スポーツ用品店大手のアルペンが2019年4月19日、千葉県柏市に満を持してオープンしたのが「Alpen Outdoors Flagship Store 柏店」だ。約7600平方メートルという広大な売り場面積の同店は体験を重視。アウトドアをブームではなく、文化として定着させようという意気込みが伝わってくる。

好調な新業態における「体感型」旗艦店を関東に
スポーツ・アウトドア用品販売を手掛け、全国で約400店舗を展開するアルペン。オープン前日に開催された内覧会では、同社の水野敦之社長と常務執行役員戦略企画本部長の二十軒翔氏が登壇し、新店舗「Alpen Outdoors Flagship Store 柏店(以降、柏店)」の概要や特徴をアピールした。
SPORTS DEPO柏沼南店を全面改装して新たにオープンした柏店は、3フロア合計約7600平方メートルという売り場面積を誇り、「日本最大規模、世界でも最大級」をうたう。その広大な売り場で、約450ブランド、10万点以上の商品を扱うという。
アルペンは2018年から新業態として、アウトドア用品店の「Alpen Outdoors(アルペンアウトドアーズ)」、登山用品店の「Alpen Mountains(アルペンマウンテンズ)」を展開している。アウトドアーズは18年4月に愛知県春日井市に春日井店、マウンテンズは同10月に名古屋市に一社店をそれぞれ1号店としてオープン。ともに売り場面積の広さ、専門性の高さが好評で、車で1~2時間かけて来店する客も少なくないという。
さらに同社は19年3月に京都宇治店(京都府)、フレスポジャングルパーク店(鹿児島県)、宇多津店(香川県)と立て続けにアウトドアーズ3店舗を開業。19年6月にはマウンテンズの2号店、練馬関町店(東京都)がオープンを控えている。こうした開店ラッシュの中、柏店はアウトドアーズとマウンテンズを合わせた新業態の“旗艦店(Flagship Store)”として、広大な売り場面積を活用し、コンセプトをより明確に打ち出す考えだ。
「アウトドアシーンがイメージできる売り場」(水野氏)をコンセプトに、各社の製品を組み合わせて実際のキャンプシーンを演出したディスプレーコーナーや、体験スペースを豊富に設置。どんな道具をそろえればいいかというコーディネートの参考にできるだけでなく、例えばテントなら設営と収納を試せたり、バックパックならダミーのウエートを入れて背負えたりと、実際の使用感を確認して購入することが可能になっている。
他の追随を許さないスケールの大きさ
柏店は1階にキャンプ用品、2階にアウトドアのアパレル、3階に登山やウインタースポーツ用品と、それぞれテーマが定められている。全体では約10万点の商品を扱うが、各アイテムの内訳を見ていくと、その充実ぶりが実感できる。テント約330種類、チェア約320種類、ランタン約200種類、トレッキングシューズ220種類、バックパック約1000種類を取りそろえ、「どこにも負けない」(二十軒氏)と言うだけのことはある。
これだけのアイテム数を誇りながら、売り場に商品を詰め込んだ“窮屈さ”はない。例えば2階のキッズスペースには、外遊びのおもちゃを体験できる約400平方メートルものプレイエリアを設けている。同じく2階の本を取り扱うコーナーにはスタンド式のハンモックを置き、ゆったりと本を読めるようになっている。2階の自転車、3階のスキー・スノーボードの売り場には、それぞれ道具のメンテナンスや取り付けを行ってくれるラボも併設。何かとかさばるアウトドア用品を保管するため、月額4000円で借りられるレンタルロッカーまで用意した。このように、商品の展示以外に使われているスペースが各所に見られるのだ。
THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)やSnow Peak(スノーピーク)、WEBER(ウェーバー)、Coleman(コールマン)、LOGOS(ロゴス)、DULTON(ダルトン)と、ショップインショップが6ブランドにも上るという点も、広大な売り場を誇る同店ならでは。しかもスノーピークは約200平方メートルと日本最大級。ザ・ノース・フェイスは2階と3階の2フロアで展開し、直営店以外では最大規模だ。ダルトンもアウトドアショップへは初出店と、その規模や内容は注目に値する。
アウトドアをブームで終わらせず、文化として定着させる
ECの台頭で実店舗の苦戦がもはや“常識”と化している今日、中でもアウトドア用品はECでの購入率が高いジャンルだ。ECとの競合を問われた二十軒氏は「どこで買うかを選ばれるのはお客様。ECサイトがよいとなればそれを否定しない」と答えた。
柏店で実物を手に品定めをして購入を悩み、帰宅後に「やはり欲しい」とECサイトで買う。そういった“ありがちな展開”も二十軒氏は容認。そのうえで、買ったはいいが使い方が分からない、思っていたものと違う、必要なかった、といった「アウトドアへの興味をも失うような“購買後の落胆”を防ぐことのほうがより重要だ」と語った。
