回転ずしのスシローが運営するすし居酒屋「杉玉」や、吉野家がオープンした「鶏千」など、飲食業界では“本業”で培ったノウハウを生かした新業態への取り組みが活発だ。

飲食業界では、各社が続々と新業態の店舗を出店している
飲食業界では、各社が続々と新業態の店舗を出店している
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 外食チェーンは競争が激しく、常に新しいトレンドを生み続ける必要がある。そこで、各チェーンは新業態の店舗を開発し、新たな顧客開拓に取り組んでいる。なかには業態の異なる店舗をいくつも運営している外食チェーンもある。ここでは、回転ずしや牛丼のチェーンが運営する新業態をまとめた。

スシローのすし居酒屋「鮨・酒・肴 杉玉」

 回転ずしチェーン大手スシローグループが手がけたのは、すし居酒屋「鮨・酒・肴 杉玉」。名前の通り、すし店と海鮮系の居酒屋を1つにした業態だ。すしと相性のいい日本酒や焼酎がメインとなっている点が、食事がメインのスシローとは異なる。すしのメニューは税別299円のものが中心で、素材の鮮度・品ぞろえにはスシローの商品開発力、調達力が生かされているという。

 酒類を提供しつつも、客層を絞り込まないのは主力業態のスシローと同様。カップルや家族連れでも気軽に来店できる。夜の時間帯の客単価は、どの店舗も3000円前後となっている。

 2019年6月時点の杉玉の店舗数は7店舗。酒類がメインの業態なので車での来店が想定される郊外には展開しにくいが、5年以内に駅前、ショッピングセンター内などに100店舗オープンを目指す。19年11月には東京・新宿および武蔵野市に出店する予定だ。

鮨・酒・肴 杉玉 神楽坂の外観。各店ともネット予約が可能で、飲み放題メニューもある。ランチタイム以外では喫煙もOK
鮨・酒・肴 杉玉 神楽坂の外観。各店ともネット予約が可能で、飲み放題メニューもある。ランチタイム以外では喫煙もOK
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店名の「杉玉」をイメージした「杉玉ポテトサラダ(税込み399円)」やキャビアの缶に詰めて提供される「キャビア寿司(税込み299円)」など、独自の変わり種メニューもSNSでの拡散、集客に一役買っている
店名の「杉玉」をイメージした「杉玉ポテトサラダ(税込み399円)」やキャビアの缶に詰めて提供される「キャビア寿司(税込み299円)」など、独自の変わり種メニューもSNSでの拡散、集客に一役買っている
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 また、スシローグループではフードコート向けの業態である「スシローコノミ」も展開中。スシローコノミは、回転ずしではなく客が注文伝票にすしの種類と貫数を記入して注文するスタイルだ。19年5月時点で川崎ルフロン店、イオンモール宮崎店、FOOD&TIME ISETAN YOKOHAMA店の3店が営業している。

木曽路の大衆居酒屋「酒場大穴(ダイアナ)」

 しゃぶしゃぶ・日本料理のチェーン店「木曽路」を展開する木曽路グループも、「天丼てんや」「ワイン食堂ウノ」など、複数の業態を展開している企業の1つ。19年4月、同グループが東京・中央区の人形町にオープンしたのが「酒場大穴(ダイアナ)」だ。

 大衆居酒屋ということで、同店のメインターゲットは、近隣に勤務する30~50代の男性客。しかし、若年層やシニア層、ファミリー層もサブターゲットに置いており、帰宅前の“ちょい飲み”から遅めの夕飯、女子会や家族連れでの利用まで、外食ニーズの全てを想定しているという。

 「酒場大穴は、食事をする店、酒を飲む店という垣根を外し、多様なニーズに応えるために木曽路グループが提案する“酒場”という新業態。人形町という下町の良さを生かした新しい店作りにチャレンジした」(同グループ広報担当)

 価格が手ごろな点も酒場大穴のセールスポイントで、すしは1貫100円(税別)から。「焼きとり」「焼きとん」といった串焼きに加えて、「お手軽お刺身3点盛り」「ポテトサラダ」など居酒屋メニューも約50品をそろえる。

 また、同店オリジナルの「大穴シール(税別200円)」を購入すれば、大穴ハイボール、大穴特製サワーなど、通常価格390円(税別)のドリンク類が何杯でも290円(税別)に。2杯飲めば元が取れるとあって、リピーターの獲得に貢献しているとのことだ。

酒場大穴の外観。店名には、番狂わせを意味する“大穴”の店になってほしいという願いが込められている
酒場大穴の外観。店名には、番狂わせを意味する“大穴”の店になってほしいという願いが込められている
穴子料理、すし、串焼きをメインに手ごろな価格の居酒屋メニューも豊富
穴子料理、すし、串焼きをメインに手ごろな価格の居酒屋メニューも豊富

吉野家の親子丼と唐揚げ専門店「鶏千」

 18年12月にオープンした「鶏千」は、吉野家ホールディングス(HD)が手がける親子丼と唐揚げ専門の新業態。もともとは、吉野家HD傘下のはなまるが鶏千 祖師ヶ谷大蔵店、西葛西店を出店したのが始まりで、その後、持ち帰り唐揚げ専門店の「からから家」の事業と統合されて現在の業態になった。

