QRコード決済事業のPayPay(東京・千代田)は、2019年7月から加盟店向けアプリの提供を始める。日経BP主催の技術イベント「テクノロジーNEXT 2019」に登壇した、執行役員プロダクト本部長のアディーティヤ・マハートレ氏が明かした。加盟店数も初公開。60万店に達していることが分かった。
「これまでは、コンシューマー(消費者)向けに限定されていたが、19年7月から加盟店向けにアプリの提供を始める」
マハートレ氏は「PayPayのキャッシュレス推進の取り組みについて」と題した講演の締めくくりで、こうした方針を明らかにした。従来、取引履歴や平均利用単価といったデータの閲覧や、返金処理をする場合、加盟店はブラウザーで管理ページにアクセスしてログインする必要があった。そうしたデータがすべてアプリ上で利用可能になる。そのほか、新たにリポート機能が実装される予定だ。
講演ではこれまで公開してこなかった、PayPayに関する2つの数字が明らかになった。1つは加盟店数で、60万店に達している。競合のLINE Payは100万店を超えているが、これはジェーシービー(JCB)の電子マネー「QUICPay」との提携によって実現した数字だ。サービス開始から約半年という短期間にもかかわらず、単独で60万店を開拓した。
この数字を達成できた理由の1つはソフトバンクの営業力の活用だろう。親会社であるソフトバンクはサービス開始当初から、PayPayの営業拠点として20カ所を用意。PayPayの加盟店開拓を強力に後押しした。PayPay普及への力の入れようがうかがえる。
PayPayが講演で明らかにしたもう1つの数字
もう1つは、累計200億円を投じたことで話題をさらった、2つの還元キャンペーンで得たサービス認知力だ。通常の買い物でも購入額の2割、抽選で全額が還元されるキャンペーンで、18年12月に実施した最初の100億円還元キャンペーンはわずか10日で全額を使い切った。マハートレ氏は「キャンペーン第1回のインパクトは、世界に対して、日本にもキャッシュレス化の未来が訪れることを知らしめる効果があった」と評価する。
「(生活に必要な)ライフスタイルアプリになるには、利用者に驚きを与えることが重要と考えた。高額な買い物をして全額還元が当選したときの喜びは、非常に大きい」(マハートレ氏)。そうした、驚きを与えるマーケティング戦略が利用者増加に寄与したのだろう。利用者は700万人を超えた。
キャンペーンは単発では終わらせない。例えば、6月にはドラッグストアでの購入額の2割を還元するなど、カテゴリー別にキャンペーンを継続的に実施。サービスを生活に根付かせることを狙う。
派手なキャンペーンばかりに目がいきがちだが、サービスそのものも改善し続けている。「約半年間で37回ものアプリの更新を実施した」(マハートレ氏)。まず、早期にサービスを提供する。その後、利用者に合わせてスピード感を持って改善を施したり、新機能を開発したりして、利便性を高めている。
例えば、地図機能もその1つ。夕飯時に地図機能を使うと、PayPayが利用可能な飲食店が優先的に表示される。利用される時間帯やニーズに合わせた適切な提案は、サービス利用につながることが期待できる。
マハートレ氏はPayPayに技術を提供する印モバイル決済ペイティーエム出身。ソフトバンクとの協業を検討する中で日本を訪れ、ATMから現金を引き出す行列を見て衝撃を受けたと振り返る。「(キャッシュレスが進む)インドでは見られない光景だ。現金の介在を減らし、PayPayの利用者と加盟店に価値を提供する」(マハートレ氏)という目標の下、キャッシュレスを推進していくと語った。
テクノロジーNEXT 2019は日経 xTECH、日経クロストレンド、日経BP総研が19年5月27~30日にかけて、東京・目黒のホテル雅叙園東京で開催中だ。
(写真/新関雅士)