6月から、au、ソフトバンクに引き続き、NTTドコモも通信料金と端末代金を分離した「完全分離プラン」に移行。通信料金は値下げになる一方で、端末代金の負担感が増すことになる。逆風を跳ねのけるべく国内の2大スマホメーカーが採った策は、意外にも正反対なものだった。

高止まりする通信料金を下げる狙いで導入された完全分離プラン。毎月の通信料金から端末代金の一部を割り引く「端末購入補助」がなくなるため、これまであまり意識されてこなかった“素”の端末代金がクローズアップされることになる。先行して完全分離プランを導入したauやソフトバンクでは、3~4万円台のミドルレンジモデルの比率が高まり、10万円を超えるようなハイエンドモデルには逆風が吹き始めている。
そんななかで発売される、アンドロイドスマホの夏モデル。注目は、17年・18年と2年連続でアンドロイドスマホ分野のシェアトップ(BCN調べ)に立っているシャープのフラッグシップモデル「AQUOS R3」と、ここ数年低迷が続いていたソニーモバイルコミュニケーションズ(以下、ソニー)が「イチから生まれ変わった」(ソニーモバイルコミュニケーションズの岸田光哉社長)とうたう「Xperia 1」だ。どちらも高い性能を誇るモデルだが、興味深いのはメーカーの打ち出し方が大きく異なる点だ。
15秒動画を勝手に作ってくれるシャープ
シャープのAQUOS R3は、前モデルの64倍にもなる10億色の表現が可能なPro IGZO液晶ディスプレーや、暗所でも複数枚を撮影して被写体のブレを補正する機能など、フラッグシップならではの新機能を多数搭載する。しかし、5月にシャープが開いた製品発表会で最大の目玉として掲げられたのは、高いスペックではなかった。スローガンは「脱 撮りっ放し動画への挑戦」だと、シャープ通信事業本部パーソナル通信事業部長の小林繁氏は言い切る。
小林氏によると、カメラの性能向上により動画のクオリティーは十分になっているものの、再生されるケースはそう多くはないという。1分の動画を撮影するのはあっという間だが、いざ再生すると数十秒で退屈してしまう。これは、多くのユーザーが実感しているのではないだろうか。
そこで今回加えたのが、AIによるダイジェストムービーの自動作成機能「AI Live Story」だ。動画を撮影すると即座に約15秒のショートムービーを作成するという。
どうしてそのようなことが可能になるのか。ポイントはAQUOS R3に搭載された2つのカメラだ。1つは動画用の超広角カメラ、もう1つは静止画用の標準カメラ。この2つを使い、超広角カメラで動画を撮影しつつ、標準カメラで被写体や構図をリアルタイムで分析。笑顔の瞬間や動きに変化があるシーンなどを抽出し、スコア付けしていくという。これらの上位5~8シーンを時系列に沿って組み合わせ、さらにエフェクトやBGMを加える。スタイルは「スタンダード」「ファン」「リラックス」の3つがあり、見比べて好みの1つを保存できる仕組みだ。
作成されるショートムービーの長さを15秒に設定したのは、テレビCMでも一般的で、ストレスなく見られる長さと考えられるため。SNSなどで共有しやすい点もポイントとなった。
ハイエンドになるほど機能は豊富になるが、多くのユーザーはその実力を十分に生かせていない。その課題に向き合ったソリューションといえる。このアプローチは、同じくAIを使って被写体を判別し、ユーザーの設定不要で最適な画作りができるファーウェイと通じるところがある。
プロスペックを前面に打ち出すソニー
一方のソニーは、「プロも満足できる本格派」を打ち出す。もともとiPhoneの好敵手と高い評価を受けていた同シリーズだが、ここ数年はダブルレンズ、縦長ディスプレー、有機ELなど最新トレンドにことごとく乗り遅れ、中韓勢にお株を奪われていた。しかし今回のXperia 1では、他社の18:9を上回る21:9の超ワイドディスプレーを採用。しかも4K HDR対応の有機ELディスプレーで、これは世界初という。21:9という縦横比率は、映画のスクリーンとほぼ同じ。ソニーグループのソニー・ピクチャーズ エンタテインメントと協力してカスタマイズを施し、製作者の意図を忠実に再現するとうたう。
背面カメラはトリプルレンズとなって、ダブルレンズのiPhoneを上回り、この分野で先行するファーウェイに追いついた。レンズ構成は焦点距離26㎜の標準レンズと、同52㎜の望遠レンズ、同16㎜の超広角レンズ。標準レンズと望遠レンズはシームレスに切り替わるが、広角レンズは独立したカメラとして動作する。
動画撮影では通常のカメラアプリとは別に「Cinema Pro」という専用アプリを用意。これはソニーのプロ向け映画撮影用カメラ「CineAlta」の技術を活用したもので、映画と同じ21:9のワイド映像を、映画の標準フレームレートである24fpsで撮影できるという。「業務用映像機器を手掛けてきたからこそできる」というのがソニーの最大の訴求ポイントだ。
同じようなスペックを持ちながら、訴求ポイントがまるで違う両モデル。消費者が魅力を感じるのは、簡単に使いこなせるAQUOSか、それとも、創造性が刺激されるXperiaか。10万円前後の端末価格に対し、より多くのユーザーが価値を見いだすのは一体どちらなのか注目だ。
(写真提供/シャープ、ソニーモバイルコミュニケーションズ)