ローソンのチルドスイーツ「バスチー ‐バスク風チーズケーキ‐」が、2019年3月の発売から3日で100万個を販売した。現在までの累計販売個数は約1200万個。「プレミアムロールケーキ」でコンビニスイーツのブームを巻き起こしたローソンの新たなヒット商品は、どのように誕生したのか。
はやりのスイーツをコンビニサイズで提案
バスチー ‐バスク風チーズケーキ‐(以下、バスチー)は濃厚な味わいで、焼き工程の火加減の調整で内側を滑らかな食感に仕上げている。スペインとフランスにまたがるバスク地方で広く知られる品を参考にしており、ベイクドチーズケーキの一種だが、「これまでになかった新機軸のチーズケーキ」と、開発を担当した同社デイリー商品部シニアマーチャンダイザーの東條仁美氏は説明する。
東條氏が注目したのは18年夏。東京都内にオープンしたバスクチーズケーキ専門店が話題になるなど、ブームの兆しが見え始めていた。だが専門店のケーキはサイズも大きく、価格も高い。その点コンビニのチルドスイーツであれば、食べ切りサイズで価格も抑えられる。「チーズケーキは人気が高いスイーツ。ローソンでも過去に何度か挑戦したが、定着しなかった」ほろ苦い経験もあった。新しいチーズケーキの定番を作りたい――そんな思いから18年9月に開発を始めた。
試験販売の好調を受け、当初から生産態勢を強化
19年2月に全国3県の店舗で試験販売したところ、反響は想像以上。特に群馬県の店舗では、プレミアムロールケーキの発売初週の販売個数を上回った(1店舗1日当たりの平均販売個数で比較)。
あまりの好調ぶりに、このまま本格展開すれば完売する店舗が続出するかもしれない――。そう考えた同社は、バスチーの供給態勢を強化するため、通常1社にする商品の製造を2社に依頼した。「レシピは全く同じだが、複数の会社への委託は管理面でも難しい。だが1社では賄えないと判断したため、“ウルトラC”的手法を使うしかなかった」と東條氏は振り返る。
東條氏の読み通りバスチーは発売直後から売れ続け、19年5月14日時点の累計売上で約1200万個を突破した。
「とがったネーミング」と「とがりすぎない味」でヒット
バスチーがヒットした要因の1つに、ユニークなネーミングが挙げられる。当初はそのまま「バスク風チーズケーキ」という商品名にする案もあった。しかし「おいしいスイーツに巡り合うと、つい人に話したくなるはず。そんなときに口にしやすい名前にしたかった」(東條氏)。売り場で目立つことも重要と考え、パッケージには大きく「BASCHEE(バスチー)」と印字。さらに同社のチルドスイーツとしては異例の、黄色いパッケージを採用した。
味が“とがりすぎていない”ことも大きい。購買層の中心は30~50代の女性。開発時は流行に敏感な20~40代女性を意識していたが、想定よりも上の世代に支持されている。「『チーズケーキが好き』という人の多さを改めて実感した」(東條氏)というが、「バスクチーズケーキがはやっている」とは知らない世代にもよく売れたといえる。
発売当初に売れ行きが最も良かったのは香川で、次に栃木、岐阜と続く。現在は沖縄の売り上げが群を抜いているという。「コンビニは全国に店舗がある。そのため、(新機軸のスイーツと言っても)とがりすぎないことが大事」(東條氏)。目新しさで飛び付いても、「1回食べればいい」という味では一過性で終わってしまう。リピートしてもらえなければ、これほどのヒットにはつながらない。
「企画を通すために、徹底的な裏付けを取った」
「数年に一度のヒット商品」(ローソン広報)となったバスチー。しかし、開発当初は社内からは「本当に売れるのか」といぶかる声もあったという。
ローソンは年間約200種類のチルドスイーツを発売している。商品数が多いため、新しいチャレンジが受け入れられやすい背景もあるが、売れ行きが良くなければすぐに終売してしまう。定番化する商品はほんのひと握りだ。
バスチーは絶対に売れるという確信があっただけに、社内から全面的な後押しを得たい。そのために東條氏が行ったのは「徹底的に裏付けを取る」ことだった。「バスクチーズケーキがはやる」という記事や情報を徹底的に集め、専門店で買ったものを社内の人たちに食べてもらった。
一番大きかったのは「味を知ってもらうこと」だったと東條氏。バスチーの味に信頼を寄せる人が増えた結果、これまでにない規模での試験販売の実施につながり、多くの人の目に触れたのだ。
(写真提供/ローソン)