ソフトバンクとトヨタ自動車の合弁会社で、モビリティサービスを手掛けるモネ・テクノロジーズ。同社が進める異業種の“仲間づくり”の最新リストが、ひっそりと公表された。2019年3月末時点では88社だったが、6月現在で200社を超える企業が参集。新たに加わった有力企業とは?
モネ・テクノロジーズは、オンデマンドのモビリティサービスや、移動データの解析サービスを展開し、自動運転車両を活用した新サービスにつなげる構想を持つ。これに当たって同社が重視しているのが、自治体や他企業を巻き込んだ“仲間づくり”だ。
すでに自治体との間では、横浜市や愛知県豊田市といった全国17の自治体と連携しており、5月時点で「200以上の自治体からアプローチがある」(モネ・テクノロジーズ)といい、ほとんど“独走”状態。MaaS事業の展開を目指すライバル企業からは、「有力な自治体にプレゼンに行くと、『すでにモネさんと提携の話が進んでいるので…』と断られることが増えてきた。正直、もう入り込む余地は少ない」といった恨み節も聞こえてくるほどだ。
一方の企業間連携のカギとなるのが、新しいビジネスモデルの検討や事業実現に向けた法制度改革を目的とした組織「MONETコンソーシアム」。3月の設立当初から、JR東日本やフィリップス・ジャパン、コカ・コーラ ボトラーズジャパン、サントリーホールディングス、ヤフーといった、そうそうたる企業が名を連ねて話題を呼んだ。例えば、自動運転を活用したオンデマンド自動販売機や移動型のバー、移動型ヘルスケアサービスなどの構想が明かされている。
それから約3カ月。当初は88社でスタートしたMONETコンソーシアムは水面下で拡大を続けており、日経クロストレンドの取材に対してモネ・テクノロジーズは、「実は、6月現在で参加企業が200社以上に拡大している」と答えた。ソフトバンクとトヨタを軸とした“MaaS連合”に合流しているのは、一体どの企業か。MaaSやモビリティサービスに新たなビジネスチャンスを見出そうとしているのは、どの業界か。6月18日の深夜、何の告知もなしに更新された参加企業リスト(197社、5月末時点)を基に、いち早く分析した。
参加企業が多いのは金融、不動産系
まず、MONETコンソーシアム参加企業197社を業種別に分類したのが、下のグラフだ。食品・生活用品やエンタメなど、一見してモビリティ分野との関連がなさそうな業種まで、多様なジャンルが比較的バランスよく集まっているのが分かる。中でも構成比が高いのは、「金融・保険 ※リース含む(13%)」「建設・不動産 ※コンサル含む(13%)」「システム・リサーチ(11%)」「交通・モビリティサービス(9%)」「小売り・外食(8%)」「情報・サービス(8%)」の6ジャンルだった。
例えば、金融・保険業界で言えば、MaaSの必須機能と言えるキャッシュレス決済の在り方、自動運転時代を見据えた新しい保険体系などへ関心が高く、多くの企業が集まったと推察される。また、建設・不動産業界にとっては、MaaS普及によってマイカー利用から交通サービス利用に変わることで、空きが増える駐車場スペースの活用や、街づくりそのものの変化がテーマになり得る。さらに、交通サービスの充実による不動産価値の向上、住宅とモビリティをセットにしたサービス展開なども視野に入るため、有力企業がこぞって集まったのだろう。
第一生命、大和ハウス、三越伊勢丹も名乗り
では、業種別に、どんな企業が新たに参加しているのか、いくつか解説をしながら見ていこう。当初発表された88社に負けず、有力企業がずらりそろっている。
【金融・保険】
銀行ではメガバンク3行に加え、今回新たに岐阜市に本店を置く地方銀行・十六銀行が加わった。また、もともと参加を表明していた大手損害保険会社や大手クレジットカード会社に加え、生命保険会社では初めて第一生命保険が入ったのが目立つところだ。その他、新規組では仮想通貨取引所サービスのbitFlyerが加わっている点にも注目したい。今後は、MaaSの決済手段、あるいは交換通貨としてビットコインの活用もあり得るかもしれない。
【建設・不動産】
