日経BPが5月27日から30日まで開催した技術イベント「テクノロジーNEXT 2019」。最終日の「情報銀行」をテーマにしたセッションに、J.Score代表取締役社長CEOの大森隆一郎氏が登壇。「AIとBIGDATAを活用した信用スコアがデータビジネスを変える」というタイトルで熱弁を振るった。
FinTechの中で成長するレンディングサービス
今、世界中でFinTechのサービスが急成長している。中でも増えているのが、必要とする相手に資金を貸し付ける「レンディングサービス」だ。「米国ではFinTechスタートアップの8割がレンディングサービスだといわれている」と大森氏は説明する。
だが、日本を見ると、企業や団体に対する事業性資金のレンディングサービスは出てきているが、個人向けのレンディングサービスは、これから普及していく段階にある。「そんな中、当社は日本で初めて、個人向けのレンディングサービスを提供し始めた企業でもある」と大森氏は語る。
大森氏が率いるJ.Score(東京・港)は2016年11月11日、みずほ銀行とソフトバンクが共同出資で設立した国内初の本格的なFinTechサービスプロバイダーだ。みずほ銀行が持つファイナンスに関する専門性と、ソフトバンクが保有するテクノロジーを融合。両者が持っているビッグデータにAI(人工知能)を掛け合わせ、利用者のスマートフォン上で新しいフィナンシャルサービスを提供することで、新たなブランドの創出を目指している。
最初のサービス「AIスコア・レンディング」を提供し始めたのは17年9月。その後、Yahoo!JAPANを運営するネットサービス大手のヤフー、通信会社のワイモバイルともデータ連携を実現し、18年10月には新サービス「AIスコア・リワード」を提供し始めた。
AIスコアとは何か
これら2つのサービスの柱となるのが、AIスコアである。AIスコアとは、顧客の持つ情報やビッグデータから信用力と可能性を算定し、スコア化したもの。「現在のAIスコア取得者は約65万件。急速に増えており、年内には100万件を突破する見込み」と大森氏は語る。
最大の特長は、スコアを見える化していること。これまでもスコアリングの仕組み自体は他にもあったが、顧客への開示に踏み切った企業はほとんどなかったという。しかし大森氏は「スコアは自信を持って開示している」と言い切る。
前述したように、J.Scoreは金融機関のみずほ銀行、通信会社のソフトバンク、ネット上の購買履歴などを抱えるヤフーという、それぞれの領域で日本市場をリードするメジャープレーヤーのビッグデータを活用できる。より豊富なデータを活用できるからこそ、正確なスコアを算出できるというわけだ。大森氏は、「信用スコアは最近、ブームになっているが、これだけの種類のビッグデータを使ってスコアを出しているのは当社しかない」と自負する。
優れたUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)を実現しているのも、AIスコアの特長だ。スマホ上で18個のチャットの質問に答えていくだけで、1000点満点のスコアが算出される。かかる時間はわずか2分。スコアの数値はいつでもスマホで確認可能だ。「これまでは若い学生や社会人は年収も低いし、経験も少ないので、いいスコアが出ないということがあった。しかし、学生や若い社会人でも将来の推定年収ベースでスコアを出すなど可能性を加味しているのが、差異化のポイントだ」と大森氏。
スコアアップをする方法の一つが、生活や性格、収入、支出、金融資産、プロフィルといった自分に関わる項目を入力すること。項目数は約150個と多いが、入力項目が多ければスコアはアップするという。自ら情報を入力しなくても、データ連携の合意をする手もある。合意をすれば、みずほ銀行、ソフトバンク、ヤフー、ワイモバイルから当該ユーザーに関わる情報が提供され、スコアが上がる。「金利を最大0.3%引き下げるという優遇もあるので、みなさんにお勧めしている」と大森氏は説明する。
18年7月にリリースした公式アプリにも、スコアを引き上げる仕組みがある。それが「ハビットチェンジ」という、良い行動を習慣化して継続するとAIスコアに反映されるというアプリ限定機能である。この機能により、運動、学習、睡眠、お金に関する良い行動の習慣化をサポートする。例えば運動習慣。毎日8000歩を長期にわたって歩き続ければ、スコアがアップする。「自分を変えていくことを、思想として入れている」と大森氏。
