日本航空(JAL)は2019年9月から国内線の主力機として投入するエアバスA350を披露した。注目は普通席を含めた全席にシートモニターが設置されること。対する全日本空輸(ANA)も、主力機のボーイング777と787の座席をモニター付きに改修して対抗する。その背景には意外なライバルの影が見え隠れする。
JALは2019年9月から、同社初となる欧州エアバス製の大型機A350を羽田-福岡線に投入する。国内の主要幹線の主力機として20年近く活躍した米ボーイング社製の大型機ボーイング777の後継機で、31機を発注済みだ。次世代のフラッグシップ機として、機内インテリアやサービスを一新。一番驚くのは、国内線にもかかわらず、普通席を含めた全席にシートモニターが設置されていることだ。
JALは10年の経営破綻を経て、負のイメージを払拭すべく機内サービスの刷新に力を入れてきた。国内線では14年に本革を使ったシート「JAL SKY NEXT」を導入。17年度には業界に先駆けて機内Wi-Fiサービスの無料化に踏み切った。手持ちのスマートフォンやタブレットをWi-Fiに接続すれば、ウェブサイトの閲覧やメールの送受信に加え、約70チャンネルのビデオプログラムや衛星を介したライブテレビ番組などが見られる。
A350ではシートモニターが付いたことで、接続作業なしでこれらのコンテンツが楽しめるようになる。ハリウッド映画も新たに追加。「スマートフォン接続ではコンテンツを機外に持ち出される可能性があるため許諾が得られなかった。機内モニターだから可能になった」(JAL)という。ただし、国内線は飛行時間が限られるため、1回の搭乗で最後まで見終えるのは難しい。そこで、再生を中断すると8桁のコードを表示。このコードを次の搭乗の際に入力すると、中断したシーンから再生が始まる便利な機能を搭載している。
「今後、主力機として10年以上使うことから、映像コンテンツ以外の提供も見据えてタッチパネル式モニターを搭載した」(JAL)。将来的には機内でのショッピングや、チャット機能などを想定しているという。
ライバルのANAは座席改修で“応戦”
ライバルのANAも国内線の主力機ボーイング777と787の座席改修で“応戦”。19年秋から22年度上期までに19機を全席シートモニター付きに一新する。普通席の画面サイズは11.6型で、JALの10型を上回る大きさだ。コンテンツは機内Wi-Fiサービスでスマホ向けに提供しているものと同じだが、ビデオプログラムの数は約100と、これもJALより多い。
機内Wi-Fiサービスの無料化は18年4月からと、JALに先を越されたANA。一方、国内線の全席シートモニターは17年に導入したエアバスA321neoで対応済み。もっとも小型機のためローカル線での運航が中心だ。利用客が多い幹線で使われる大型機の座席改修で、いよいよ本格的なシートモニター対決の火蓋が切られる。
新幹線とLCCを見据えたサービス向上策
ただ、これを単なるJALとANAの戦いと考えるのは早計。真のライバルは別に存在していると見るべきだ。
ANAの平子裕志社長は「シートモニターは既に米国の国内線では当たり前のサービス。ライバル社(JAL)も導入するので、フルサービスキャリアとして切磋琢磨(せっさたくま)しながらソフト・ハード両面でサービスを向上させていきたい」と話す。その視線の先にあるのは、新幹線と格安航空会社(LCC)だろう。
新幹線は走行中もスマホが使えるが、飛行機では通信が制限されてしまう。これを補うサービスが無料Wi-Fiだった。無料Wi-Fiサービスの開始後、スマホを充電したいという声も多数寄せられているそうで、JAL、ANAともに新シートではモニターに加えて、充電用のUSBポートやコンセントも全席に完備。通話以外の面では新幹線を上回る利便性を提供できるようになる。
LCCとはすみ分けができており、直接の競合はないとされる。しかしLCCが路線網を拡大するなかで、フルサービスキャリアを選ぶメリットが改めて問われているのも事実。差別化のポイントを増やし、頻繁に利用するユーザーに選び続けてもらおうという意図が見える。忙しいビジネスパーソンにとってはうれしいサービス向上といえるだろう。