 吉野家と言えば牛丼だが、ステーキ、うどん、すしなどの専門店も展開している。ところが、これまで鶏肉を採用した業態はなかったという。「鶏肉は世界共通の食材であり、グローバル展開を進める吉野家HDにおいては欠かせない。親子丼、唐揚げは日本人の日常食であり、世界でも通用する。一定のマーケットが存在しているにもかかわらず、100店規模の専門店チェーンがない点も魅力だった」(同HD広報担当)。

鶏千 新高円寺店の外観。入口横には弁当の販売カウンターが見える
鶏千 新高円寺店の外観。入口横には弁当の販売カウンターが見える
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 鶏千の主力商品は「親子丼(税込み850円)」と「から揚げ定食(税込み720円)」。親子丼に使われているのは「きよらグルメ仕立て」というブランドの卵で、液卵は使わず、注文を受けてから卵を割る。また、ニンニク、ショウガを使用しない秘伝のたれに丸1日漬け込んだ鶏肉を使った唐揚げは、しょうゆ、塩、ニンニク、カレーの4種類が選べるほか、「4種盛り」も可能だ。

 「『しじみ汁』のだしは毎朝店舗で取り、付け合わせのキャベツも店舗でカットしている。手作り、かつ出来たてをこの価格帯で提供できるのは差異化のポイントだと考えている」(同HD広報担当)

から揚げ定食は4個が720円、6個が870円、8個は990円(いずれも税込み)。ご飯はプラス50円で大盛りに変更できる
から揚げ定食は4個が720円、6個が870円、8個は990円(いずれも税込み)。ご飯はプラス50円で大盛りに変更できる
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親子丼は漬物とシジミのみそ汁が付いて850円(税込み)。肉を増量して卵黄を乗せた「上」もある(税込み1000円)
親子丼は漬物とシジミのみそ汁が付いて850円(税込み)。肉を増量して卵黄を乗せた「上」もある(税込み1000円)
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 食事がメインの鶏千だが、持ち帰り弁当は単身者を、総菜は近所の主婦層をターゲットにしているとのこと。また仕事上がりの“ちょい飲み”にも対応し、生ビール、ハイボールといった揚げ物と相性のいい酒類に加え、唐揚げや手羽先の単品メニューも用意している。

すた丼のアントワークスは「焼肉まる秀」をオープン

 「伝説のすた丼屋」「名物すた丼の店」を運営するアントワークス(東京・中野)が、19年5月、東京・国分寺にオープンした新業態が「焼肉まる秀」だ。

 同店があるのは、東京・杉並からあきる野市に至る五日市街道(都道7号)沿い。「大通りに面した焼肉店は食べ放題の業態が多い。そこにあえてオーダー型の焼肉店をオープンしたのは、ハードルが高い分、生き残った暁にはブランドとして成功したと言えるから」とアントワークス広報担当は出店の理由を説明する。

 焼肉まる秀がメインターゲットとしているのは、20代後半~40代前半のカップル、ファミリー層だ。その上で、ブームとなりつつある「独り焼き肉」も楽しめるよう、座席のレイアウトを工夫しているという。

焼肉まる秀の店舗。最寄り駅の西武鉄道国分寺線・鷹の台駅からは徒歩約13分
焼肉まる秀の店舗。最寄り駅の西武鉄道国分寺線・鷹の台駅からは徒歩約13分
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 焼肉まる秀のコンセプトは「安くてうまい焼き肉と飯を腹いっぱい食べてほしい」で、黒毛和牛とコメにこだわっているのが特徴。薩摩牛のなかでもわずか4%しか生まれてこないA5ランクのロースやカルビ「4%の奇跡」を税別1290円で提供する。

 また、同店で使用するコメは北海道妹背牛町の契約農家から直接仕入れているブランド米「ほしまる」。小盛(180グラム)、並量(250グラム)、大盛(350グラム)、大盛盛(450グラム)が全て税別298円の同額となっている。

 「顧客の求めているものはコストパフォーマンス。食べ放題の需要が高まっていること、高単価業態が振るわない現状を鑑みて、今後は質の良い肉を大衆価格で提供する店が繁盛するとみている」(同社広報担当)。ドリンクも含めた低価格帯の商品を訴求することで来店動機の形成を図る焼肉まる秀は、競争を勝ち抜いてブランドとなれるか。

価格帯は4種類のみとなっており、ドリンクやサイドメニューは298円、豚肉やホルモンなどが593円、黒毛和牛が794円、ブランド黒毛和牛が1290円(いずれも税別)だ
価格帯は4種類のみとなっており、ドリンクやサイドメニューは298円、豚肉やホルモンなどが593円、黒毛和牛が794円、ブランド黒毛和牛が1290円(いずれも税別)だ
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平日限定の黒毛和牛焼肉ランチは、ご飯、サラダ、スープ、キムチが付いて税別894円から
平日限定の黒毛和牛焼肉ランチは、ご飯、サラダ、スープ、キムチが付いて税別894円から
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(写真提供/スシローグローバルHD、木曽路、吉野家HD、アントワークス)