J.Scoreが提供する2つの主力サービス
そのAIスコアを使ってお金を借りられるサービスがAIスコア・レンディングである。金利は0.8~12.0%と、「個人向けでは最も安い金利だと自負している。融資限度は1000万円。しかも審査から融資までは最短で30分というスピード」と大森氏は説明する。
このスピードを実現しているのが、自前のAIを活用した審査モデルだという。「審査から保証まで、すべて自社で責任を持って対応をしていく」と大森氏は力強く語る。ビッグデータとAIを活用した独自審査の仕組みにより、従来の応諾範囲より広い範囲の顧客に対して、融資を可能にしているという。
貸金業というと、ブランドイメージが良くないケースは少なくないが、「J.Scoreのサービスは違う」と大森氏はいう。同社では定期的にブランディングリフト調査を実施している。その調査によると、一般消費者からのサービス認知度はまだ低いものの、AIスコア、AIスコア・レンディングともに 30~40%の人が「好感を持てる」と回答している。また同社のビジネスは銀行系カードローンや消費者金融と同じ領域ではなく、スタートアップのFinTechと同じ領域にマッピングされており、大森氏は、「FinTechとしての新しいブランド作りに成功している」と評価する。
もう一つのJ.Scoreの主軸サービス「AIスコア・リワード」も今、急速に市場を拡大しているサービスだ。中身はこんな具合だ。ユーザーがスマホ上でAIスコアを取得し、「リワードメンバー」にエントリーすると、6段階に分かれたスコアランクが表示され、そのスコアに応じたサービスや特典を、AIスコア・リワードに参画した提供企業から受けられる。
19年4月現在、30社がAIスコア・リワードに参画している。その中には、誰もが知るビッグネームの企業も含まれている。このサービスの特長は、他では提供されていない特典やサービスが、提供企業から得られることだ。例えば、旅行会社であれば特別なオリジナルツアーの案内、百貨店であればお得意様限定の優待サービス、英会話スクールであれば、英会話のマンツーマンレッスンのプレゼントなどだ。「参画する企業はどんどん増えている」と大森氏は語る。
なぜ、このようなサービスの提供を開始したのか。「利用者のスマートフォン上で新しいフィナンシャルサービスを提供するなど、顧客のライフスタイルを変えるプラットフォーム企業になっていきたい」(大森氏)という思いがあるからだ。
中国ではアリババ集団傘下のアント・フィナンシャルサービスグループが、よく似たサービス「芝麻信用(ジーマ信用)」を提供しているが、J.Scoreは芝麻信用とスタンスが異なる。「結果として格差や差別を助長するようなサービスを提供することはしない。この考え方で拡大を図っていきたい」と大森氏は意気込みを語る。
情報銀行のスキームでマネタイズ化
現在、収益を稼ぐ主力事業はレンディングサービスだが、いずれ法がきちんと整備され、情報銀行のスキームにうまく乗っていくことができれば、「データビジネス自体をマネタイズ化できる」と大森氏。現在、サービスを始めているAIスコア・リワードなどは、スコア取得者の個人情報を外部には提供していない。
しかし、法が整備されて、スコア取得者の個人情報を外部の企業に提供できるようになれば、その見返りに企業から手数料や成果報酬などをもらい、顧客に還元するというスキームが成り立つ。またJ.Scoreが持っているデータを、顧客の同意を得た上で、提携企業に提供してフィーをもらうというマネタイズのスキームも考えられる。
そこで重要になるのが情報銀行の認定である。J.Scoreではいずれ、情報銀行のスキームを使って、データビジネスを展開する予定だという。
個人情報の提供に躊躇(ちゅうちょ)する人も多いが、そのあたりについても、「当社独自の調査によると、半分ぐらいのお客さまは情報の提供に見合うベネフィットがあり、しっかりと情報が管理できる企業であれば、個人情報を提供してもよいという意見だった」と大森氏。その期待に応えるため、自社で十分なセキュリティーを保ち、提携先の企業も厳選していくという。AI活用のポリシーを公開したのも、企業としての姿勢を理解してもらい、顧客の信頼を獲得するためだ。
現在、J.Scoreは、審査を担当する日本IT団体連盟に対して、情報銀行のP認定を申請中。大森氏は、「できるだけ早く認定をいただき、当局と調整をした上で、リワードビジネスの開始を目指したい」とセッションの最後に意気込みを語った。
(写真/室川イサオ)