲垣氏は考えた
圧電セラミック素子は電気を振動に変える特性があり、薄くて小型でも十分なパワーを出せるため、「歯ブラシに埋め込める」と稲垣氏は考えた
子供が噛(か)んだり邪魔をしたりしたときには中断できる「ミュートボタン」がついており、「噛むと止まる」を学習させる仕組み
子供が噛(か)んだり邪魔をしたりしたときには中断できる「ミュートボタン」がついており、「噛むと止まる」を学習させる仕組み