「機動戦士ガンダム」シリーズが、1979年の初回TV放映から2019年4月で40周年を迎えた。長年ファンを魅了し、イベントや企業コラボで新たな消費を生み出し続ける秘訣はどこにあるのか。シリーズを制作してきたバンダイナムコホールディングス傘下のサンライズ(東京・杉並)浅沼誠社長に聞いた。
バンダイナムコグループでは「機動戦士ガンダム40周年プロジェクト」を展開し、次々とファンに話題を提供している。プロ野球12球団の色をイメージしたガンダムのプラモデル(ガンプラ)を販売するキャンペーンのほか、45周年を迎えたサンリオのキャラクター「ハローキティ」とのコラボも進行中だ。
2015年~18年に劇場でも上映された「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」を再編集したテレビ向けシリーズも、19年4月からNHKにて放送が始まった。
バンダイナムコホールディングスのIP(キャラクターなどの知的財産)別売上高を見ると、ガンダムシリーズは18年3月期で683億円、19年3月期では793億円を記録している。グループの屋台骨を支え続け、さらなる拡大を見せるガンダムシリーズが長年ファンを魅了し続ける秘訣は何か。サンライズの浅沼誠社長に話を聞いた。
ガンダムの根源は「自由な発想」
プロ野球12球団とのコラボによるガンプラの発売、NHKで機動戦士ガンダム THE ORIGINのTV放送開始と、ガンダムのニュースが相次いでいる状態ですね。ガンダムの世界がとても広がっているように感じます。
浅沼誠氏(以下、浅沼氏) ガンダムはちょっと特殊なところがあるIPで、単一な作品ではなく、さまざまな世界を描いたバリエーションが非常に多い作品なんです。
商品展開もガンプラなどのマーチャンダイジングから始まっているところがあり、多様性がある。言ってみれば“何でもあり、何でもオッケー”なのです。そこがガンダムのいいところであり、どんどん世界が広がっている理由なのかなと思います。
ゲームで培ったイベント事業をガンダムへ
45周年を迎える、サンリオのハローキティとのコラボ企画「ガンダムvsハローキティ」などは、まさに“何でもあり”な企画ですね。こうした方針はどうしてできたのでしょうか。
浅沼氏 まず、ファーストガンダムと呼ばれる最初の機動戦士ガンダムはTVの本放送時にはそれほど人気がなく、打ち切りと呼べる状態で終わりました。それが徐々に人気が出て再放送が行われ、さらにガンプラが発売されて大ヒットになった。作品先行でありつつもガンプラの商品展開がけん引したところもありと、そうした成り立ちが要因としてあります。
その後に「機動戦士Zガンダム」「機動戦士ガンダムZZ」など、最初の機動戦士ガンダムを作った富野由悠季監督による続編が出ました。こうした続編の展開は他の作品でもあることですが、ガンダムシリーズの場合、そこから先は「機動武闘伝Gガンダム」(1994年放送開始)など、いろいろなクリエーターが自由な発想でガンダムを作るようになっていきました。そこが他の作品とは大きく違うところです。
ガンダムと呼ばれる巨大ロボットが登場して戦うところは踏襲していますが、それ以外は自由。シリアスな作品からライトな作品まで非常に幅広く、さまざまなガンダムが作られて世界が広がっていきました。
そしてガンダムシリーズはどれも登場キャラクターやメカが非常に多い、団体戦のような作品と言えます。特定の主人公やメカが出てこないと作品として成立しないという部分を取り払った面白さがあります。こうしたところが影響しているのでしょう。
そうやって展開してきたガンダムですが、40周年ではどんな取り組みをしていくのでしょう。
浅沼氏 40周年は1年で終わるものではなく、今後数年の取り組みと考えています。まずシンボリックなものとしては、2020年夏に向けて、「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」と題して、“動く”実物大ガンダムを横浜市山下ふ頭に作ります。お台場のガンダム像と同様に、多くの人々の注目を集めるものとなるはずです。
そしてこれまでの周年事業と比べると、ライブが多いんです。バンダイナムコグループには「ラブライブ!」シリーズ、「アイドルマスター」シリーズ、「アイドルマスター SideM」といった歌って踊るタイプのゲームやメディアミックスの人気コンテンツがあって、ライブイベントを多数実施しています。トレンドはライブなんです。そこでガンダムでもライブ系のイベントを多く企画しています。
19年2月には「機動戦士ガンダム00」(07年放送開始)を舞台化した「機動戦士ガンダム00 -破壊による再生-Re:Build」を上演しました。ガンダムシリーズの舞台化は初です。そして8月には「劇場版『機動戦士ガンダム』シネマ・コンサート」を行います。これは映画を上映するのですが、BGMをフルオーケストラが生演奏するというものです。これもシリーズ初となります。9月には、フェス系のライブイベント「LIVE-BEYOND」を行います。これは世代を超えて、40年分のガンダムシリーズの音楽をさまざまなアーティストが演奏するライブです。
ライブ系のイベントというと若いファンが集まるイメージがありますが、ガンダムのイベントの場合、ターゲット層はどうなるのでしょうか。
