5月末に開催された日経BPの技術イベント「テクノロジーNEXT2019」に、鉄道会社の中でいち早くMaaSを推進しているJR東日本と小田急電鉄のキーパーソンが登壇。JR立川駅周辺を舞台とした「立川MaaS」の話題も飛び出した。

テクノロジーNEXT2019に登壇した、東日本旅客鉄道 技術イノベーション推進本部 MaaS事業推進部門次長の鷲谷敦子氏(写真左)と、小田急電鉄 経営戦略部 次世代モビリティチーム 統括リーダーの西村潤也氏(写真右)
テクノロジーNEXT2019に登壇した、東日本旅客鉄道 技術イノベーション推進本部 MaaS事業推進部門次長の鷲谷敦子氏(写真左)と、小田急電鉄 経営戦略部 次世代モビリティチーム 統括リーダーの西村潤也氏(写真右)

 JR東日本と小田急電鉄は、各鉄道会社間の境界を越えたシームレスな移動サービスの提供を目指し、2019年1月末にMaaS分野での連携を検討することを発表した(関連記事「【速報】MaaSの一大連合なるか JR東日本・小田急が連携へ」)。

 それから約5カ月。その間、JR東日本は今後のMaaSの展開をにらんで「JR東日本アプリ」を4月に刷新。また、同月には東京急行電鉄と伊豆エリアでの観光型MaaS実証実験を始めている。

 一方の小田急は19年秋、箱根エリア、町田・新百合ヶ丘エリアでMaaS実証実験を始める。それに向けて開発しているMaaSアプリの共通データ基盤「MaaS Japan(仮称)」について、他社に開放する方針を4月に発表。翌5月には鉄道会社としてJR九州や遠州鉄道がMaaS Japanへの参加を決め、その他、日本航空や、タクシー配車サービスのJapan Taxi、「MOV(モブ)」を展開するディー・エヌ・エーなどと連携することが明かされた。

 鉄道会社を含め、さまざまな交通サービスを巻き込んだ企業連携、“仲間づくり”が進む中で、JR東日本と小田急のキーパーソンは今、何を語ったのか。テクノジーNEXTの講演内容を詳報する。

編集部 まず初めに、JR東日本と小田急は鉄道事業者としてライバル関係にあると思うが、なぜいち早くMaaS分野での連携を始めることができたのか、改めて教えてほしい。

JR東日本・鷲谷敦子氏(以下、鷲谷) もちろん、鉄道事業者としてサービス向上の観点で今後も切磋琢磨(せっさたくま)するのは必要なことだと思います。一方で、MaaSという新しい概念が出てきて、お客様に毎日の生活でいかに便利に楽しく乗り物に乗り、活動範囲を広げてもらうかという観点で考えたとき、本来、JR東日本も小田急も関係ないはず。お客様は目的地へ行くために必要な移動手段を使うだけだからです。これは、バスやタクシーも同じ。お客様視点に立ったサービス提供を考えれば、あらゆる交通サービスはライバル関係ではなく、重要なパートナーということです。

小田急電鉄・西村潤也氏(以下、西村) 確かに小田急とJR東日本は路線によっては競合関係にあるが、すでに東京メトロ千代田線を通じて常磐線とは相互直通運転をしており、JR東日本の車両も小田急線に入ってきている。このように鉄道会社はそれぞれ相互直通運転を通した連携が多分にあり、MaaSにおいても協力し合えると考えています。

 JR東日本とMaaS分野での連携を話し合う過程で、我々小田急の大きな強みは二次交通、特に日本最大の規模を誇る路線バス網にあると再確認できました。一方で、不足しているのは都市間輸送。JR東日本は新幹線をはじめ、東日本全エリアをカバーしており、サービス提供のエリアが拡大するという点で非常に魅力的でした。

編集部 両社の連携は、具体的にどのような形を想定しているのか。

鷲谷 細かいことは本当にこれからの話ですが、例えば両社がリアルタイムの運行情報を共有すれば、お客様が列車のトラブルに遭遇したときに迂回ルートの提案がスムーズに行えるようになります。特に東京の場合は、代替する移動手段が豊富にあるため、それを使って早く目的地に行きたいというニーズは多いでしょう。それ以外でも、時間はかかるが空いているルートや、混んでいるが最短のルートなど、リアルな情報を基にいろんなニーズに対応できるはずです。

 先ほど西村さんもお話しされていましたが、小田急は沿線にきめ細かな路線バス網を持っています。一方、JR東日本は東京で路線バスを展開していません。この辺りもシナジーが生まれるのではと、非常に期待しています。

JR東日本と小田急の連携によるサービスイメージ
JR東日本と小田急の連携によるサービスイメージ

西村 ぜひお願いします(笑)。小田急に限らず関東の私鉄は、都心から放射線状に線路を展開しています。その間をつなぐ環状線はJR東日本の南武線や横浜線などがあり、迂回ルートなどで連携を深めていくのは我々にとっても貴重です。

 一方、例えば小田急グループの立川バスは、JR立川駅周辺に路線バス網をしっかり持っている。立川エリアは近年、大規模な都市開発が進んで非常に発展しており、JR東日本も力を入れています。まずはエリアを限定して、立川辺りで実証実験的に取り組みを始められればと、個人的には考えています。鷲谷さん、いかがですか。

鷲谷 エリアを限定して、まずやってみるという意味では非常に魅力的な話ですね。

JR立川駅周辺は大規模な再開発が進む(写真:Shutterstock)
JR立川駅周辺は大規模な再開発が進む(写真:Shutterstock)

2020年、東京五輪がターゲット

編集部 鉄道会社同士、あるいは異なる交通サービスとの連携を図ってMaaSを構築していく際、データをどう扱うかという問題がある。そこについては、どのように考えているか。

