住宅宿泊事業法(民泊新法)施行から約1年となる2019年6月6日、米エアビーアンドビー(Airbnb)共同創業者兼最高戦略責任者のネイサン・ブレチャージク氏が来日し、プレスカンファレンスが行われた。エアビーアンドビーは住宅宿泊事業法をどう捉えているのか。今後の展開について聞いた。

日本で宿泊可能な部屋数が7万3000室となったAirbnb
日本で宿泊可能な部屋数が7万3000室となったAirbnb

法的枠組みができ、コミュニティーは強力になる

 新法施行でホスト(空いている家や部屋を宿泊場所として提供する人)は住宅宿泊事業の届け出が必要になった。届け出が完了した後は、リスティング(サイトに登録している貸し出す家や部屋)に届け出番号を記載しなければならない(※旅館業法の営業許可、国家戦略特別区域法の認可でも可)。

 新法が施行された2018年6月15日、届け出番号や許認可がないリスティングへの予約を、Airbnb側が全てキャンセルにして騒動となった。このキャンセルによって発生したゲスト(Airbnbに登録している家や部屋を借りる人)の負担を補うため、約11億円相当の基金も設立した。

 それから約1年がたった現在、ブレチャージク氏はこの件による影響と今後の戦略について、どう考えているのか。

 「新法の施行により、日本のホストの方々が合法的に観光事業に貢献することが可能になった。長期的に見ると、法的な枠組みを明確にできたことで、コミュニティーは大きくなり、強力になっていくと考えられる。現在、日本で宿泊可能な部屋数は7万3000室となった。まだまだ調整段階だが、皆さまのコンプライアンスについての意識が高まっていると思う。コンプライアンスによって信頼が生まれ、信頼が培われたら、私たちのビジネスモデルは成功を収められると思っている。ホームシェアリングに対する認知度は高まってきている。合法的なホームシェアリングによって信頼の土台を作っていきたい」

自らも米サンフランシスコ市内でホストをしているという、米エアビーアンドビー共同創業者兼最高戦略責任者のネイサン・ブレチャージク氏
自らも米サンフランシスコ市内でホストをしているという、米エアビーアンドビー共同創業者兼最高戦略責任者のネイサン・ブレチャージク氏

インバウンドのゲストに人気の新宿区と連携

 この日Airbnbは、住宅宿泊事業の適正な運営と健全な発展のために、新宿区と連携することを発表した。連携の主な内容は、(1)ホストの法令順守の啓発、(2)ホストとゲストへの防災情報の提供、(3)新宿区の地域イベントの情報提供、(4)ホストと地域との相互理解の構築の4つ。

新宿区との締結式の様子と、連携内容
新宿区との締結式の様子と、連携内容

 Airbnb Japan代表取締役の田邉泰之氏は、連携の内容についてこのように説明した。

 「住宅宿泊事業の適正な運用と健全な発展を目指し、外国人旅行客から人気の高い新宿区と連携協定を結んだ。我々は正しい形で住宅宿泊事業を成長させるため、ホストの法令順守について啓発を行い、健全な形で運営していくことを目標とする。災害時にはホストとゲストの安全を確保するために、防災の情報もしっかりと提供する。新宿区の伝統や風土のあるイベントや、新宿区の魅力もしっかりと発信していく。ホストと地域の相互理解を深め、正しい形で運営していければと考えている」(田邉氏)。さらにこの新宿区との連携が、住宅宿泊事業の良い事例となればと話す。

 「最後の最後まで違法な物件を排除していくためには、自治体との連携が必要だと考えている。ホストの方には我々から資料を提供して教育をさせていただくこともある。自治体から指摘があれば、我々が協力する。企業や自治体、観光庁も含め、色々な機関と提携することによって、住宅宿泊事業をより健全な方向に持っていくことができる。Airbnbのプラットフォーム上でも違法なことをしにくい状況を作っているが、連携などの活動をもっと進めていきたい」(田邊氏)

インバウンドのゲストの4分の1が中国人、対応は?

 Airbnbのホストだけでなく、インバウンドのゲストに向けた施策についても検討中だという。そもそも日本を訪れた外国人旅行客が抱える課題とは、一体何なのだろうか。

 「日本で旅行をする際の課題としてよく上がるのが、コミュニケーション。例えば電車の乗り方や目的地までの行き方、券売機の使い方、銭湯や温泉などでのマナー。利用したいけれど、よく分からないのでちゅうちょするという人が多い。そこで我々がコミュニケーション手段を提供することで、ゲストをサポートする施策を検討している」(田邊氏)

 この施策の第1弾として、中国人に向けたサービスを展開していくという。まずは日本の旅館を楽しみたいと思っている中国人向けに、中国語でのサポートを本年度中に開始したいとのこと。

 「例えば旅行の前に、旅館に宿泊する人数、性別、年齢を教えてもらうことで、旅館側は浴衣を準備できる。料理を楽しんでもらうために、アレルギーや食べられないものについても事前にヒアリングをする」(田邊氏)

 今後は券売機の使い方や温泉や銭湯でのマナーなどを、Airbnbのアプリのメッセージ機能を使ってサポートするサービスも検討中だという。

 これらの施策を始めるのは、「分からないからちゅうちょしていた冒険を、もっと積極的にしてほしい」という思いから。日本は外国人旅行客から「どこに行っても面白くて新しい発見がある」と評価されているそうだ。コミュニケーションのハードルを下げ、より多くの場所を訪れてもらい、「日本独自のサービスもどんどん使ってもらいたい」と田邊氏は意気込む。

Airbnb Japan 代表取締役の田邉泰之氏。Huluの日本ビジネス立ち上げに携わった後、2013年にAirbnbのシンガポール法人に入社した。2014年から現職
Airbnb Japan 代表取締役の田邉泰之氏。Huluの日本ビジネス立ち上げに携わった後、2013年にAirbnbのシンガポール法人に入社した。2014年から現職

 カンファレンスではAirbnb Partnersについての説明もあった。Airbnbでは物件の開発、セットアップと運用、ゲストの送客と3つにカテゴリーを分けて、企業と連携して民泊のエコシステムを構築しようとしている。参画企業が117社に達し、成長が加速していることをアピールした。

Airbnbパートナーエコシステムの仕組み
Airbnbパートナーエコシステムの仕組み

 Airbnbは、ブラジルで行われたサッカーFIFAワールドカップでの利用者は10万人以上、リオ五輪では8万5000人、平昌五輪でも9000人超えと、世界的なイベントで実績がある。日本でも今後、ラグビーワールドカップや東京五輪など大イベントが控えている。活動次第ではAirbnbが日本で存在感をアピールする絶好の機会になるだろう。

田邉泰之氏(左)とブレチャージク氏(右)
田邉泰之氏(左)とブレチャージク氏(右)

(写真提供/Airbnb Japan)