ネスレ日本が2019年4月19~29日に開催した「ご当地キットカット ペアリング BAR」は、日本酒とご当地キットカットの最適な組み合わせをAI(人工知能)が提案するという目新しさが話題に。その背景には、地域色を打ち出し国内外のファンをつかむ“ご当地マーケティング”がある。

六本木ヒルズアリーナで開催された「ご当地キットカット ペアリング BAR」
六本木ヒルズアリーナで開催された「ご当地キットカット ペアリング BAR」

ネット時代の今、中田英寿が強調する地域固有の情報

 「ご当地キットカット ペアリング BAR」は、日本酒とご当地キットカットによるお薦めのペアリングが楽しめる仮設スタンド。お客は5つの質問に回答するとAIがその人の好みを判断し、日本酒110種類とご当地キットカット15種類の合計1650通り(1日150 通り×11日間)の中から最適な組み合わせを導き出し、セットメニューとして提案してくれる。今回、六本木ヒルズ内で開催された元サッカー日本代表の中田英寿がプロデュースする日本酒の祭典「CRAFT SAKE WEEK」の会場内に開設された。

今回使用したAIは「IBM Watson」をベースに開発。過去3年にわたり、延べ約400蔵を誘致した「CRAFT SAKE WEEK」の知見が生かされているという。診断にはタッチパネル式の専用機器を使用。「超能力を手に入れるなら?」「チョコレートはくちどけより香りが重視?」「誕生日や記念日のサプライズが好き」など、2択・3択や「YES」「NO」で答えていくと、AIが自分にぴったりのキットカットと日本酒のペアリングを選んでくれる
今回使用したAIは「IBM Watson」をベースに開発。過去3年にわたり、延べ約400蔵を誘致した「CRAFT SAKE WEEK」の知見が生かされているという。診断にはタッチパネル式の専用機器を使用。「超能力を手に入れるなら?」「チョコレートはくちどけより香りが重視?」「誕生日や記念日のサプライズが好き」など、2択・3択や「YES」「NO」で答えていくと、AIが自分にぴったりのキットカットと日本酒のペアリングを選んでくれる

 キットカットには地域に根差した原材料や特産物をテーマに、主に土産店で販売している「ご当地土産シリーズ」がある。国内のみならず、海外からの旅行客にも土産として人気の高い商品だ。「CRAFT SAKE WEEK」来場者の2~3割が外国人ということもあり、種類豊富なご当地キットカットと日本酒のペアリングを提示することで、チョコレートと日本酒の新しい楽しみ方を国内外に広めていこうというわけだ。

 中田は「ワイン・シャンパンとチョコレートという組み合わせはメジャー。日本酒にチョコレートというのは珍しいように思えるが、アルコールとチョコレートは長い文化があるので、日本酒が合わないということはないはず。このイベントを通して、ペアリングの新しい発見をしてほしい」と抱負を語った。

 さらに「インターネットが普及したことで、国や言葉など関係なく情報を調べられるようになったが、均一化されたものしかない。その中での新たな発見となるのは、地方の誰も知らないような情報ではないかと考えている。自分が足を運んで初めて分かったことや、地元の人たちだからこそ知っているような情報が価値を持っていくと思うので、今後は商品や素材だけでなく、地方も盛り上げられるような取り組みをしていきたい」と、ネット時代の今だからこそ、地域固有の情報の価値が高くなっていることを指摘した。

会場に姿を現した元サッカー日本代表の中田英寿
会場に姿を現した元サッカー日本代表の中田英寿

お土産ニーズを掘り起こした「ご当地キットカット」

 そもそもキットカットのご当地シリーズは、2002年に北海道の夕張メロンを支援しようという流れから始まった商品だ。同シリーズを担当するネスレ日本コンフェクショナリー事業本部マーケティング部マーケティングスペシャリストの井上翔氏は、「夕張メロンフレーバーのキットカットの販売を始めてみると、日本人だけでなく、外国人客がわざわざ北海道まで買いに来たり、北海道在住の人が手土産として買っていくことが分かった。スーパーなどで売る商品とは違い、キットカットを『お土産』として購入するという、新しいニーズを掘り起こせる可能性があると考えた」と話す。

 特に訪日外国人については、14年は500万人程度だったが20年は4000万人まで拡大すると言われているため、インバウンド事業に大きな可能性があるといえる。ネスレ日本常務執行役員コンフェクショナリー事業本部長のセドリック・ラクロワ氏は「キットカットのカラフルな見た目やパッケージ、多彩な味や食感などは遊び心があり、それも海外の人にも受け入れられている理由の1つ」と語る。

 以降、08年ごろから現在のご当地シリーズの本格展開を開始。各地域に根差した原材料・特産品を使用する老舗や企業とコラボレーションし、さまざまなフレーバーを開発した。今では日本人の旅行客だけでなく、中国や韓国をはじめ訪日外国人観光客の定番土産になっているとのこと。