鷲谷 海外のMaaSの事例では、たいてい公共交通事業が公営であることが多い。そうすると、自治体の方針でデータ収集など、いろんなことがやりやすい状況にあります。

 その点、日本は事情が異なります。公共交通は大半が民営企業であり、それぞれが工夫をしながら自主自律でやることになっています。その前提があるうえ、これまでデータ連携を視野に入れてきたわけではないので、データ形式やシステムが違ったり、一部はチケットを紙で発券していたりと、バラつきがあります。

 また、鉄道の時刻などのデータ自体が、すでに生データを加工して他社に販売するビジネスとして成立している部分もある。海外のように無償のオープンデータとして提供するやり方を、一足飛びに、そのまま日本に持ち込むのは難しいと感じています。

 しかし、そうはいってもデータ連携自体は非常に重要で、それがお客様の役に立つサービスを生むことは我々もよく分かっています。ですので、しっかり議論を重ねながら前に進んでいきたい。

編集部 小田急では、オープンな共通データ基盤として「MaaS Japan(仮称)」を他社に開放していくとしている。

西村 そうですね。MaaS Japanには、JR九州や遠州鉄道に接続していただくことが決まりました。

 日本の鉄道システムは、安全運行にかかわる部分をかなりシステムで制御しています。その時代が長かったので、システムの情報を外に出すという話は本当に最近になって始まったことです。もともとの設計思想になかった話なので、本当にデータを外に出すとなるとシステム自体を大幅改修する必要がある。

 一方で、データを出せばすごく良くなるとみなさん言うが、どういうデータがどのような提供価値になるかというところまで、まだ示せていないのが現状。我々としては小田急線沿線の二次交通が中心になるが、関係していただく交通事業者のデータも加味しながら、そのデータがどんな提供価値を生むのか、MaaS Japanでお見せしたい。データの受け渡しについて、提供する側、受け取る側が良好な関係を築けるよう模索することが必要です。

共通データ基盤となるMaaS Japanの新たな枠組み
共通データ基盤となるMaaS Japanの新たな枠組み

編集部 なるほど。MaaSを展開していくに当たって、鉄道やバス、タクシーといった既存の公共交通以外では、どのような交通サービスを取り入れる予定か。

西村 (小田急は)鉄道、バス、タクシーの他、駐車場の運営なども手掛けています。それ以外でカーシェアはタイムズカーシェアと、バイクシェアではドコモ・バイクシェアとの連携をすでに発表している。そこで、これからは郊外エリアでオンデマンド交通に挑戦してみたいですね。

 小田急沿線の郊外にある高齢化が進んだ団地や住宅街へのバス路線は現状維持できているが、利用者の満足度をもっと上げる余地がある。バスとタクシーの中間に当たる、オンデマンド型バスのようなものを実現できないか、社内で検討している。これについては、19年度中に実証実験をしたい。

鷲谷 (JR東日本は)東北から新潟、長野まで幅広く、さまざまな特徴を持つエリアを抱えている。それぞれのエリアの活性化が、我々の発展や地域への貢献にもなるというスタンスでMaaSに取り組んでいる。

 新たなモビリティの連携については、地域を元気にするために移動の困りごとをあぶりだし、その解決のために地元サービスとつなげていく。地域のみなさんと協力していくという切り口で広げていきたい。東京を中心とした小田急との連携と、地方の活性化や困りごと解決とを並行してやっていきたいですね。

編集部 JR東日本と小田急の連携を発表したリリースでは、「他の交通事業者との連携も視野に入れている」と明記していた。その後、“仲間づくり”は進んでいるか。

西村 すでに、いろんな事業者から興味をもっていただいています。これから順次話が展開していくのではと思っています。

鷲谷 同じく他の事業者からのコンタクトは多数あります。1年前は、ここまでMaaSという言葉が浸透していなかったが、各社、会う回数を重ねるごとにMaaSに取り組む意識の変化を強く感じる。今後、連携の話は加速度的に進んでいくと思います。

編集部 最後に、今後MaaSビジネスを推進していくに当たって、改めて意気込みを。

西村 (小田急)社内では「沿線をピカピカにする」と言っているが、小田急電鉄というローカルな鉄道会社ができることを、MaaSを通じてしっかりやっていくことで、日本社会や地域の貢献につながっていくのではないかと思っています。

 先日、当社は三井住友海上火災保険とMaaS分野での保険開発に取り組むことを発表したが、他にも不動産業界など、さまざまな事業者と連携していくことで、今までできなかったことを実現していきたい。開発しているMaaSアプリに関しても、スマホを持って旅行すれば好きな店が見つかり、優待も受けられるなど、しっかり価値を提案していきます。沿線をピカピカにしながら新しい世界観、ライフスタイルを提案して、「会いたいときに、会いたい人に、会いにいける」という素敵な社会を実現したい。

「仙台MaaS」の検討もスタートした(写真:Shutterstock)
「仙台MaaS」の検討もスタートした(写真:Shutterstock)

鷲谷 2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、世界中から多数の方が東京を訪れる。そこで、いかにきちんと目的地まで運びつつ、案内するかが非常に重要なので、近い未来の目標としてはそれに対してのサービス提供をきちんとやっていきます。

 また、地域活性化という観点では、東急電鉄と協力して伊豆で観光型MaaSの実証実験も行っています。このような取り組みを、他の地域にも広げていきたい。このたび弊社は宮城県、仙台市と連携し、「仙台圏における観光型MaaS」を検討していくことにしました。観光で人が動いて消費して、新たな発見をするということが、単に地域にお金が落ちるというだけではなく、人々の生活を豊かにしていく。そう思っています。

編集部 本日はありがとうございました。

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