アイロボットジャパン(東京・千代田)は2019年6月8日、ロボット掃除機「ルンバ」の3機種を月額で利用できるサブスクリプションサービス「ロボットスマートプラン」を開始した。新サービスを始めた背景について同社のマーケティング本部 本部長 山田毅氏に聞いた。
ロボット掃除機がスマートホームの核になる
「ロボット掃除機、一家に一台」は、アイロボットが掲げる目標だ。アイロボットジャパンの発表によると、ルンバの売り上げは順調に推移しているものの、全国世帯普及率は19年3月時点で5.1%と米国の半分以下。「ロボットスマートプラン」は、ルンバのさらなる普及を目指しての施策と言える。
アイロボットが同社のロボット掃除機の普及を促したい理由には、そう遠くない将来に訪れるスマートホーム時代を見据えた戦略があるからだと山田氏は語る。
「創業者の1人、現CEO(最高経営責任者)のコリン・アングルには、『スマートホームを作っていきたい』という思いがあった。現在、IoT(モノのインターネット)家電が普及しつつあるのは間違いないが、テレビはテレビ、エアコンはエアコンと操作用アプリも別々で、各家電がうまく連携できていない。そのプラットフォームになるのがロボット掃除機。家の間取りを理解し、指定の場所に自ら移動して、IoT家電の間を取り持つことができるのはロボット掃除機のほかにない」。
例えば複数のエアコンがある家の場合、現状のスマートホームでは「リビングのエアコンをつけて」のように、どのエアコンを動作させたいか指定する必要がある。しかし、最新のルンバが備えるマッピングの技術を利用すれば、「冷房をつけて」と言うだけで、その人のいる部屋のエアコンだけを動作させることも可能になると山田氏は言うのだ。
「スマートホームは、海外では着実に普及しつつあり、その流れはやがて日本にもやってくる。その際、スマートホームの核になる機器として、ロボット掃除機は欠かせない存在になる。その1台を各家庭に送り込む施策の1つとして、今回のサブスクリプションサービスにチャレンジした」(山田氏)
また山田氏は、「映像配信サービスなどはコンテンツをリコメンドする機能を提供している。ルンバのAI(人工知能)搭載モデルでは、日々の利用状況のデータをクラウドに蓄積・分析し、お客さまの使い方に合わせた提案ができるようになる」とルンバの可能性についても言及した。現状、AIを搭載しているのは最上位モデルの「ルンバ i7+」のみだが、AI搭載モデルが増えてくれば、ロボット掃除機の新しい使い方が生まれてくるかもしれない。
「そうなれば、AIを駆使したサービスを『ロボットスマートプラン』に追加する可能性もある」と山田氏は付け加えた。
サブスクで潜在顧客にルンバを体験してもらう
日本でスマートホームの普及がなかなか進まない理由について山田氏は「新しいものに飛びつかない、使ったことがないものは信用しない、という日本人の国民性がある」と分析している。アイロボットジャパンが独自に打ち出した「ロボットスマートプラン」は、それらの障壁を打ち破るための施策だ。
「『ロボット掃除機、一家に一台』という目標を実現するために何ができるのかを、2年以上前からずっと考えてきた」と山田氏。そしてたどり着いたのが、購入を検討しているものの、あと一歩が踏み出せないでいる“潜在顧客”の背中を押す仕組みだ。「ロボットスマートプラン」の狙いは、まずルンバがある生活を体験してもらうこと、そのために導入コストを下げることにある。
ルンバがある生活をしっかり体験してもらうという意味で、同プランでは、契約開始から12カ月以内は解約・返品不可という“しばり”を付けた。12カ月未満で解約・返品した場合、12カ月分の利用料の残金の支払い義務が発生するため、月額3800円(税別)の「ルンバ i7+」を例に取ると、最低でも4万5600円の支払いが発生することになる。これはユーザーにとってリスクと言えないだろうか。
この疑問に対して山田氏は「ロボット掃除機にまったく興味がない層は、このサブスクリプションサービスに興味を持たないので、利用するのは潜在顧客と考えていい。12カ月という期間が適切かどうかの判断は難しいが、実際に使ってみればルンバの良さを実感してもらえるはず。解約したいというユーザーはほとんど出てこないとみている」と答えた。「ロボットスマートプラン」は、自社製品に対する自信に裏付けられたサービスなのだ。
「ロボット掃除機の場合、ケーブル類を整理したり、障害物を取り除いたりすることによって、日々の掃除がより効率的になる。そういった使い方に慣れてもらうまでの期間を12カ月と想定した」(山田氏)
言うまでもないが、アイロボットはすべての購入チャネルを「ロボットスマートプラン」にするわけではなく、店頭販売は続けていく。ユーザーにとっては、店頭での購入に加え、サブスクリプションサービスという選択肢が増えるということだ。
レンタルや割賦の問題点をサブスクでカバー
「ロボットスマートプラン」のもう1つの狙いは、導入コストを引き下げることだ。最上位モデルである「ルンバ i7+」の直販価格は税込み14万270円、最も安い「ルンバ 643」でも税込み3万2270円。価格の高さが購入の障壁になっていることは、アイロボットジャパンも独自の調査結果から承知している。
導入コストを引き下げるならリースや分割払いという方法もある。実際、今回のサブスクリプションサービスでアイロボットジャパンと協業した家電レンタルのレンティオ(東京・品川)では「ルンバ」のレンタルも取り扱っている。
この点について山田氏は「弊社でも15日間のレンタルサービスをやったが、お客さまに使っていただいたのはメンテナンス済みの中古モデル。そのためトラブルが起こることがあった。今回のサービスでお届けするのは新品。万一トラブルが発生しても無償の修理・交換サービスを用意している」と説明する。
山田氏が言うように、「ロボットスマートプラン」の契約期間である36カ月間は無償修理が保証されている(バッテリーなどの消耗品は有償)。契約満了後、使用していた製品がそのままユーザーのものになる点もレンタルとは異なる。
「もう1つ、分割払いもあるが、その場合は1年間の保証期間を過ぎると修理が有償になる上、返品もできない。それらのリスクを弊社が担保するのが『ロボットスマートプラン』だった」(山田氏)
また、今回のサブスクリプションサービスを、契約期間である36カ月間にわたって利用すると、月額利用料の合計は各モデルの実勢価格を上回るのも気になるところだ。
しかし山田氏は、それでもユーザーにメリットがあると言う。「量販店など購入する場合、36回の分割払いを利用すると10%前後の金利手数料がかかる上、保証期間はどの店でも約1年間。手数料分を加えた月々の支払い額と保証期間まで考えれば、直販で14万円以上する製品を税込み4000円程度で使い始められるのは魅力だと思う」(山田氏)。実際に計算してみたが、14万円を金利手数料(年利)10%で36回の分割払いにした場合、月々の支払い額は約4500円だった。
ルンバが誕生して17年。認知は進むものの、なかなか導入に至らない現状に対し、アイロボットジャパンの新サービスはブレークスルーポイントとなるか。スマートホームの核となるロボット掃除機の登場は、同社が掲げる「ロボット掃除機、一家に一台」時代を待ってはくれない。
(写真/井上真花、写真提供/アイロボット)