任天堂がNintendo Switch向けのVR(仮想現実)キットを発売した。今さらのVR参入。しかも、手持ちのSwitchに取り付けて遊ぶ段ボール製のオプションキットだ。その狙いとは? ゲームライターの野安ゆきお氏は「これはファミリー層のVRに対する反応を知るための観測気球」と分析する。

『Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit』(7980円税別)。VRゴーグル(手前)をはじめ、様々な形をした段ボール製のキットを組み立て、Switchを取り付けるとそのキットに対応したVRゲームが楽しめる。VRゴーグルとバズーカに絞った『ちょびっと版』もある
『Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit』(7980円税別)。VRゴーグル(手前)をはじめ、様々な形をした段ボール製のキットを組み立て、Switchを取り付けるとそのキットに対応したVRゲームが楽しめる。VRゴーグルとバズーカに絞った『ちょびっと版』もある

 任天堂は2019年4月、Nintendo Switch(以下、Switch)用キット『Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit』を発売した。その名の通り、VRでゲームを楽しむためのコントローラーとソフトをセットにしたもの。ついに任天堂がVRに足を踏み入れた。

業界全体から3年遅れでの参入

 VRゲーム業界を見渡せば、これはかなり遅めの参入だ。16年に米オキュラス(現在は米フェイスブックテクノロジーズ)がPC用のVRシステム「Oculus Rift」を、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)がPlayStation 4(PS4)用のヘッドセット「PlayStation VR」(PSVR)を発売している。

 現在、PSVRは累計販売台数が420万台を突破。Oculusは、ゲーム機やPCなどを必要としないスタンドアローン型に進化させたVRヘッドセット「Oculus GO」を18年5月に、その上位機種「Oculus Quest」を19年5月に発売している。

 これらの企業に比べるとずいぶん出遅れたようにも思えるが、VRに対して極めて慎重だった同社が、ようやく機が熟したと判断し、製品を投入してきたとも言えるだろう。

 では、そのNintendo Labo Toy-Con 04: VR Kitとは、どんな製品なのか? 実際に手にしてみると、独特のアプローチでVRという“娯楽”に切り込んだ、実に意欲的な製品だと分かる。

用意したのは段ボール製のVRゴーグルだった

 最大の特徴は、他社が発売しているような高価なVRヘッドセットが存在しないことだ。

 VRゴーグルは段ボール製の組み立て式。しかも、プレーヤーが自分で作る。付属のレンズをはめ込み、手持ちのSwitch本体を装着することで、超安価かつ手軽にVR体験ができるようになっている。

 Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kitには、バズーカ型、カメラ型、ゾウ型など、独特の形をしたコントロ―ラーも含まれており、これらを組み立て、VRゴーグルを装着すれば、体験できるVRゲームは数十種類に広がる。また、自分の手で簡易なVRゲームをプログラムすることも可能だ。

Nintendo Labo Toy-Con 04: VR KitのVRゴーグル。段ボールを組み立てて自作する。制作時間は30分~1時間ほどだ
Nintendo Labo Toy-Con 04: VR KitのVRゴーグル。段ボールを組み立てて自作する。制作時間は30分~1時間ほどだ
双眼鏡をのぞくようなスタイルでプレーする。360度どこを向いてもゲーム世界が広がる、れっきとしたVRキットだ
双眼鏡をのぞくようなスタイルでプレーする。360度どこを向いてもゲーム世界が広がる、れっきとしたVRキットだ
ゴーグルに装着したSwithの画面には、このように2つの映像が表示される
ゴーグルに装着したSwithの画面には、このように2つの映像が表示される
上の映像をゴーグルを通してみると、立体的な世界が目の前に広がる
上の映像をゴーグルを通してみると、立体的な世界が目の前に広がる

ゼルダやマリオ、既存の人気ゲームをVR対応

 戦略的なのは、このVRゴーグルを使うことで、任天堂が既に発売しているSwitch向けタイトル『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『スーパーマリオオデッセイ』をVRモードでプレーできるようになることだ。

