オリンピックスポンサーの“大御所”が動き出す。日本コカ・コーラは6月10日、東京五輪・パラリンピックに向けた戦略を初めて公の場で説明した。聖火リレーへの参加でHIKAKINなど人気ユーチューバーなどともコラボしていく。目玉は、五輪の舞台で初めて5つのブランドを訴求していく戦略だ。

 「Coke ON(コークオン)でホント簡単に登録できますので、みなさんもこれを使って聖火リレーに参加しましょー」。6月10日、チームコカ・コーラ・アンバサダーに、北島康介さんから任命された綾瀬はるかさんはこう語った。

コカ・コーラ・チーフ・オリンピック担当オフィサーの北島康介さん(左)、チームコカ・コーラ・アンバサダーに任命された綾瀬はるかさん
コカ・コーラ・チーフ・オリンピック担当オフィサーの北島康介さん(左)、チームコカ・コーラ・アンバサダーに任命された綾瀬はるかさん

 この日、日本コカ・コーラは2020年の東京五輪・パラリンピックに向けた戦略を初めて公の場で説明した。まずは、聖火リレーへの参加を広く一般消費者から募るキャンペーンを17日から始めることを発表した。

 応募に使うのが、自動販売機と連動したスマホアプリのコークオンだ。既に1400万ダウンロードという実績を持つ。商品ラベルに印刷されたマークをコークオンでスキャンすると、オリンピック応援ポイントがもらえ、それを使って聖火リレーにエントリーする。

 発表会には人気ユーチューバーも多数参加し、テレビなどに加えてネットで拡散させる戦略を印象づけた。HIKAKIN(ヒカキン)、はじめしゃちょう、フィッシャーズなど6組19人が登壇。日本コカ・コーラはTwitter、Instagram、YouTubeチャネルに「チームコカ・コーラ」アカウントを設け、ユーチューバーらとコラボレーションをしていく。

ヒカキン、はじめしゃちょう、フィッシャーズ、水溜りボンド、東海オンエア、アバンティーズの6組19人の人気ユーチューバーが登壇した
ヒカキン、はじめしゃちょう、フィッシャーズ、水溜りボンド、東海オンエア、アバンティーズの6組19人の人気ユーチューバーが登壇した

 そしてもう1つ。東京五輪に向けた最大の目玉は、五輪で初めて5ブランドを同時に訴求する戦略だ。「コカ・コーラ」に加えて「綾鷹」「ジョージア」「アクエリアス」「いろはす」を打ち出していく。

 五輪というマーケティング戦略上の大きな舞台で5ブランドを訴求するメリットは確かにある。一方で、各ブランド担当者からは当初、反発もあった。個性を殺すんじゃないかと。これをいかに克服したのか。その舞台裏をキーマン2人に聞いた。

 日本コカ・コーラで東京五輪・パラリンピック関連を取り仕切る東京2020オリンピック&エクスペリエンシャルマーケティング担当の渡辺和史統括部長、そして各ブランドのマーケティングを担当するマーケティング本部IMCの河合英栄バイスプレジデントの2人だ。次ページでその内容に迫っていく。

「アベンジャーズのイメージ、ただ個性を殺す懸念も社内にあった」

日本コカ・コーラにとって、今回の東京五輪はどんな意味を持つのか。

渡辺 コカ・コーラ本社が「トータル・ビバレッジ・カンパニー」を2017年に打ち出して、それを体現する場になると思う。今までの五輪では赤のコカ・コーラを打ち出してきた。が、東京五輪では計5ブランドを展開していく。

東京五輪・パラリンピック関連を取り仕切る東京2020オリンピック&エクスペリエンシャルマーケティング担当の渡辺和史統括部長(左)、そして各ブランドのマーケティングを担当するマーケティング本部IMCの河合英栄バイスプレジデント
東京五輪・パラリンピック関連を取り仕切る東京2020オリンピック&エクスペリエンシャルマーケティング担当の渡辺和史統括部長(左)、そして各ブランドのマーケティングを担当するマーケティング本部IMCの河合英栄バイスプレジデント

コカ・コーラ以外も訴求するのは、東京五輪が初となる。

渡辺 過去にもコカ・コーラに加えて、パワーエイドとグラソー(ビタミンウォーター)を個別に打ち出した五輪はあったが、幅広く5ブランドを展開するのはこれが初めて。

河合 これまでは、あくまでコカ・コーラが主で、他製品は従という関係だった。ブランドに横串を通してトータルで見せていくのは、東京五輪が初めてとなる。ハリウッドの「アベンジャーズ」みたいなイメージ。

アベンジャーズ?

河合 そう。あの映画って、誰かスーパーヒーローが1人いるわけじゃなくって、映画ごとにヒーローが変わっていって、みんながヒーローじゃないですか。あのイメージですね。

複数ブランドを同じ“舞台”で同時に訴求すると、それぞれがボヤけないか。

河合 コカ・コーラが五輪の精神に共感しスポンサーになっている理由にも関わってくるんですが、我々が重視しているテーマは「ダイバーシティ&インクルージョン」(多様性の受容と活用)なんですね。人種や宗教などの違いを乗り越え、多様性を認めていきましょうよ、ってことです。1人の人間でも、時々に飲みたい飲料は変わっていくし、それを1商品で満足させることはできない。だからトータル・ビバレッジ・カンパニーを宣言したんです。

各ブランド担当からの反発はなかったか。

河合 そりゃ、ありましたよ。各ブランド担当は、それぞれの商品の(売上)最大化をする責任があるわけで。個性を殺すんじゃないか、という懸念は皆のアタマをよぎったでしょうね。あるいは東京五輪が初めてのチャレンジになるので、知らないものへのためらいもあったと思います。

渡辺 ブランドに横串を通すのは大変かなぁ、とは思いましたよ、正直。ただトータル・ビバレッジ・カンパニーを受けて、そのショーケースになれるのは日本をおいて他にないとも思いましたね。

異なるヒーロー(ブランド)を、どう立たせていくのでしょう。

河合 際立たせながら、それらをつないでいく。例えば、おもてなしという文脈の時には「綾鷹」を打ち出していく。ボランティアの人たちとの一体感、あるいは鼓舞する時には「ジョージア」。もともと、働く人をサポートするがテーマなので。スポーツをやる楽しさを表現したい時は「アクエリアス」、日本の地域を紹介したい場面では「いろはす」。国内6つの水源から採取しているからです。

5ブランドをどう見せていく。

渡辺 テレビなどのほかTwitter、Instagram、YouTubeチャネルに「チーム・コカ・コーラ」という名称で訴求を図ります。今回発表した、人気ユーチューバーの方々との連携も図ります。一方で際立たせたいのがスマホアプリのコークオンなんです。聖火リレーの“入り口”にする考えです。

「コークオン」アプリが聖火リレーの入り口?

渡辺 対象商品には特別なラベルが印字され、それをアプリのコークオンでスキャンすると、オリンピック応援ポイントが手に入ります。その1ポイント分で聖火リレーに応募ができる。それ以外のポイントで、その他プレミアムが入手可能になるのです。つまり、オリンピックも楽しめるコークオンへバージョンアップすることになります。

(写真/山田 愼二)

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