ソニーネットワークコミュニケーションズが展開する「nuroモバイル」は、新たにau回線を用いたサービスを提供し、「トリプルキャリア」対応を打ち出した。加えて、スマートホームへの取り組みを強化することも明らかにした。その戦略の背景には、現在のMVNO(仮想移動体通信事業者)が置かれている苦しい立場が影響している。

nuroモバイルは、携帯電話大手3社全ての回線に対応した「トリプルキャリア」のMVNOになった。右はソニーネットワークコミュニケーションズのモバイル事業部、ビジネス推進部の神山 明己部長。左は同モバイル推進課の松田有一朗氏 
nuroモバイルは、携帯電話大手3社全ての回線に対応した「トリプルキャリア」のMVNOになった。右はソニーネットワークコミュニケーションズのモバイル事業部、ビジネス推進部の神山 明己部長。左は同モバイル推進課の松田有一朗氏 

au回線を追加しトリプルキャリアMVNOに

 「nuroモバイル」は、月当たり500メガバイトまでの通信量が無料の「0 SIM」や、1日5時間まで高速通信ができる「5時間プラン」といった個性的なプランで注目されてきた。だが、18年に料金プランをリニューアルし、現在は月当たりの通信容量が2ギガバイトの「Sプラン」、7ギガバイトの「Mプラン」、13ギガバイトの「Lプラン」など4種類をメインに提供。他のMVNOに近い料金プランになりつつある。

 結果としてMVNOとしての強い個性は失われたものの、消費者からしてみれば料金の仕組みが分かりやすくなったようだ。実際、リニューアル後は月当たりの平均申し込み数は「160%増えた」と、同社のモバイル事業部 ビジネス推進部の部長である神山明己氏は話す。

 今回のau回線対応もより消費者に選ばれやすいサービスを追求する取り組みの一環だ。nuroモバイルは、既存のNTTドコモ、ソフトバンク回線を加え携帯電話大手3社全ての回線を選べる「トリプルキャリア」対応を実現したことになる。消費者がどこの大手携帯会社と契約していても自社のサービスに取り込むことができる。

 au回線の料金プランは、NTTドコモやソフトバンク回線の料金プランと同様に、お試し・S・M・Lプランなど4つが用意されている。料金はデータ通信に加え、音声通話とSMSが利用できる「音声通話付き」で、それぞれ月額1200円、1480円、2800円、3680円となる。

 これを従来のソフトバンク回線のプランと比べた場合、Sプランが200円安い以外はほぼ同水準となる。一方でNTTドコモ回線のプランと比べると、80~600円高くなる。この差は、携帯電話会社からネットワークを借りる際に支払う「接続料」が異なるため。接続料はNTTドコモが最も安く、ソフトバンクが最も高いことから、nuroモバイルの料金プランもその料金差を反映したものになるようだ。

au回線のプランはソフトバンク回線とほぼ同水準だが、NTTドコモ回線よりやや高い。そこには接続料の違いが影響しているようだ
au回線のプランはソフトバンク回線とほぼ同水準だが、NTTドコモ回線よりやや高い。そこには接続料の違いが影響しているようだ

新戦略はSIM単体で契約する人のため

 MVNOはこれまで「格安スマホ」に象徴されるように、携帯電話大手よりも低料金でサービスを提供することを重視してきた。そのため大多数のMVNOが最も接続料が安いNTTドコモの回線のみでサービスを提供してきた。

 ところが、ここ最近の傾向を見ると、NTTドコモ回線だけでなくauやソフトバンクの回線も加えた「ダブルキャリア」「トリプルキャリア」を推し進めるMVNOが増えている。18年9月にはケイ・オプティコム(現・オプテージ)の「mineo」、19年4月にはソフトバンク傘下のLINEモバイルが提供する「LINEモバイル」が、nuroモバイルに先んじてトリプルキャリア対応を実現している。

 MVNOが複数の回線に対応する背景には、SIMだけを契約してスマートフォンは手持ちのものを使い続けるユーザーの増加がある。携帯電話大手から購入したスマートフォンをそのままMVNOで使うというわけだ。nuroモバイルでは、SIM単体で契約する人が「8割を占めている」と神山氏は話している。

