日本国内だけでしか使えない“ガラパゴスMaaS”ではなく、世界基準のMaaSをつくる――。高速バス大手のWILLER(ウィラー)が目指す「アジアMaaS」の開幕戦ともいえる取り組みが、シンガポールに続き、ベトナムで始まった。6月26日に発表された、その中身とは?

WILLER社長の村瀨茂高氏(写真右)と、ベトナム最大級の交通グループ・マイリンを束ねるホー・フィ氏
WILLER社長の村瀨茂高氏(写真右)と、ベトナム最大級の交通グループ・マイリンを束ねるホー・フィ氏

 ウィラーは、シンガポールの現地子会社・WILLERS(ウィラーズ)を通じて、2019年6月から自動運転の実証実験を始めた。将来的に交通サービスの主軸となり得る自動運転の知見を、長期テストを行いやすい海外で獲得する狙いだ。

 それに続くベトナムでは、1万6000台のタクシーを擁する大手交通事業者・マイリングループとのジョイントベンチャー、MaiLinh-WILLER(マイリンウィラー)を立ち上げ、6月26日からタクシー配車アプリサービスを展開。8月からは北部にある首都ハノイから南に約250㎞下ったタイホアまでを結ぶ都市間バス「MaiLinh-WILLER EXPRESS」の運行を始める。そして10月には、タクシー配車アプリ上で都市間バスも検索・予約・決済できるようにし、出発地から目的地までをシームレスにつなぐMaaSの世界を実現する計画だ。

 ウィラーが組んだマイリングループは、ベトナム国内のタクシー台数シェアで20%を超え、唯一全国でサービスを展開している最大手。その他、高速バスやシティバスを100台、レンタカーを300台、輸送サービス用バイクを7000台運用している。決済サービスとしてはプリペイド型のMCC(MaiLinh Customer Club)カードを展開しており、累計23万枚を配布、1万9000社が利用しているなど、強固な顧客基盤を誇る。

緑色で統一されたマイリンタクシー
緑色で統一されたマイリンタクシー

 ベトナムでは、自家用車などを使う送迎のマッチングサービス(ライドヘイリング)で東南アジア最大手のグラブが進出したことにより、競争が激化しつつある。これに対抗すべく、タクシー配車で「日本品質」の運行管理・サービスレベルを実現し、さらに基幹交通となる都市間バスを連携させたドア・ツー・ドアの交通サービスとして差別化を図る狙いだ。「ベトナムが経済発展してきた中で、料金よりも安全性やサービス水準といった品質に反応する層が増えている。そのマーケットに加え、日本からの出張者や旅行者のニーズにも応えていきたい」(ウィラーの村瀨茂高社長)と話す。

 タクシー配車アプリは、まずハノイのマイリンタクシー1000台を対象にスタート。2020年にはベトナム全省に広げる。機能としては、ユーザーの呼び出しに応じてリアルタイムで空車のタクシーをマッチングするだけではなく、配車時に運賃が確定してネット決済できたり、多言語(日本語、英語、ベトナム語)のチャット機能でドライバーとのやり取りができたりと、日本からの旅行者にとっても使いやすい仕様になっている。

 例えば、チャット機能では「ここで止まってください」「経路が違うと思います」といった定型文が用意されており、日本語のリストから選んでチャットを送ると、ドライバーにはベトナム語に変換されて届く。今後はタクシーの事前予約や韓国語、中国語への対応を進める方針だ。

都市間バスも「日本品質」で勝負

 一方、ハノイとタンホアとを結ぶ都市間バスは、8月のサービス開始当初は2台で1日4便を運行。ハノイ、タンホアを起点とした20~100㎞圏内の都市間、ベトナム南部の中核都市ホーチミン発など、徐々に路線を拡大していく計画だ。

 新規投入するバスには、日本のWILLER EXPRESSで好評の「リラックス≪NEW≫シート」を搭載する他、運行管理センターによるリアルタイムの遠隔監視、ドライバーの眠気検知センサー、ドライブレコーダーなど、“日本流”の安全ノウハウをフル活用する。「ベトナムの社会課題として交通事故の増加があり、バスも例外ではない。我々の技術で安全レベルを少しでも底上げしていきたい」(村瀨氏)。

車両はベトナムのチュオンハイ自動車(THACO/タコ)と共同開発
車両はベトナムのチュオンハイ自動車(THACO/タコ)と共同開発
日本のWILLER EXPRESSで培った安全システムを導入する
日本のWILLER EXPRESSで培った安全システムを導入する

 もう1つ、ベトナムの都市部ではマイバイクやマイカーの増加による交通渋滞、環境問題が深刻化している。これに対しては、タクシー配車と都市間バスを組み合わせたドア・ツー・ドアの交通サービスへの移行を促すことで貢献する構え。今後は、同じ方向に行く複数の乗客をマッチングする相乗りサービスの導入も検討するという。

 こうしたシンガポール、ベトナムでの取り組みに続き、ウィラーは7月下旬から日本でMaaSアプリ「WILLERS MaaS」の展開を始める。日経クロストレンド既報(「10月に『定額制MaaS』導入へ WILLER社長が明かす」)の通り、その中核となる舞台は世界遺産の知床を擁する北海道の道東エリアと、京都丹後鉄道の沿線エリアだ。

 この2つは、国土交通省が6月18日に発表した「日本版MaaS」に向けた先行モデル事業に採択された。北海道では車載センサーによって移動中の観光客の感情データを可視化する仕組みを導入し、京丹後ではQRコード決済による行動履歴、購買履歴データの把握・活用を目指すなど、ユニークな試みが予定されている(詳細は、ウィラーが7月19日に開催する「MaaS Meeting 2019」で発表)。

 ウィラーが目指すのは、日本でも海外でもユーザーが同じアプリで移動できる「アジアMaaS」の世界。日本国内のMaaS実証実験がこれから盛んに行われようとしている中で、壮大とも思えるその戦略は、しかし着々と進んでいる。

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