コーヒー豆の販売や喫茶店運営を手掛ける堀口珈琲が2019年6月19日、横浜に開設した焙煎所「横浜ロースタリー」を報道陣に公開した。目の前が倉庫という立地を生かし、鮮度にこだわった珈琲を提供するのが狙い。設計を建築家に依頼しミュージアム機能を持たせ、8月から一般客への見学会も行う。
堀口珈琲は輸入した生豆の貯蔵を委託している倉庫のすぐそばに横浜ロースタリーを建設した。そのため貯蔵されている生豆を、必要な分量だけすぐ焙煎できるのが大きな利点だ。輸送コストを大幅に削減できるだけでなく、輸送中の温度変化や雨にぬれてしまうなどのリスクにより生豆の鮮度が落ちるのを防げる。これまで操業していた東京都狛江市の焙煎所より面積が広くなったことを生かし、生豆の選別装置も設置した。
製造の効率化や食品衛生面でも利点がある。狛江は一般客も出入り可能な環境だったため、ドアが開くたびに温度が変化してしまい、それが焙煎に影響を及ぼしていた。今回のロースタリーは生豆の選別から焙煎、パッケージングまでの工程がスムーズに流れるよう区画化されており、かつ焙煎専用施設になったことで、区画ごとに温度管理を徹底できるようになった。作業員は専用のユニホームを着用し、場所によっては付着した微細なゴミをエアシャワーで落とさないと入れないようになっている。
堀口珈琲執行役員の小野塚裕之氏は「倉庫から生豆をすぐに焙煎所に持ち込めるようにするのが、まずやりたかったこと。温度管理もしっかりできるようになり、品質は確実に向上したと実感している。まだ設備を拡充する余地があり、これからさらに味の向上を目指していく」と話す。
拡大する中国市場を狙う
堀口珈琲は喫茶店も運営しているが、生豆の調達と販売、焙煎豆の製造販売が事業の大きな割合を占めている。中でも年々比率を高めているのが海外向けの販売で、特に中国市場に注目しているとのこと。中国では日本のコーヒー事業者が選別して焙煎したコーヒー豆が人気を集めているそうで、堀口珈琲も2017年、上海にフランチャイズ店をオープンした。
「中国ではコーヒーの消費量が急激に増えており、日本製品の品質に対する信頼もあって、日本の事業者のコーヒー豆にはブランド力がある」(小野塚氏)
しかし東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、中国では日本から輸入する食品について、東京都など10都県を対象に輸入停止措置を取ったり、日本の政府機関発行の証明書を求めたりしている。神奈川県はそこに含まれておらず、県内の港で陸揚げされて貯蔵・焙煎したコーヒー豆は産地証明書があれば済む点も横浜ロースタリーの強みだ。
中国の放射性物質基準に適合する証明書を得ようとすると検査に時間がかかり、焙煎した豆の風味が大きく落ちてしまうが、横浜ロースタリーならその問題を避けられる。今後ますます拡大が見込まれる中国市場を見据えての開設ともいえる。
製造工程をブランディングに生かす
横浜ロースタリーは設計に建築家の高塚章夫氏を起用。工場とは思えないような洗練された外観で、内部は前述のように製造工程に合わせた機能的な造りになっている。中央には通路があり、生豆の選別や焙煎されて商品として包装されるまでの各工程を見学できる。2階の会議スペースや廊下からも、焙煎や生豆の選別工程などが見渡せるようになっている。
こうした見学機能を持たせたのは、一般客向けの見学会を開催し、焙煎を理解してもらうためだ。
「せっかく焙煎所を作るのなら、ただコーヒーを製造するだけではもったいない。金属加工製品で知られる新潟県の燕(つばめ)で工場見学をすると、製造だけでなくその工程をブランディングに生かしていた。我々も同じようにして品質に対するこだわりを知ってもらい、ブランディングに生かしたい。見学して興味を持ってもらうことで、働き手の確保にもつながるのではないか」(小野塚氏)
安定した味と品質を強みに、国内だけでなく海外でもどれだけ人気を拡大できるのか。堀口珈琲の新たな取り組みは始まったばかりだ。
(写真/酒井康治)