MVNOのサービス利用者はSIM単体で契約し、端末は携帯電話大手から購入した手持ちのものを使うことも多い。nuroモバイルではSIM単体での契約が8割に上るという
MVNOのサービス利用者はSIM単体で契約し、端末は携帯電話大手から購入した手持ちのものを使うことも多い。nuroモバイルではSIM単体での契約が8割に上るという

 ここで障壁となるのが「SIMロック」の存在だ。携帯電話大手が販売するスマートフォンは、基本的に自社の回線に対応したSIMしか利用できない。つまりauで契約したスマートフォンは、SIMロックされているので基本的にはau、またはau回線を用いたMVNOでしか利用できない。

 もちろんSIMロックを解除してしまえば、どのMVNOのSIMを挿入しても利用できるのだが、MVNOを契約する人が必ずしもSIMロックの存在を知っているとは限らないし、手持ちの端末のSIMロックを解除するとも限らない。それゆえnuroモバイルの場合、これまでNTTドコモとソフトバンクからの乗り換えは容易だったが、auからの乗り換えにはSIMロック解除が必要となり、これが障壁となっていたといえる。

SIMロックがかかった端末では同じ会社の回線を使ったSIMしか利用できないことから、nuroモバイルではこれまでauの利用者を取り逃がしていたことになる
SIMロックがかかった端末では同じ会社の回線を使ったSIMしか利用できないことから、nuroモバイルではこれまでauの利用者を取り逃がしていたことになる

 そこでnuroモバイルはau回線を追加してトリプルキャリア対応を図り、auユーザーの取り込みをもくろむ。神山氏によると、携帯電話市場におけるauのシェアは31%とのことで、今回の施策によって「約3割のユーザーにリーチできるのではないか」と話している。nuroモバイルはMVNOの中でもSIM単体で契約する人が多いことから、au回線の追加は効果的に働く可能性が高いといえそうだ。

スマートホームでMVNOの新たな活路も開拓

 確かにトリプルキャリア対応は使いやすいMVNOとしては有効だが、最近の動向を見ると必ずしもシェアを伸ばす施策にならない可能性もある。携帯電話大手が料金値下げを打ち出したり、低価格なサブブランドに力を入れたりするなどしたことで、低料金を求めてMVNOへ流れる消費者が減っているからだ。実際、mineoやインターネットイニシアティブの「IIJmio」など、これまで拡大を続けてきた有力MVNOは、契約の純増数で苦戦が続いている。

 そこでnuroモバイルは、スマートホーム市場に活路を見だした。既に18年10月より、自社のスマートホームサービス「MANOMA」と、nuroモバイルの回線をセットで提供する取り組みを実施。MANOMAのスマートスピーカー搭載ホームゲートウエイに、nuroモバイルのSIMを挿入すれば、月額3980円で固定回線がなくてもスマートホームが利用できるほか、Wi-Fiルーターとして使えるようになるという。

 加えて、スマートホームへの取り組みの強化策として、自宅にWi-Fi環境がない人に向けて、スマートロック「Qrio」をお得に利用できるセットを19年夏からの提供すべく検討していることを神山氏は明らかにした。Qrio向けの安価な専用プランを用意する方針という。

2019年夏の提供を予定している、スマートロックの「Qrio」とnuroモバイルのセット。低速だが低価格で利用できる、Qrio専用の料金プランが用意されるとのこと
2019年夏の提供を予定している、スマートロックの「Qrio」とnuroモバイルのセット。低速だが低価格で利用できる、Qrio専用の料金プランが用意されるとのこと

 スマートホームはデバイスだけでなくネットワークをそろえる必要があるなど、比較的導入ハードルが高い。それだけに特定のサービスに特化し、低料金かつ分かりやすいサービスを提供するというnuroモバイルの取り組みは、理にかなったものだ。そうした取り組みがスマートフォンに続くMVNOの市場開拓へとつながるか、注目されるところだ。