八村塁の米プロバスケットボールNBA入りで盛り上がるバスケットボール界。日本でも2016年に誕生した男子プロリーグ「B.LEAGUE(Bリーグ)」の注目が高まっている。入場者は毎年増加し、今や客層の約半分が女性。その集客手法を探ると、ターゲットを絞りすぎない施策が奏功したようだ。

年間表彰式「B.LEAGUE AWARD SHOW 2018-19」でベスト5に選ばれた選手たち
年間表彰式「B.LEAGUE AWARD SHOW 2018-19」でベスト5に選ばれた選手たち
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Bリーグ観戦ならではの“特性”が女性に刺さる

 2018-19シーズンが5月に終了し、総入場者数がB1・B2合わせて259万人を超え、発足以来3年連続で入場者数増を達成したBリーグ。19年5月11日の「B.LEAGUE FINAL 2018-19」では、同リーグ史上最大入場者数の1万2972人を記録。さらに優勝決定トーナメント戦「B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2018-19」では、初めて開幕から全試合満員となった。

2018-19シーズン・Bリーグ「B1」入場者数の推移。平均入場者数は前シーズンに比べて6%増加(資料提供:B.LEAGUE、以下同)
2018-19シーズン・Bリーグ「B1」入場者数の推移。平均入場者数は前シーズンに比べて6%増加(資料提供:B.LEAGUE、以下同)
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 発足3年にもかかわらず、Bリーグには他のスポーツを猛追する勢いがある。注目すべきは客層の約45%が女性であるという点。その理由はどこにあるのか。BリーグPRグループの兼井明子氏はこう話す。

 「開幕前に行った市場調査のアンケートで、観戦に対する女性の興味が高かった。そもそもサッカーや野球では女子の部活があまり存在しないが、バスケットボールは女子の部活としてなじみがある。さらにBリーグ観戦ならではの“特性”も、女性客が多い理由の1つではないか」と兼井氏。

 Bリーグ観戦ならではの“特性”とは何か。

 「試合が行われる場所がアリーナ内なので、天候に左右されず日焼けもしない。スカートやパンプスでおしゃれして観戦できる。選手との距離も近く、試合中の写真撮影と15秒以内の動画撮影もOK(※個人利用目的に限る)」(兼井氏)。トイレをきれいに保つなど、女性がストレスなく楽しめるようにプロモーションとは別の視点から配慮を行き届かせている点も、好影響を与えているようだ。

 高額席のチケットを購入して観戦する女性客も増えてきているとのこと。高額席は試合を一番近くで見られる。最近は若い女性たちが「#Bリーグ観戦」というハッシュタグを付けて、観戦の様子をSNSにアップしているという。公式SNSで拾い上げることも多いそうだ。

 興味はあるけれど1人では行きづらいライト層のために、コミュニティー作りにも注力する。女性向けウェブメディアの「オズモール」と協力し、観戦後にレストランで食事するツアーを開催した。同じ熱量で試合の感想を語り合えるため、年齢層を越えた知り合いができ、新たなコミュニティーが生まれたという。このツアーは好評で、今後も実施する考えだ。

ライトな層を取り入れるための方策は「誘いやすさ」

 プロモーションでは認知と集客に力を注ぎ、コンバージョンも重視しているという。試合は各クラブが主管となるため、兼井氏らBリーグ側はリーグ全体の認知度向上に集中している。現在Bリーグの認知度は60%程度。この数字はBリーグ開幕時からほとんど変化がないという。新規層獲得のためにどんな方策を立てているのか。

 「2018年からBリーグの祭典『B.LEAGUE FESTIVITIES(B.FES)』を3月に行っている。漫画『スラムダンク』の作者・井上雄彦先生のイラスト入りオリジナルTシャツを配布したクラブもある。日本郵便のキャラクター・ぽすくまとコラボレーションして、各クラブのマスコット投票も開催したほか、スカイマークと協力して、井上先生の絵柄を模したBリーグのジェット機を飛ばしたこともあった」(兼井氏)

「B.LEAGUE AWARD SHOW 2018-19」で、各賞を受賞した選手。中央はマスコットオブザイヤーに選ばれた千葉ジェッツのジャンボくん
「B.LEAGUE AWARD SHOW 2018-19」で、各賞を受賞した選手。中央はマスコットオブザイヤーに選ばれた千葉ジェッツのジャンボくん
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 集客に関しては、「誘いやすいきっかけ作り」を意識しているという。

 「ライトな顧客は、Bリーグを知ってもらい、実際に試合に足を運んでもらうまでにハードルがある。そのためコアな顧客が、行ったことのない人をどれだけ連れてきてくれるかが重要なポイントになる。バスケットボールを知らなくても楽しいと思ってもらえるようにコンテンツを工夫し、誘いやすくしている」(兼井氏)

 Bリーグのポリシーの1つに、「エンターテインメント性の追求」がある。競技以外のことにも力を入れ、試合の勝ち負けに関係なく「今日の試合楽しかったね」と言ってもらえるよう方策を講じている。「例えばオープニングショーや音と光の演出などは、各クラブが努力して作り込んでいる。チアガールのダンスがあって、マスコットがいて、高揚感が味わえる。行政に協力してもらって、体育館中央に大型ビジョンを入れるなど、少しでも非日常的な空間にできるよう取り組んでいる」と兼井氏。

