不動産ベンチャーのイタンジ(東京・港)が、ITを活用した賃貸物件の仲介ビジネスに2019年の9月に参入する予定だ。賃貸物件を管理する不動産会社向けに10万台のスマートロックを無料配布するという大胆な作戦で、一気にシェアを取る考えだ。
10万台のスマートロックを無料配布することで、今後の規制緩和で大きく姿を変える可能性がある不動産賃貸仲介サービスに19年9月をめどに参入し、一気にシェアを獲得しようと狙っているのが、不動産ベンチャーのイタンジだ。
同社は賃貸物件をウェブサイト上に掲載。消費者はスマートフォン上で物件を選び、内見する。物件はスマートロックで管理し、内見に不動産会社のスタッフは同行しない。不動産仲介会社が不要なので、賃貸物件のオーナーも消費者もコストを抑えられる。さらに、消費者側は内見の時間を自分の都合で選べる。サービスの成否を決めるのは、「掲載物件の数」(イタンジの野口真平社長)。そこで10万台のスマートロックを用意し、賃貸物件を管理する不動産会社向けの特設サイトを作って、スマートロックの無料配布を始めている。無論、スマートロックの配布は、イタンジが準備中のサイトで物件を公開することが条件だ。
野口社長の分析によれば、入居者募集中の空き物件の数はおよそ100万件程度。10万台はその1割に当たる。スマートロックを配布することで、賃貸物件の仲介市場で大きなシェアを得ようともくろむ。
イタンジは数年前に「ヘヤジン」「ノマド」というブランド名で2度にわたり、賃貸物件の仲介ビジネスに挑戦してきた。ウェブメディアを中心に話題にもなったが事業から撤退した過去がある。敗因の1つは、内見に付き添うスタッフのコストを見誤ったことなどだった。今回の新サービスでは、内見は入居希望者が1人で行えるので、そうした弱点はカバーできる。
規制緩和を見込む
当時は独立系ベンチャー企業だったが、現在は中古不動産流通プラットフォーム「リノシー」を運営するジーエーテクノロジーズの子会社となっている。イタンジの現在のメイン事業は、不動産会社向けの物件管理システムの提供だ。今回あえて不動産賃貸仲介サービスに三度挑戦するのは、スマートロックが普及し、その活用が可能になったこと。そして今後、予想される規制緩和を好機と捉えたからだ。
現状、不動産賃貸取引では、賃貸契約に関する重要事項の説明について、テレビ電話での説明(IT重説)は認められているが、書面の交付などが必要で、オンライン上で契約を完結することはできない。それが、国土交通省が19年10月~11月頃から始めると予想される社会実験を経た後に規制が緩和がされることによって、オンライン上で不動産賃貸契約に必要な手続きを完結できる可能性が出てきた。
イタンジは予想通りに規制緩和がされたら、契約までの作業がオンライン上で完結できるようにいち早く対応する。そうすることで、不動産賃貸仲介サービス分野の最大手を目指す。
仲介手数料は相場の半分
収益は空き物件を掲載する不動産会社から成約手数料(2万~4万円。地域により異なる)と入居希望者から仲介手数料(一般的な仲介手数料「家賃1カ月分」の半額、家賃10万円の物件であれば5万円)を得る予定だ。物件を管理する不動産会社にしてみれば、物件を情報サイトなどに掲載し、広告料を払う必要が無い。成約時に手数料を払うだけで済む。一方の消費者も仲介手数料が相場の半分で済む。
「不動産会社にとって賃貸物件の仲介は、もうかるビジネスではなく、不動産の管理を任せてもらっている地主へのサービスという側面が強い」と野口社長は指摘する。イタンジのサービスを利用すれば、物件の内見に不動産会社のスタッフが同行する必要が無くなり、もっと生産性の高い仕事に時間を回せる。一方の入居希望者は不動産会社の都合で、内見の時間を制約されないで済むため、気になる物件を調べやすい。
「失敗を恐れるな」とよく言われるが、失敗から学んで再挑戦の機会を得る企業や人は多くない。イタンジの3度目の挑戦が成功すれば、失敗が学びになることの好例となり、日本の企業風土にも良い変化があるかもしれない。その点でも気になる挑戦だ。