 これらはいずれも累計販売本数1000万本を超えたメガヒット作。新規にVR対応ゲームを出すのではなく、既存の人気タイトルを対応させることで、VRを手に取ってもらうための障壁はかなり低くなる。これらのゲームを持っているユーザーがVRを試すだけならば、VRゴーグルが含まれる「ちょびっと版」(3980円)を買えば済むからだ。任天堂としては、リスクを抑えながらも「任天堂がVR市場に乗り込むと、ここまでできるのか!」と、大々的にアピールすることに成功したと言っていいだろう。

これは『スーパーマリオオデッセイ』のVRモード。マリオを操作するオリジナルゲームが体験できる
これは『スーパーマリオオデッセイ』のVRモード。マリオを操作するオリジナルゲームが体験できる

ファミリー層の反応を知るための観測気球だ

 とはいえ、これを機に任天堂がVR市場に本格参入すると判断するのは性急だろう。

 実は、Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kitは、同社が18年4月に発売した「Nintendo Labo」シリーズの第4弾と位置づけられている。Nintendo Laboシリーズは、今回のNintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit同様、段ボール製の組み立て式コントローラーでSwitchを楽しむための製品(関連記事「Nintendo Labo体験会に潜入 子どもたちが工作に熱中」)。つまり、任天堂は「ニンテンドーVRシステム」といった名前の単独商品としてはリリースせず、段ボール工作をしないと楽しめない形でわざわざ世に送り出したのだ。これは主力商品ではないですよ! VRのデモンストレーションですよ! と言わんばかりに。

「Nintendo Labo」シリーズで最大ヒットとなった『Nintendo Labo Toy-Con 01:Variety Kit』。販売本数は18年12月までで106万本と、大ヒットこそしていないが、学校などの教育機関とも連携し、独自路線で普及している
「Nintendo Labo」シリーズで最大ヒットとなった『Nintendo Labo Toy-Con 01:Variety Kit』。販売本数は18年12月までで106万本と、大ヒットこそしていないが、学校などの教育機関とも連携し、独自路線で普及している

 任天堂は、子どもたちが安心して楽しめるシリーズの一部として、自社初となるVRシステムを提供してきた(※)。ならば、それは子どもたちがVRにどのように反応するのか? その姿を見て親たちはどのように感じるのか? VRに対するファミリー層の風向きを知るための観測気球だと推測したほうが良さそうだ。

(※)眼科学・視覚研究の専門家に監修のもと、VRモードの対象年齢は「7歳以上」とされている。

着脱の手軽さが、VRに新風を吹き込むか

 また、これは任天堂からVR市場へ向けた提言だという見方もできる。

 VRには輝かしい未来がある一方、根源的な欠点も持っている。目に負担がかかるため、長時間の連続プレーに適していないことだ。個人差があるため一概には言えないが、数分~数十分プレーしては休憩し、またプレーするといったスタイルで遊ぶ人は多い。

 一方で、VRヘッドセットは目と画面の距離を一定に保つ必要があるため、頭を振ってもズレないよう、がっちりと頭に装着しなければならない。ちょくちょく休憩を取って楽しむ娯楽であるにもかかわらず、装置の着脱に時間と手間がかかるという矛盾を抱えているのだ。

 Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kitの場合は、VRゴーグルを手で持ち、双眼鏡をのぞき込むように顔に押し当てるスタイルだ。「装着させない」という従来とは全く異なる発想と、ゴーグルとコントローラーを一体化させるアイデアで、目が疲れたと感じたら、すぐにゴーグルを頭から離すことを可能にした。

 発売時のリリース資料でも、「頭への着脱の手間がなく、素早く取り扱える」点を特徴として明記しており、VRには手軽さが大切という提言が読み取れる。

 さて、ゲーム産業のトップランナー・任天堂のVR参入はVR業界に一石を投じることになるのか。今後の注目ポイントである。

バズーカものぞき込むスタイル。スライダーで弾を装填、トリガーを引いて撃つ機構になっており、VRのシューティングゲームが楽しめる
バズーカものぞき込むスタイル。スライダーで弾を装填、トリガーを引いて撃つ機構になっており、VRのシューティングゲームが楽しめる
(C)2019 Nintendo
(C)2017 Nintendo
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