2019年6月11~13日、中国・上海で家電見本市「CES(Consumer Electronics Show)」のアジア版「CES ASIA 2019」が開催された。コンセプト展示にとどまった日本や欧米勢に対し、中国の地場メーカーは既存技術を組み合わせた実現可能なサービスを数多く提案。自動運転やIoTの現実解が垣間見えた。

 自動車業界に訪れるCASE(Connected:常時接続、Autonomous:自動運転、Sharing/Service:シェアリング/サービス、Electrification:電動化)の流れで、ここ数年、CESの顔となった自動車産業。日欧勢がコンセプトカーを展示するなか、中国で検索エンジンなどを手がけるIT大手、百度(バイドゥ)は自社のAI(人工知能)エージェント「小度(シャオドゥ)」を自動車に組み込んだ「小度車載OS」を展示した。

 小度車載OSはAndroidベースのカーインフォマティクス(カーナビやカーオーディオなどを統合したもの)製品で、米フォード車など、既に中国市場で販売されている量産車に組み込んで出荷が始まっている。

小度車載OSベースのカーインフォマティクスが組み込まれているフォードの車
小度車載OSベースのカーインフォマティクスが組み込まれているフォードの車
ダッシュボードにディスプレー付きスマートスピーカーが配置されている(説明ビデオより)
ダッシュボードにディスプレー付きスマートスピーカーが配置されている(説明ビデオより)

 筆者が中国に住んで実感しているのは、スマートフォンのナビアプリでもルート案内や情報の精度が非常に高いこと。小度車載OSは、これを車載向けに最適化したうえ、音楽配信やポッドキャストなども利用可能という。また、音声による操作や、車内カメラを用いたドライバーの疲労検知もできるもようだ。

 小度車載OSに採用されている技術は、一つひとつを取ってみればいずれもありふれたもの。音楽配信もカーナビアプリも、またスマートスピーカーも十分にこなれた価格で手に入る。ポイントはこれらのサービスを車載専用の安価な機器としてパッケージングしたところにある。自動運転技術が進化すれば、運転に集中しなくてもよくなり、乗車中にエンターテインメントなどを楽しむシーンが大きく広がってくる。百度はネット企業でありながら車のインフォマティクスを直接提供することで、将来の自動運転時代で増える「暇になる時間」を埋めるメディアとしての立ち位置を目指している。

小度車載OSは、既に存在しているサービスや技術を組み合わせている
小度車載OSは、既に存在しているサービスや技術を組み合わせている

多様なIoT群を支える廉価なモジュール

 もう1つ、筆者が注目したのは、アリババ集団が展示していたAIカメラを使った勤怠管理システムだ。通過した人をAIカメラで識別して自動的に勤怠記録に残すことができるという。同社が展開しているグループウエア「釘釘」(DingTalk)向けデバイスの1つだ。釘釘はSlackのようなメッセージング機能に加え、タイムカードや稟議(りんぎ)などの機能も兼ね備えた法人向けSaaS。

顔認証で自動的に勤怠記録ができるアリババ集団のデバイス
顔認証で自動的に勤怠記録ができるアリババ集団のデバイス

 驚きなのはその価格。安いモデルで約5000円、高くても2万円で手に入れることができる。その理由は、コモディティー化したSoC(システム統合チップ。CPU、メモリ、GPU、Wi-Fiなど商品をつくるために必要な機能をひとまとめにしたチップのこと)を活用しているからだ。もともとスマホ向けに開発されたもので、そのエコシステムから調達している。

 会場には、こういったSoCをコモディティー家電に組み合わせたIoTの提案が目立っていた。例えば深セン市から出展していた「WILIT」はWi-Fiを搭載したスマートデスクライトで、上記の安いSoCが使われている。米アマゾンの「Amazon Echo Show」のように小さなディスプレーを兼ね備えているモデルもあり、明るさの変更だけでなく音声コントロールやアラーム、天気や動画の再生に至るまで多くのことをこなすという。BtoB向けのカスタマイズにも対応していることから、ホテルやネットカフェなどが自社開発のソフトウエアを組み込んで使うことも想定される。

IoTとデスクライトを組み合わせたWILIT
IoTとデスクライトを組み合わせたWILIT

 こうしたIoT家電を支えるモジュールに、AI機能を搭載したものも出てきた。広東省中山市のFireflyという会社が製造している「Core-3399Pro-JD4」は中国の半導体メーカーRockchip社製のNPU(ニューラルネットワークを処理する専用装置)を含んだSoCを採用しており、ボード内でディープラーニングを行うことができる。ムーアの法則に沿ったスペック向上だけでなく、数世代前の技術を安く製造できる技術も年を追うごとに進んでおり、IoTを支えるうえで重要な役割を果たしている。

Rockchip社のAIチップを搭載したモジュール
Rockchip社のAIチップを搭載したモジュール

「今ある技術を製品に」を強く実感したアジアのエレクトロニクス

 EC大手の京東集団(JD.com)がリリースした室内運搬用ロボットは、オフィスや病院などの限られた場所で商品の輸送、ラスト0.1マイルを担うもの。室内配送ロボットは、未知の道路への対応能力や様々な天候への対応が求められる無人運転車と比べて実装の課題が少ないため、既に実用化の段階に進んでいるという。

既に実用化の段階に達したという京東の室内運搬用ロボット
既に実用化の段階に達したという京東の室内運搬用ロボット

 このように、中国勢は「今ある技術でつくった新製品」を展示し、今使える技術を生かして目の前の課題を着実にクリアしようとする姿勢を鮮明にしていた。ここが「将来の青写真」を展示する日欧勢と違うところ。IoTをいち早く社会実装している中国の強みは、既存技術の組み合わせという工夫にありそうだ。

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