2019年4月10日、総務省は5G用の周波数帯の割り当てを決めた。これを受け、携帯大手3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)および19年に市場参入を予定している楽天モバイルは、20年から次世代通信規格「5G」の商用サービスを開始する。
NTTドコモは「マイネットワーク構想」でサービス開発を急ぐ
割り当てられた周波数帯は、NTTドコモとKDDIが3枠、ソフトバンクと楽天モバイルが2枠。各社の動向を見ると、割り当てられた周波数帯域、および従来の取り組み方の違いなどから、5Gに向けた戦略に独自性が見られるようになってきた。
ドコモは3.7GHz帯(3600~3700MHz)、4.5GHz帯(4500~4600MHz)、28GHz帯(27.4~27.8GHz)の3枠を確保できたことから、19年のプレサービス、そして2020年の商用サービスへの準備を着々と進めている。19年4月26日の決算説明会では、5Gの新サービス創出に向けた「ドコモ5Gオープンプログラム」に2600を超える企業が参加したことや、ラグビーワールドカップに合わせて19年9月20日にプレサービスを開始することなどを明らかにした。
ドコモが新たな取り組みとして打ち出したのが「マイネットワーク構想」である。これは5G対応のスマートフォンをハブとして、さまざまな周辺デバイスを通じて新サービスを提供するというもの。周辺デバイスとしてはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などに対応したデバイスや、ウエアラブルデバイス、360度カメラなどが想定されており、パートナー企業との協業によって新サービスを開発・提供していく考え。
マイネットワーク構想の一環としてドコモは、MR(複合現実)技術を持つ米マジックリープと資本・業務提携、同社製MRデバイスの日本での販売権を獲得した。マジックリープのMR技術とドコモの顧客基盤を活用し、新たな市場の開拓を積極的に進めていく。ゲームをはじめとするコンシューマー向けのサービスのほか、3D映像を利用した法人向けのソリューションも検討しているという。
5Gのプレサービスでは、このマジックリープのMRデバイスを利用したデモを披露する。先進的なデバイスをいち早く取り入れることで5Gを積極的にアピールし、商用サービスに弾みをつけたい考えだ。
KDDIは広いエリアカバーで地方創生に注力
KDDIもドコモと同じく3.7GHz帯×2(3700~3800MHz、4000~4100MHz)と28GHz帯(27.8~28.2GHz)の3枠を獲得している。19年5月15日の決算説明会で、同社の高橋誠社長は、「われわれが獲得した周波数は世界的に使われるバンドだ。かなりアグレッシブな5G計画を出してこの周波数帯を取りに行っている」と語った。
KDDIが特に重視したのが、3700~3800MHzの帯域だ。この帯域は、ドコモに割り当てられた3600~3700MHzと同様、海外でも利用している国が多い帯域であり、ネットワーク機器や端末で日本向けの周波数対応が必要ない分、低コストで機器を調達できるメリットがある。
この周波数帯を獲得できたことを受け、KDDIは5Gの展開にも自信を見せる。決算説明会では20年3月末までに「5Gの端末を販売したい」と話したほか、19年9月のプレサービス開始についても言及した。当初は4Gの設備を生かして5Gのサービスを提供する「ノンスタンドアローン」での運用だが、21年度の半ば頃からは全ての設備を5G標準仕様で構築した「スタンドアローン」での運用に移行する計画だ。
実は、5Gの周波数帯割り当てに際して総務省は、対応エリアの評価を変更した。従来の「人口カバー率」から、全国を10km四方のメッシュ(第2次地域区画)に区切る「基盤展開率」に変えたのだ。理由は、人口が多い都市部をカバーすることより、少子高齢化の影響が強い地方の課題解決を優先したことによる。低遅延、多接続といった5Gの特徴を生かそうというわけだ。