浅沼氏 アンケートなどを見ると、ここ10年ぐらいの直近の作品のファンが多いんです。機動戦士ガンダム00から、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」(15年放送開始)、「機動戦士ガンダムUC」(10年、OVA)といった作品です。
ただ、そういったアンケートに出てこない潜在的なユーザーも多くいるんです。例えば私は40年前のファーストガンダム放送時は高校生でしたが、そうした年代の中には“俺はガンダムが好きだ!”と声高に言うことはなくてもガンダムが好きな人、子供の頃に好きだった人が多くいます。そうした人がネットなどでガンダムのイベントがあることを知って、“こういうのもあるんだな”と興味を持って見に来てくれたらと思います。もちろん、そうした人たちも楽しめるイベントにしていくつもりです。
“ガンダム人生”が続く連続コンテンツ
そうしたガンダムを好きだった人の掘り起こしが、コンテンツを続けていくうえで大事なのでしょうか。
浅沼氏 どのファンも大事だと思います。面白いのは、40年も続いていると、子供の頃にその時代のガンダムを見て育った人たちが、会社の中でさまざまな役職に就いていたりするんです。
そうなるとコラボやタイアップの話がスムーズに進みやすいんです。最近のアニメとのコラボ商品を社内で企画しても、役職に就いている人に説明するのはちょっと難しいかもしれません。しかしガンダムシリーズだと企画担当者から課長や部長といった人まで、それぞれ子供の頃に放送していたガンダムを経験しているので、企画を立てやすいし、説明したときに“ああ、あのガンダムだね”となって話が進みやすい。そして、こちらから特に働きかけなくても、いろいろな企画が次々と持ち込まれてくるんです。社長が考えた、社長が好きで決めた、といった企画も多くあります。これは長年続いてきたからこその強みだし、ありがたいことだと思います。
コンテンツを長く続けるにはユーザーの入れ替わりに気を配る必要があります。それについてはいかがでしょうか。
浅沼氏 子供が成長に合わせてどんな道を通っていくかを、我々はずっと見てきました。まず未就学児だと“戦隊もの”や“仮面ライダー”が好きになります。それを卒業するとゲームに興味が移ってきて、同時にこの頃からガンダムが好きになり、長い“ガンダム人生”が始まります。
ガンダムにはいくつもの映像作品があり、たくさんのグッズがあり、いろいろなコラボがあります。ガンプラだけを見ても簡単なものから高価で作るのが難しいものまであり、一度その道に入るとなかなか終わりがありません。奥が深いんです。ガンダムを卒業して他のことに興味が移る人ももちろんいますが、その割合が他の作品に比べて少ないと思います。
そして卒業したかな、という人が戻ってくることも多いんです。普段は積極的にアニメを見るわけではなく、ガンプラもチェックしていないけれど、『機動戦士ガンダムNT』(18年、映画)のポスターなどを見て“何だこれは? ニュータイプの話?”となり、映画館に足を運んでくれたり、久しぶりにガンプラを店頭で手に取ってくれたりする人もいます。ガンダムは、そうした“心の中にずっと住み着いている”感が非常に強いコンテンツだと思います。
そうしたユーザーの掘り起こしは、グッズの提供、キャッチーな話題の提供、人気のある作品の続きなどです。動く実物大ガンダムを作るという話題が出て、“何だそれは?”と思ってもらうことが掘り起こしにつながります。
アジア圏に広がるガンプラブーム
ガンプラ売り場に行くと海外からの観光客の姿をよく見かけます。海外での展開について教えてください。
浅沼氏 ガンプラの売り上げでいうと、海外の比率が3割を超えてきています。日本以外だと盛り上がっているのはアジア、特に中国です。昨年、上海に「ガンプラ」のオフィシャルショップを開設しましたが、大変好調です。
アジア圏に比べてまだ認知度が低いのですが、北米と欧州でも取り組んでいます。大きいのは18年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』にガンダムが登場したことです。ハリウッドメジャー作品にガンダムが出るなんて、それこそ40年前には考えられなかったことで、ガンダムが広く世界に知られるきっかけになります。
そしてハリウッドで実写映画の制作が進んでいます。『名探偵ピカチュウ』や『GODZILLA ゴジラ』などを手がけてきたレジェンダリー・ピクチャーズとの共同制作です。マーベル作品クラスの劇場公開をして知名度を上げ、それに合わせて商品展開をしていければと考えています。
世界でマーベル作品に並ぶ存在に
ガンダムというコンテンツを、これからどうしていきたいという考えはありますか?
浅沼氏 ガンダムはまだまだグローバルでメジャーなコンテンツではありません。指標にしているのは『アイアンマン』などのマーベルの作品です。アイアンマンは世界中で映画が公開され、知られています。ガンダムもそうした、世界中で知られるような存在になっていければと思います。例えば、海外のスーパーでガンダムの菓子玩具が普通に売られているような。
2020年の東京オリンピックは世界中が日本に注目し、来日する人が大勢いる、大きなチャンスです。そこで旅の目的として、おすしが食べたい、富士山が見たいといったことと並んで“動く実物大ガンダムを見たい”が入ってくるようになってほしい。京都に行く前に横浜に寄ってガンダムを見ていこう、といった感じですね。
(写真/菊池くらげ)