 バスケットボールファンなら出身校やポジションなどから好きな選手を見つけられる。しかしライト層にはなかなか難しい。そこでお気に入りの選手を見つけるきっかけ作りも積極的に行っている。「バレンタインにチョコを配るイベントをしたり、選手が女性誌に登場したりと、試合のときとは違うパーソナリティーを知ることができる試みを行っている」(兼井氏)。SNSでも試合での格好良さが伝わる投稿だけでなく、選手の人となりが垣間見えるようなコンテンツ作りを心がけているという。

 「Bリーグが発足して3年間で一気にプロバスケットの認知が広がった。スポーツ系媒体以外の女性誌や一般誌で取り上げられたり、マーケティングやビジネス面でも面白いと思ってもらえたりするようになった。どんな視点でもいいので、面白いと思ったら1回来ていただきたい。19年8月にはワールドカップ、20年にはオリンピックがあるので、今後バスケットボールを目にする機会が増える。そこで『1回見ておこう』と思ってもらえるようなプロモーションを大事にしていきたい」(兼井氏)

 女性を意識したプロモーションに積極的というより、ライト層に向けた施策が女性客獲得にもつながっているようだ。兼井氏によると開幕してすぐの頃はアンケート調査を基に女性向けのグッズを考えたり、レディースデーを設定して割り引きしたり、女性向けサイトを作って選手の特集を行ったりと、試行錯誤を繰り返していたそうだ。しかし現在は「女性に特化するというよりも、ターゲットを幅広くして、その中で女性を含めたライト層を取り込める企画を立てている」と話す。

ライト層もコア層もファンでい続けてもらうために

 Bリーグでは、「I love B」というプロモーションを行っている。「バスケットボールの面白さは何なのか?」に立ち返り、著名人にバスケットボールやBリーグの魅力を話してもらうもの。普段スポーツに関わっていないが、バスケットボールを愛している人の目線で語ってもらう企画だ。ライト層に向けての策だったが、意外な反応があったという。

 「コアなファンが喜んでくれて、登場した著名人に感謝の気持ちを向けている方もいた。コアなファンは『このアーティストやタレントは、バスケットボールを一緒に応援してくれている』という気持ちになれる。そしてライトなファンは『意外なこの人がバスケットボールを好きだったなんて、行ってみようかな』という気持ちになれる。そこに共感が生まれ、みんなで一緒に応援する機運が盛り上がるのがポイント」(兼井氏)

 バスケットボールについて第三者に語ってもらうことで、「自分たちでは気付けなかった面白さを知ることができた」と兼井氏は話す。ライト層を取り込みながら、コアなファンの心もしっかりつかみ続けているようだ。

試合や選手を身近に感じてもらう工夫

「B.LEAGUE AWARD SHOW 2018-19」の入場シーン。駆けつけたファンとハイタッチ
「B.LEAGUE AWARD SHOW 2018-19」の入場シーン。駆けつけたファンとハイタッチ
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 プロモーションには欠かせないSNSのフォロワーも年々増加している。全フォロワー数は、Twitter、Facebook、Instagramの合計で約48万人にも上り、18年から16%増となった。SNSの運営はどのように行っているのか。

BリーグのSNSアカウント数の推移
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 「全クラブにSNSのアカウントを開設してもらっているほか、各クラブで選手個人でアカウントを持ってもらう決まりもある。基本的にはクラブが主導で運営していて、それぞれのクラブの色が出るような投稿が多い。リーグ側で投稿する内容は、両チームどちらにも加担しない白熱した試合を切り取った動画や、全クラブで行うイベントの投稿が中心」(兼井氏)とのこと。

 リーグ側とクラブ側で共有・連携している部分もある。フォロワーの増加数やリツイート、インプレッションが良かった投稿などは、毎月データを共有している。オールスターゲームではリーグ側が撮った集合写真をすべて共有する。その他「皆でトレンド1位を目指して、同じハッシュタグを付けて同時刻に投稿したり、クラブや選手がインスタライブをしたり……」(兼井氏)。

 地域密着もBリーグの強みの1つ。19年1月、富山県で開催されたオールスターゲームは大成功を収めた。

 「富山にはグラウジーズというチームがあるが、リーグ主催のオールスターゲームは、各チームや富山出身のエースが集まるので、バスケの面白さを知ってもらう大きなチャンス。選手にローカル番組に出演してもらってPRした。B1全クラブのマスコット18体を集めたが、これは老若男女を問わない面白さがあったと思う」(兼井氏)

 オールスターゲームは、約半年前から告知が始まる。その間、街中にポスターが貼られたり、出場選手を決めるファン投票が行われたりと、開催前から盛り上がる。オールスターゲームの時期に地元紙が行った小学生対象のアンケートで、プロバスケットボール選手が「将来なりたい職業」の第1位になったという。Bリーグではバスケットボール選手やBリーガーになりたい子供を増やす目標があるため、「奇跡のようだ」と兼井氏は喜びを隠さない。

 みんなが楽しめることは何だろう――。そう考えて作られたコンテンツや施策が、チームや地元の人々などを巻き込み、多くの女性客を呼び込んでいる。ターゲットを絞りすぎず、どの観客も楽しませる工夫を丁寧にしていけば、子供もファンになる。成長していくBリーグには、エンターテインメント事業の本質が詰まっていた。

(写真提供/B.LEAGUE)