家電量販店のエディオンが大阪・難波に9階建ての旗艦店を2019年6月7日にオープン。磨きをかけたのが、家電商品を試用できるなど、体験型の売り場づくりだ。ネット通販にまねできない仕掛けで、年間2000万人の来店客数を目指す。
「エディオンなんば本店」は、9階建てで施設の総面積は1万5539平方メートル(約4701坪)という大型店舗。エディオンとしては最大規模となる。南海なんば駅の正面に位置し、周辺は「千日前」の繁華街。吉本新喜劇などが上演される「なんばグランド花月」などがあり、日夜を通して人通りが多く、立地としては抜群といえる。
中国地方を地盤とするデオデオと中部地方を地盤とするエイデンが合併して誕生したエディオンは、その中間地点にある大阪に本社を置いている。しかし近畿地方には大型店舗がなく、「なんとか大阪に旗艦店が欲しかった」(エディオンの久保允誉会長兼社長)という。同社としては悲願といえる店舗だが、ネット通販の勢いが増す今、果たして大型店舗を出す意味はあるのだろうか。
出店が決まってからエディオンは、「どのような人が街を訪れているのか、周辺6カ所で毎日、始発電車から終電までカメラを回し続けた」(久保氏)。その結果、エディオンが得意としてきた40代以上の客層以外も来店してもらえる店づくりをすることに決めたという。ただ、年齢が若い層ほどネット通販に流出しがち。そこで、来店すること自体が目的となるよう体験・体感型の売り場づくりに力を入れた。
例えば、1階のメインエントランスを入ってすぐのところに、室内ランニング器が置かれている。しかしこれは室内ランニング器を売るためのものではない。ウエアラブルウオッチを実際に身に着けて心拍数の測定などを試すためのものだ。
エスカレーターで2階に上がると、目の前に55型の9面マルチモニターが。これはeスポーツのブースで、ゲームを体験できるだけでなくパソコンやマウス、キーボードをその場で購入することも可能だ。またイベントも随時開催される予定で、今年開かれる「全国都道府県対抗 eスポーツ選手権」の大阪府予選もここで行われるという。
同じ2階にはドローン売り場も設置。飛行資格者が常駐し、実際に飛んでいるところを見ることができる。大型ドローンについては、シミュレーターでの体験もできる。
ものを売らない施設として注目されるのは、理美容家電や化粧品を販売する4階に設置された「パウダールーム」。旅行客や若い女性向けの化粧直しなどに使える有料スペースだ。化粧品を自由に使えるほか、カールドライヤーや美顔器などの理美容家電も貸し出している。料金は1時間300円だが、エディオンのポイントカードを提示すれば最初の1時間が無料に。つまり、ここでまず商品を試してから、納得がいったものを購入できるわけだ。
5階の生活家電フロアにはケルヒャーの高圧洗浄機が水を噴射できる状態で置かれており、6階のリフォームフロアではシャワーヘッドの水圧を体感できる。こういった商品を試用することは難しいため、購入を考えている人なら確かに来店してみようと思うかもしれない。
極めつきは、一部のトイレ。各個室で便器のメーカーが異なり、扉にはメーカーとモデル名が掲示されている。 トイレまでもがショールーム化しているのだ。
子連れで楽しめるフロアも
エディオンが重要なターゲットの1つに掲げるのが、子連れで訪れるニューファミリー層。そのための仕掛けが満載なのが、7階の玩具フロアだ。
よくある玩具売り場とは異なり、メーカーやキャラクターごとに独立した売り場を設置。まるで専門店が立ち並んでいるかのようだ。売り場に足を踏み入れるとそのキャラクターや玩具の世界観に没入でき、子供だけでなく大人も楽しめそうだ。
特に大人向けと言えるのがガンプラコーナー。売り場の奥には、ガンプラの組み立てスペース「エディオンビルドスペース」があり、時間制で作業台を貸し出す。本格的なエアブラシで塗装したり、完成後は撮影用の背景を借りて臨場感ある写真を撮影したりできる。有料ロッカーもあり、自宅での組み立てが難しい人がリピート利用する可能性も高い。
また、日本でもここだけで体験できるのが京商の「KYOSHO RC RIDE-ON SYSTEM 4D EXPERIENCE」。上下左右に動くコックピットからラジオコントロールカーを操縦すると、まるで乗っているかのような映像と振動を体感できるアトラクションだ。バーチャルではなく、実際に走らせるラジオコントロールカーからのデータが再現されるのがポイント。段差を乗り越えたり、壁にぶつかったりすると、大きな振動が伝わり、迫力満点だった。
サービス充実で“ショールーム化”を防ぐ
オープン前の内覧会で、「来店客数の目標は年間2000万人」と明言した久保氏。出店前の調査で、周辺の通行客の3割がインバウンド客であったことから同程度のインバウンド比率を見込むというが、逆に言うと年間1400万人の日本人客を取るという宣言でもある。商圏は大阪南部から奈良県にかけての広域を見込んでいるという。
確かに足を運んでみたくなる施設ではあるが、実際にお金を落とすかというと別問題。ショールーム化し、結局はネット通販で購入されてしまう懸念が付きまとう。この点について久保氏は「商品を売るのではなく、商品の価値を売るのが我々のテーマ。接客はもちろん、配送や取り付け工事も含めて強くしていく」と話す。一例として、夏場でもエアコンを翌日までに設置できる体制を整えることや、小物家電の持ち帰りが難しい高齢者向けに無料のバイク便サービスを始めることなどを挙げた。
また「過去の経験から、旗艦店があると周辺の自社店舗にも相乗効果があることが分かっている」(久保氏)。2025年までに近畿地区でシェアトップとなる年間3000億円の売り上げを目指すとした。店舗体験の提供でネット通販の荒波にあらがうことができるのか注目だ。