ネスレ日本コンフェクショナリー事業本部マーケティング部マーケティングスペシャリストの井上翔氏(左)と同社常務執行役員コンフェクショナリー事業本部長のセドリック・ラクロワ氏(右)
ネスレ日本コンフェクショナリー事業本部マーケティング部マーケティングスペシャリストの井上翔氏(左)と同社常務執行役員コンフェクショナリー事業本部長のセドリック・ラクロワ氏(右)

新しいもの好きの日本人だからイノベーションが必要

 日本のキットカットは「メイドインジャパンキットカット」と呼ばれ、累計350種類・常時40種類を超えるフレーバーを展開している。それを可能にしているのが、工場数と日本が“島国”であるという点だ。

 「現在、ネスレの世界全体の工場数は14で、そのうちの2つが日本にある。海外は地続きになっているケースがほとんどで、1つの工場で作った製品が複数の国に展開されていく。国によって裏面の表示方法や法規制などの制約が異なり、すべてをクリアしたものでないと販売できないため、バラエティーを増やすのは難しい。その点、日本には工場が2つあるので、さまざまなニーズに合わせた商品を作りやすく、日本で作った製品は日本にしか流れないので、ハードルが低い」(井上氏)

 今回のイベントは日本酒とチョコレートのペアリングがテーマだが、この施策を通じてご当地キットカットの種類の豊富さを知ってもらいたいという目的もあった。

 「日本のチョコレートは、毎年全製品の約3割が新しい製品に切り替わる。つまり3年で、ほぼすべての製品がリニューアルするということ。日本人は新しいものが好きで、受け入れるという性質があるため、イノベーションが必要になってくる。そのため新しいフレーバーを常に模索している」(ラクロワ氏)

 そこで出会ったのが中田英寿だ。16年に「CRAFT SAKE WEEK」で出会い、中田が350以上の酒蔵を回っていることや、知識が豊富なことを知る。ネスレ日本がチョコレートの専門家として中田をサポートし、日本酒のキットカットを共同開発。そして、今回のプロジェクトが始動した。

 「商品として一番売れているのは『梅酒 鶴梅』と『日本酒 満寿泉(ますいずみ)』。酒は土産として持ち帰るのは大変だが、キットカットなら手軽に試せるので、日本人はもちろん海外の人からも評判がいい」(井上氏)

日本やアジアがチョコレートのトレンドセッターに

 キットカット全体の市場も拡大している。18年の年間売り上げは、10年と比べて1.5倍以上に増加。またキットカットは数あるチョコレートのブランドの中でも、単一のブランドとして最も国内シェアが大きい。ネスレ日本によると、他社は1社で複数のブランドを販売しているが全体の売り上げはほぼ互角とのこと。つまりキットカットは「日本で一番売れているチョコレートブランド」というわけだ。それを支えているのが、通常の期間限定商品や今回のご当地キットカットのような取り組みだ。

 ラクロワ氏は、「これまでチョコレートの世界トレンドは北米や欧州発が多かった。しかし今はアジア、とりわけ日本が発信地だ」と明言する。数年前から海外では和食ブームが起こっており、抹茶やすし、日本酒が人気だ。特に抹茶は海外でのニーズが高まっており、日本で販売されていた抹茶味のキットカットが海外でも高評価を得ている。それを受け、19年春から欧州でも抹茶味のキットカットの生産が始まった。

 カカオ由来の鮮やかなピンク色をした「ルビーチョコレート」も、日本発で世界に発信された商品だ。世界的に人気を博しており、抹茶、ルビーともに世界25の市場で展開されている。「日本がトレンドの台風の目になっていると感じている」(ラクロワ氏)。

 キットカットの場合、日本の消費者が喜ぶものは海外の消費者からも好まれるという。そのため、まずは日本の需要に対応できる体制を作り、日本の消費者に満足してもらえる製品作りを心掛けていく方針だ。ラクロワ氏は「12年から5年間で売り上げが50%増加しており、良い成果を遂げているので、これからは海外でも成長していきたい」と意気込む。

 ネスレ日本は今後、ご当地シリーズをはじめ地方を応援していくという。

 1958年からキットカットは、“Have a break, Have a KitKat.”というスローガンを掲げ、受験生の験担ぎのラッキーアイテム・大切な人に応援や感謝の気持ちを伝えるツールとして定着している。そもそも「Break」には手で「割る」ブレイクと、手を止めて「休む」という2つの意味が込められており、発売当初は受験生のストレス緩和(心のブレイク)にという狙いでプロモーションを展開していた。ところがその後、「きっと勝つ」というイメージが顧客の間で広まり、誰かを「応援する」という文脈までブランドのリーチが拡大したという背景がある。

 井上氏は「今は地方を応援しようという方向にも拡大してきている。一緒に製品開発をした中田さんと協力して、地方を盛り上げられるような取り組みをしていきたい」と話す。

 現在、中田とのコラボ商品を開発しており、新フレーバー展開も思案中とのこと。今後の新商品に期待したい。

AI診断を試してみると、「キットカット 梅酒 鶴梅」と和歌山県の「紀土」という日本酒の組み合わせになった。麹(こうじ)の香りが際立つ甘いチョコレートに、ドライですっきりとした味わいの日本酒がよく合う
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