大手デベロッパーでは、東急不動産と森ビルが新たに参画した。また、住宅メーカーの大和ハウス工業、不動産仲介の三井不動産リアルティ、賃貸の大東建託、スーパーゼネコンの大成建設といったトップ企業がMONETコンソーシアムに加わった。オンデマンドのモビリティサービス活用、自動運転の実証、スマートシティに向けた新たな街づくりまで、広範な議論と実際のビジネス展開が期待される。
【交通・モビリティサービス】
モネ・テクノロジーズが主に展開するオンデマンドのモビリティサービスは、鉄道やバスなどの一次交通を補完して、ファースト・ラストマイルを担うことが期待される。そのため、3月時点でJR東日本や東京急行電鉄、JAL、ANAが参加を表明していた。今回は、さらにその輪が広がり、MaaSアプリの開発を進めている小田急電鉄の他、名古屋鉄道、京王電鉄、東京地下鉄、JR九州といった有力な鉄道会社、ソニーとグリーンキャブ、国際自動車といった都内タクシー会社5社などによるタクシー配車サービス会社・みんなのタクシーも加わった。
【小売り・外食】
もともと参加企業に名を連ねていたイオンモールに加え、小売り業界ではイオンリテールが参加。他にもイオン系では、マルエツやカスミ、マックスバリュ関東を傘下に持つユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスが加わった。ドラッグストアでもイオン系のウエルシア薬局が参加しており、イオンがMaaSおよびモビリティサービスに意欲的な姿勢であることが分かる。また、百貨店としては今回、三越伊勢丹が加わった。オンデマンドのモビリティを活用した送迎サービスや移動販売、割引クーポン連携などの検討が進みそうだ。
一方、外食チェーンでは、すき家やココス、はま寿司などを展開するゼンショーホールディングスが新たに参加。こちらは上記の他、自動運転による宅配サービスなどの組みわせが考えられるだろう。
【食品・生活用品】
3月の発表でコカ・コーラとサントリーの参画が大きな話題を呼んだが、飲料業界では新たにキリンビバレッジ、サッポロホールディングスが加わった。日用品ではユニ・チャーム、菓子業界からはブルボンが参画。オンデマンドのモビリティサービスを活用した移動販売や、配送サービス、自動運転車両の車内サービス展開など、さまざまなアイデアが生まれそうだ。
【物流】
物流ジャンルでは、ヤマトホールディングスがいち早く参加を表明していたが、今回、佐川急便の純粋持ち株会社SGホールディングス、日本通運、フェデラルエクスプレスジャパンといった有力企業がこぞって加わった。多くのトラックを保有するサカイ引越センターも新たに参加しており、自動運転を交えた物流の効率化モデルが生み出されるのか否か、今後の動きに注目だ。
カラオケ第一興商、参加の狙いは?
これまで取り上げたジャンル以外でも、MONETコンソーシアムには新たに有力企業が参加を決めている。そのラインアップは下表を見てもらいたいが、例えばエンタメジャンルでは、カラオケボックスなどを展開する第一興商が注目株。自動運転サービス時の車内エンタメの提供など、さまざまなシナジーが期待される。
素材・エレクトロニクス系では、NEC(日本電気)や旭化成が新たに加わった。また、旅行ジャンルでは日本旅行が参加したことで、業界4強がそろった形だ。最後に、スタートアップではCarstayが面白い。同社は車中泊・テント泊をしてクルマ旅を楽しみたい人と、駐車場や観光体験を提供したい“ホスト”をつなぐシェアリングサービスを展開しており、モネ・テクノロジーズが展開するモビリティサービス、ないしはMaaSとの親和性も高いだろう。
このように200社を超える有力企業を集めたMONETコンソーシアムは、MaaS関連の企業連携組織としては日本最大の規模と言っていいだろう。ここから新たなビジネスモデルが生まれることに期待するばかりだが、参加企業が多く、思惑もさまざまだけに一筋縄ではいかなそうだ。参加企業からは、「まずは様子見。モネ・テクノロジーズの動きを知りたい」「何ができるか分からないが、勉強のため申し込んだ」といった声も漏れ聞こえてくる。モネ・テクノロジーズのかじ取りで成功モデルをつくれるのか否か、注目していきたい。