結果的にECで購入する客であっても、柏店をはじめとするアウトドアーズやマウンテンズの店頭で商品に触れ、「その価値を感じてほしい」(二十軒氏)と話す。そこにあるのは「アウトドアを一過性のブームで終わらせず、文化として定着させる」(水野社長)というアルペンの“覚悟”だ。
昨今はアウトドア関連では新規出店や売り上げの増加といったにぎやかなニュースが聞かれ、確かにブームと呼んでもいい状況にある。それを一歩進めて、文化として定着させるために出した同社の答えが「購買体験の価値を高めることの追求」であり、実現に向けた最も分かりやすい“場”が柏店というわけだ。
前述のような“落胆”を顧客に感じさせないために、重要なのが接客だ。どんなに手軽であっても、アウトドアでの遊びは油断や不幸な偶然が命の危険に直結しかねない。登山やバックカントリースキーの道具まで扱う柏店ではなおのこと、使用者に適した道具の提案と正しい使い方の教授、安全の啓発ができるだけの知識がスタッフに求められる。そのためアルペンではアウトドアーズを展開するに当たり、以前からスタッフ教育に注力していたという。
10万点という品ぞろえも、購買体験を高めるための施策の1つ。柏店オープンに当たって、アルペンはかなりの時間をかけて商品の確保に努めてきた。その甲斐もあって、メーカーにも在庫が存在しないようなアイテムでさえ、「ここでなら買える」ケースがあるとのこと。
柏店オープンに向けたこうした取り組みは、同業他社に対する圧倒的なアドバンテージと自信にもつながっている。「品ぞろえやスタッフ教育など、他社が同じことをしてもまねできるようなものではない」(二十軒氏)。春日井店開店からの1年間で得たものの大きさを考えれば、他社が同様の店を開いた頃には、自分たちはもっと進化しているはずだという確信があるのだ。
デカトロンやワークマンとは「向いている方向が違う」
デカトロンの日本進出や、ワークマンプラスの躍進などについて問われたときも、二十軒氏は非常に冷静だった。両社ともプライベートブランド(PB)を専門とするメーカーで、特にワークマンプラスはアパレルだけを軸に展開。アルペンとは「向いている方向が違うと感じている」(二十軒氏)とのこと。
ショップインショップをはじめ、定評あるナショナルブランド(NB)の商品を幅広くそろえ、見て、触れてもらうことで「こんなこともできるかも」「あんなことがしたい」と感じさせるのがアルペンのやり方だ。「そういうスタンスで展開しているからこそ、遠方から足を運んでもらえる店になっている」と二十軒氏は自信をにじませる。
ちなみにアルペンも「IGNIO」や「kissmark」といったPBを展開しており、柏店でもさまざまなIGNIO製品を販売している。アルペンは価格や機能、用途などの面において、NBではカバーできないような製品をPBで展開しているとのこと。「顧客から求められるものを製品化する」(二十軒氏)のがポリシーで、デカトロンやワークマンプラスへの対抗策として活用する意図はないようだ。
二十軒氏はSNSで見た「雨が降ってキャンプに行けないからアウトドアーズへ行こう」という書き込みを引き合いに出し、「(アウトドアーズには)キャンプに行くのと同じ感覚で来店していただけている。アウトドアの世界観に浸りたい客に体験を提供できている」(二十軒氏)と手応えを感じており、柏店でもその成功を確信しているようだ。
懸念材料は周辺道路の渋滞と駐車場不足
デカトロンでの買い物を体験してきた筆者から見ても、確かに柏店が見据える方向は異なっていると感じる。柏店には劣るがデカトロンが扱う商品数もまた膨大で、どれも高機能かつ安価。しかしそれらはあくまでPB製品で、買う側にしてみれば、使い勝手やデザイン面で多少不満があったとしても、コストパフォーマンスの前に妥協して購入に至るケースが少なくない。
それに対し、アルペンが扱う商品の大半は信頼の置けるNB製品であり、しかも現物を手にし、高い納得感を得た上で購入ができる。これはアウトドアを趣味とする者にとって、大きな魅力に違いない。
柏店に懸念材料があるとすれば、立地だろう。水野社長も二十軒氏も、遠方から来てもらえる土地として国道16号線沿いのこの場所を選んだという。しかし一方で、セブンパーク アリオ柏やスーパーオートバックスかしわ沼南などの大型商業施設が並ぶこのエリアは、週末の渋滞で知られている。店舗に用意された駐車場は「アルペンとしては最大」(二十軒氏)とはいえ、約250台分で、店の規模を考えると心もとない。実際、グランドオープンとなった4月19日から早々に満車状態が続いているという。
店自体が持つ魅力の高さは折り紙付き。だからこそ、かえって渋滞や駐車場不足の問題がクローズアップされる。そうした“店の外側で感じる不快感”が、アルペンが目指す「購買体験の価値を高めること」にどう影響するのか、気になるところだ。