KDDIが総務省に提出した5Gの基地局設置計画を見ると、5年間で基盤展開率93.2%、特定基地局数も3.7GHz帯、28GHz帯を合わせて4万2863局と、携帯大手4社の中で最も多くなっている。これが評価され、KDDIは希望に近い周波数帯域を確保できたといえる。
そこでKDDIは、基地局の多さを生かして「地方創生」にも重点を置く。同社が提供する5G、IoT(モノのインターネット)のビジネス拠点「KDDIデジタルゲート」によるイノベーションの創出に加えて、新たに設立した「地方創生ファンド」を活用することで、パートナー企業やベンチャー企業と地方のデジタルトランスフォーメーションを推進する計画だ。
ソフトバンクは既存の周波数帯に活路を見いだす
一方ソフトバンクは、3.7GHz帯(3900~4000MHz)と28GHz帯(29.1~29.5GHz)の2枠の割り当てにとどまった。その理由は5年以内の5Gの基盤展開率。ドコモとKDDIが90%以上だったのに対し、ソフトバンクは64%と低かったことが影響した。
割り当てられた帯域が少ないと高速化などで不利になるが、それでもソフトバンクが他社より低い基盤展開率を提出したのには2つの理由がある。
1つは既存周波数帯の活用だ。今回5Gで割り当てられた周波数帯は、4G以前に割り当てられた周波数帯よりも高周波数であるため、電波の特性上、遠くへ飛ばしにくい。高い基盤展開率を実現するには数多くの基地局を設置する必要があるわけだ。ソフトバンクは、将来的に3Gや4Gで使用している周波数帯を5Gに転用することで、コストを抑えて5Gのエリアを広げる考えとみていい。
もう1つは、ソフトバンクは基盤展開率ではなく人口カバー率を重視している点だ。同社の宮内謙社長 執行役員兼CEO(最高経営責任者)が19年5月8日の決算説明会で「早期に人口カバー率90%以上にしようと思っている」と発言したことからも、5Gでも人口が多く投資効率のいい都市部に重点を置く狙いがうかがえる。
この2つの理由から見えてくるソフトバンクの狙いは、都市部でのIoTビジネスの拡大だ。同社が獲得した周波数帯の数では、高速・大容量という点でドコモ、KDDIに及ばない。ソフトバンクは低遅延や多接続といった5Gの特徴を重視し、都市部の大口顧客を中心に、IoTを軸とした法人向けソリューションの提供に注力すると考えられる。
ソフトバンクも他社と同様、19年9月にプレサービス、20年3月に商用サービスを開始するが、エリア展開とビジネスの方向性に関しては、ドコモ、KDDIと大きく異なる可能性が高い。
楽天は過去の資産がないことが強みに
19年10月の市場参入を予定している楽天傘下の楽天モバイルも、5Gで獲得した周波数帯は3.7GHz帯(3800~3900MHz)と28GHz帯(27~27.4GHz)の2枠となった。また、総務省への申請内容によれば、5Gの商用サービスは20年6月頃と、他社よりやや遅れての開始となる。
楽天モバイルは、5Gで他社とどのような違いを打ち出すのか。やはり最新の設備をそろえ、5Gの実力を発揮しやすいネットワーク環境を構築することだろう。楽天モバイルの場合、旧来の3社と違って古いネットワーク設備を持たないため、最初から5Gのスタンドアローン運用を開始できるのだ。5Gの特徴を活用するにはスタンドアローンでの運用が欠かせない。その点では、楽天モバイルは早い段階で5Gならではのサービスを提供できることになる。
しかも楽天モバイルは、全てのネットワーク機器でNFV(Network Functions Virtualization、ネットワーク仮想化)を採用するとしている。これは、ソフトウエアによって汎用サーバーをネットワーク機器として動作させるもので、専用の機器と違って4Gから5Gへの移行もソフトウエアを書き換えるだけで済む。
とはいえ、楽天モバイルが自社でサービスを提供できる地域は、当初はかなり限定される。楽天モバイル独自の基盤展開が完了するまでは、ローミングで提携したKDDIのネットワークで多くの地域をカバーするためだ。ネットワーク整備が最優先される楽天モバイルの場合、5Gを活用したサービスの開発に至るまでには少し時間がかかりそうだ。
(写真/佐野正弘)