異業種オーナーが続々誕生

 何より重要なのは、変わったネーミングに負けない商品のインパクトだ。

 「パンを一口食べてもらえれば、丁寧に手をかけた本物志向の高級食パンであることが分かる。変な名前と本物志向の商品とのギャップ。これがまた新たなインパクトとなって、リピーターを増やしてくれる」と岸本氏。

 そんな同氏にベーカリーをオープンする際の夢を託したのが、「まじヤバくない?」のオーナーで、ケアスイッチ(伊勢崎市)代表取締役の山本信一氏だ。同社は住宅型有料老人ホームと訪問看護ステーションを群馬と新潟で運営している。ベーカリー進出について山本氏は、「高齢の入居者たちは意外にパンが好き。そこで入居者にも食べてもらえて、地域でも愛されるベーカリーの新規出店を考えた」と話す。

 岸本氏に出店を託す決め手となったのは、サンプルとして岸本氏が持ってきた耳まで柔らかい食パンだった。

 「食感は口の中で溶けていくケーキのよう。高齢者にも食べやすく、これだと思った。『まじヤバくない?』という店名は、その後、岸本氏が提案してくれたもの。我々にはまねできないネーミングセンスで、インパクトは大。これはいいと、すぐにOKした」(山本氏)

 岸本氏が開発した“ケーキのような食パン”をベースに、地域の特性や客層などを考え、各店ごとにキャラクターを与えるのがジャパン ベーカリー マーケティングが生み出す食パン専門店の特徴となっている。「まじヤバくない?」の商品は「ヤバくない正論」(2斤・税別800円、以下同)と名付けられたプレーンの食パンと、「ヤバくない完熟」(2斤980円)というレーズン入り食パンの2種類のみ。口溶けの良さと、黒糖の優しい甘みが印象的な、思わず「まじヤバくない?」とつぶやいてしまいそうな逸品だ。

 岸本氏プロデュースのベーカリーは、今や全国に月数回のペースでオープンしている。同氏が編み出した、あえてちょいダサを狙うマーケティングに夢を託し、異業種から多くのオーナーがパン業界に続々参入しているのだ。

「題名のないパン屋」は、黒を基調に自然の木目を生かしたシックな外観
「題名のないパン屋」は、黒を基調に自然の木目を生かしたシックな外観

 保水性のある江戸甘味噌を練り込んだ「無の極み“味噌”」(2斤840円)という和の食パンを看板商品に、19年4月24日、東京都大田区に誕生したのは「題名のないパン屋」だ。他店のネーミングに比べるて若干しゃれているが、「おいしいに言葉やストーリーはいらない」という岸本氏の思いから名付けられた。

 コンセプトは「総菜に合うパン」。オーナーはつくだ煮や総菜の専門店を、百貨店などに14店舗展開する「佃浅商店」の7代目社長、杉原健司氏。「母が昔、残り物で作ってくれた卯の花のサンドイッチのおいしさが忘れられない。そんな話をあちこちでしていたところ、岸本氏の講演会を紹介され、ベーカリーの出店を考えるようになった」と話す。

厚焼きの卵焼きをパンに挟んだサンドイッチを提案。卵焼きは甘しょっぱい東京風
厚焼きの卵焼きをパンに挟んだサンドイッチを提案。卵焼きは甘しょっぱい東京風
「題名のないパン屋」の内覧会で挨拶する岸本氏(左)と、佃浅商店の杉本社長
「題名のないパン屋」の内覧会で挨拶する岸本氏(左)と、佃浅商店の杉本社長

 ただし、趣味やノスタルジーからの出店というわけではない。

 「先代から、これからの時代は出店場所に左右されない商売を考えるよう発破をかけられた。ベーカリーという新業態で、創業135年の佃浅商店のV字復活を狙います」(杉原氏)

 総菜工場の一角を改装して、「題名のないパン屋」をオープン。内覧会では「佃浅商店」のおからなども振る舞われ、江戸甘味噌が練り込まれたしっとり系の食パンと、江戸前の甘めの総菜との意外な相性の良さをアピールした。

内覧会では母体である「佃浅商店」の総菜のうち、パンとの相性がいい数品が提供された
内覧会では母体である「佃浅商店」の総菜のうち、パンとの相性がいい数品が提供された