中国の消費市場への進出を図りたい日本企業をサポートするサービスがまた1つ、新たに登場した。アリババ集団が運営する中国最大のECサイトを通じて中国市場に進出したい日本の中小企業は、この新たなサービスを利用すれば、出店費用や運営費用などを負担せずに、自社の商品を自社のネットショップで中国市場向けに販売できる。

ライフスタイルトレーディングのWebサイト
ライフスタイルトレーディングのWebサイト

 5月28日から提供が始まったサポートサービスプランの名称は「Beyond EC Challenge(以下、BECC)」。日本の中小企業は、BECCを活用することで、中国最大のBtoC向けECサイト「天猫(Tモール)」ならびに最大の越境ECサイトである「天猫国際(Tモールグローバル)」に、自社の旗艦店(ネットショップ)を出店し、自社商品を販売することができる。

 訪日中国人観光客向けの広告事業や越境EC向けのプロモーションを手がけるENJOY JAPAN(エンジョイジャパン、東京・新宿)の100%子会社であるライフスタイルトレーディング(東京・新宿)が、このサービスプランを提供する。立石集団や上海旺伽電子商務など、Tモールで商品を販売する際に提携が求められる「天猫パートナー」5社、ならびに商品の広告宣伝を手がける「天猫広告パートナー」1社と提携し、このサービスプランのスキームを構築した。

進出する日本企業のリスクは低い

 これまでも日本企業の中国向け越境ECへの進出をサポートするサービスは幾つもあった。これらの先行するサービスに比べたときのBECCの特徴は、大きく分けて2つある。1つは、中国へ進出する日本の中小企業のリスクが低く抑えられていることだ。

 一般に日本企業が中国に商品を輸出する際には、商品の在庫リスクや為替リスクを負わねばならない。また、商標などの申請手続きや通関手続きも必要になる。越境ECサイトなどを通じて進出する場合は、通関手続きなどを代行してくれるサービスはあるが、代わりにECサイトへの出店や運営に必要な費用を負担することになる。中国市場で有望と見られる商品を扱っていても、これでは手間がかかりすぎるうえにリスクも大きく、進出を決断できないという日本の中小企業は少なくなかった。

5月27日に大阪で開催した会見で、新サポートプランについて熱弁を振るうライフスタイルトレーディングの中山隆央社長
5月27日に大阪で開催した会見で、新サポートプランについて熱弁を振るうライフスタイルトレーディングの中山隆央社長

 これに対してBECCでは、ライフスタイルトレーディングとその提携先である中国企業が、中国市場で有望と見られる商品を日本の中小企業から買い取り、かつその中小企業または商品の名前でECサイト上に旗艦店を出店する形を取る。「日本の中小企業の中国進出に必要となるECサイトへの出店費用や運営費用、輸出に伴うその他の費用や為替リスク、輸出申請や商標申請の手続きなどは、すべてライフスタイルトレーディングとその提携先である中国企業が負担する」(ライフスタイルトレーディングの中山隆央社長)という。

 同じく日本の中小企業から商品を買い取り、TモールグローバルなどのECサイトで販売するサービスをアリババ集団自身も展開しているが、こちらのサービスでは中小企業の名を冠した旗艦店を出店することはできず、アリババ集団が用意した店で商品が売られるだけだ。商品を売るだけでなくブランド名まで浸透させたいという中小企業にとって、BECCは魅力的なサポートサービスだろう。

商品の認知拡大までサポートプランに含まれる

天猫の戦略ビジネスパートナーで、広告パートナーでもある閨蜜網の高級顧問で、今回のスキーム設立と運営に大きな役割を果たす馬驍(マー・シャオ)氏
天猫の戦略ビジネスパートナーで、広告パートナーでもある閨蜜網の高級顧問で、今回のスキーム設立と運営に大きな役割を果たす馬驍(マー・シャオ)氏

 BECCのもう1つの特徴は、中国市場での商品ブランドの認知拡大までサポートプランに含まれることだ。天猫パートナーに加えて、中国国内への商品ブランドの認知施策で実績を持つ天猫広告パートナーの閨蜜網が提携先として加わっており、「TモールおよびTモールグローバル上でのオンライン広告や『微信(ウィーチャット)』『微博(ウェイボ)』などのSNSを使った告知、それにオフラインでのリアルなイベントなどを通じて、新たな商品の認知拡大を図る」(閨蜜網の高級顧問である馬驍<マー・シャオ>氏)という。それも原則的に、日本の中小企業の費用負担なしで、だ。日本の中小企業にとっては、低リスクで中国市場における自社商品の認知度拡大を図れるわけだ。

 もっともBECCのスキームは、見方によっては日本の中小企業から有望な商品を買いたたく商法に見えなくもない。この指摘に対して中山氏は、「初年度は、中国の大都市である1級・2級都市の消費者からのニーズが高い化粧品のようなカテゴリーだけに絞り、扱う商品・ブランドも3~5つだけにして、まずは成功モデルを確立させることに力を入れる」と説明する。

 言い換えれば、日本の中小企業ならばどの企業でもBECCを活用できるわけではない。「この商品ならば中国市場で確実に受け入れられる」と、ライフスタイルトレーディングと提携先の中国企業が判断する商品を持つ中小企業だけが、利用できるサービスなのだ。

 中山氏は、「中国でまだ知られていない日本の中小企業の有望な商品を、中国市場に浸透させて売り上げをどんどん伸ばすことができれば、このサポートプランに関わる全員が利益を得られる。いっときに比べて勢いがなくなったと見る向きもあるが、中国市場には新たな商品を受け入れるだけのポテンシャルがまだまだある」と言う。ライフスタイルトレーディングが、どの中小企業から、どのような商品を選んで中国ECサイトで販売し始めるのか。それらの商品が中国の大都市で実際に売れるのか。年内には明らかになる。

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