「ランチ問題」はオフィスパーソンにとっての悩みの種だ。昼休みを入店待ちで浪費するのは避けたいところ。受取時間を指定できる弁当テークアウトの月額定額制サービスが、会員を増やしている。飲食店のテークアウトには軽減税率が適用されることから、今後の需要拡大が見込まれる。
オフィス街や繁華街などでランチを食べようとしても、どこの店も大混雑。貴重な昼休みの時間を無駄にして、イライラしたことがある人は多いだろう。一方、ピーク時の混雑は、飲食店にとって機会損失につながる。
客と飲食店の両方の不満を解消するとして、月額定額制の弁当テークアウトサービス「POTLUCK(ポットラック)」が販売実績を伸ばしている。POTLUCKは、ユーザーがネットで飲食店を検索し、ランチやディナーの弁当を予約できるサービス。ユーザーは、ランチの場合は午前10時まで、ディナーの場合は午後5時までに予約し、指定した時刻に店に弁当を取りに行く。混雑時に並ばずに済み、前払い制なので店舗での決済が必要ない。
料金プランは、ランチ食べ放題が月額1万2000円(税抜き、以下同じ)、ランチ・ディナー食べ放題が月額2万4000円のほか、1カ月間限定の回数券プランとして、6チケット(月額4080円)、12チケット(月額7800円)、20チケット(月額1万2000円)がある。1日に昼1回、夜1回まで利用できる。一部店舗は土日にも販売する。
食べ放題プランの場合、使うほどお得になる。例えば、月額1万2000円のプランでランチを1カ月に平日のみ20日食べたとして、1食当たり600円、30日食べたら1食400円になる計算だ。1食当たりの金額は、最近増えているフードトラックと同程度か、毎日食べたら確実に安価になる。消費者にとって毎日の食費を節約できる点は魅力的だ。
一方、飲食店にとっては、予約を受け、事前に作り置きできるので、忙しいときでも店舗での運営にそれほど支障が出ず、テークアウトの売り上げを上乗せできる。さらに、弁当を通して新規客を開拓できるメリットも大きい。
サービス開始は、2018年9月3日。現在、会員数は6300人で東京・渋谷、表参道、恵比寿、代官山、中目黒などにある約150店が参加する。累計販売数は、19年3月3日に1万食を突破し、19年5月20日に2万食に達した。サービスエリアの拡大とともに、伸びが加速している。登録店舗数は、1カ月当たり15~30ほど増加している。
開業支援と保険で参加店舗を増やす
短期間で多くの飲食店がPOTLUCKを導入した背景には、消費者の外食行動の変化がある。従来は飲食店が情報を掲載するぐるなびなどのグルメサイトを見て店を選んでいた。しかし、最近は実際に来店した人がSNSなどに投稿するレビューを参考にするようになった。そのため、新規客を開拓するには、1人でも多くの人に店の料理や接客を体験してもらい、知人への口コミやSNSの投稿で伝えてもらうことが重要だ。
同サービスを運営するRYM&CO.(東京・渋谷)の谷合竜馬社長は、「飲食店はこれまでのやり方では集客が難しくなっている。弁当のテークアウトが、店のスタッフが新規客と会話するきっかけになり、集客につながる」と話す。
POTLUCKが成功するには、登録飲食店をどれだけ増やせるかが鍵になる。そのため、RYM&CO.は、地域の店舗に参加を呼び掛けるだけでなく、プレーヤーを増やすための2つの施策に取り組んでいる。1つは、開業支援。もう1つは、飲食店向けの保険サービスだ。
開業支援では、軒先(東京・千代田)が運営する飲食店シェアサービス「軒先レストラン」と提携した。軒先レストランは、営業時間外に貸し出したい飲食店とそれを借りたい人をマッチングするサービス。例えば、夜だけ営業する居酒屋が、昼の時間帯の店舗を厨房などの設備も含めて貸し出す。開業希望の個人や企業がテストマーケティングなどの目的で間借り営業することを想定している。RYM&CO.は、同サービスの利用者に新規客開拓に効果的なPOTLUCKの導入を促して、登録店舗を拡大する。
2つ目は、登録店舗向けの保険サービス「テイクアウト保険」だ。飲食店が弁当のテークアウトを始める際の懸念材料に食中毒がある。同保険では、飲食店がPL保険(生産物賠償責任保険)に契約することを前提に、PL保険の上限金額を超過した場合、最大1億円を三井住友海上火災保険が負担するというもの。これによって、飲食店がテークアウトを始めるためのハードルを下げられる。
RYM&CO.は、エリアを拡大するとともに、POTLUCK専用アプリを開発してユーザーの利便性を高める。さらにオフィスビルを運営する不動産会社と共同で、ビル内の飲食店にPOTLUCKの導入を進める。企業が自社の社員向け料金の一部を補助できる法人プランも導入する予定。機能とサービスを充実させ、事業の拡大を加速する計画だ。
手書きメッセージを添えて関係を深める
東京・代官山にある「Spice & Cafe FamFam(スパイスカフェ ファムファム)」もPOTLUCKを活用し、新規客の開拓に注力している店の1つ。同店は、2019年3月10日にオープンしたばかり。店は複合ビルの2階にあり、大通りに面していないためこともあり、まだ十分に認知されていない。
同店の店舗マネージャ、根来正樹氏は「お客さまと深い関係を構築するきっかけになると思い、POTLUCKを利用することにした」と語る。根来氏は、ただ弁当を渡すだけでなく、手書きのメッセージやイラストを添えている。予約者の名前が分かるので、カードに「〇〇様」と宛名を入れて、「雨の日に来店いただきありがとうございます」など、その日の天気やスタッフの近況などを書き込む。手書きするので手間はかかるが、スタッフの気持ちや個性が伝わるメッセージを送ることで、客の印象に残り店のファンになってくれる可能性が高まる。さらには、口コミやSNSへの投稿も期待できる。
ある時、「好きな食べ物は何ですか」という質問をスタッフがカードに書いたときには、後日、客から回答を記した手紙を手渡されたこともあったという。「1日平均4、5人がテークアウトを利用する。中には4回以上リピートしてくれたリピーターもいる。弁当を購入した人が友人などを連れて夜に来店してくれるケースも増えている」とPOTLUCKを始めて2カ月ほどながら、根来氏は手ごたえを感じている。
19年10月に予定されている10%への消費税増税に伴い、飲食店におけるテークアウトには軽減税率が適用され、消費税率が8%に据え置かれる。その影響で、テークアウトニーズの増加が見込まれる。ヤフーは、月額定額制ではないものの、ビル単位で飲食店のテークアウト商品をスマホで注文できるモバイルオーダーの実証実験を19年6月4日に開始するなど、飲食店のテークアウトは今後競争が激しくなりそうだ。