ゆうちょ銀行が2019年5月8日から、自行に口座を持つユーザー向けに、QRコード決済サービス「ゆうちょPay」を提供し始める。当初はヤマダ電機やウエルシア薬局など17社が導入。その後、牛丼チェーンの松屋や、東急ハンズ、コンビニエンスストアのミニストップやポプラなどが順次導入する予定だ。
ゆうちょ銀行に口座を持つユーザーは、スマートフォンにゆうちょPay専用アプリをダウンロードすれば、同行と契約している小売店や飲食店などの店舗で、キャッシュレスで決済できる。アプリ画面に表示されるQRコードを店舗側が読み取る方式にも、店頭のタブレット端末などに表示されるQRコードをアプリで読み取る方式にも対応している。
決済の仕組みそのものは、ゲートウェイ事業者大手のGMOペイメントゲートウェイ(GMO-PG、東京・渋谷)が開発したシステムを使って構築されている。このため、GMO-PGが決済システムを既に提供している横浜銀行、福岡銀行、熊本銀行など4行が提供するQRコード決済サービスとは、相互に相乗り利用ができる。例えば、横浜銀行が自行のユーザーに提供しているQRコード決済サービス「はまPay」に対応している小売店では、ゆうちょPayでも支払いができる。逆にゆうちょPayが利用できる小売店でも、はまPayや福岡銀行が提供している「よかPay」で支払いができる。
ゆうちょPayの開始で、名目上は約1億2000万(通常貯金の口座数)の潜在ユーザーが、QRコード決済サービスを利用できることになる。もっとも、実際に普及を進めるためには、利用できる店舗の開拓、ユーザーの利用促進の両面で、施策を展開しなければならない。
店舗開拓の面では、小売店側から見て、決済手数料や初期導入費用の低さ、サービス事業者が小売店に送客してくれるかどうかなどが問われる。ゆうちょPayの場合、GMO-PGのシステムを使っていることもあり、大手IT系の競合他社と異なり、決済手数料をゼロにし続けるのは事実上難しいと見られる。その意味で、手数料を負担してもキャッシュレス志向の顧客を取り込みたいと考える大手チェーン店はゆうちょPayを導入する可能性はあるが、これまでも手数料の高さを理由にクレジットカードなどキャッシュレス決済の導入をためらってきた中小小売店を開拓するには、課題が残る。
代金即時引き落としで使いすぎを防げるのが特徴
ユーザーの利用促進の面ではどうか。ゆうちょPayの特徴は、GMO-PGが銀行向けに開発したシステムを利用しているため、ユーザーが決済すると、事前に登録したゆうちょ銀行の口座から、代金が即時に引き落とされるところにある。
実は「LINE Pay」や「楽天ペイ」「PayPay」「d払い」といった、先行する大手IT系のQRコード決済サービスの多くは、決済時に銀行口座から代金を即時に引き落とす仕組みを採用していない。クレジットカードとひも付けたり、銀行口座とひも付けた場合でもいったんアプリ内にチャージする必要がある。ゆうちょPayと同様に即時引き落としを売りにしているのは、QRコード決済サービスの老舗であるOrigamiがシステムを開発し、クレディセゾンなどが自社ユーザーに提供したり、Origami自身が「提携Pay」という名で他社にオープンプラットフォームとして提供したりしている「Origami Pay」くらいだ。
このため、ゆうちょPayを普及させるには、ゆうちょ銀行の口座を持つユーザーのうち、「キャッシュレスというメリットは享受したいが、使い過ぎは避けたい」というユーザーを狙って、利用を促すマーケティング策を的確に展開するのが効果的と見られる。また、「クレジットカードをつくろうとしても審査に通らないが、ゆうちょ銀行には口座を持っている」というユーザーも狙い目になる。
ところが、今のところゆうちょ銀行は、「専用アプリを新規にダウンロードし、口座登録まで終えたユーザー先着100万人に対して、現金500円をプレゼント」(19年9月30日までか、100万人到達まで)、「キャンペーン対象ツイートをリツイートしたユーザーのうち、抽選で毎月2000人に飲食店などで使えるデジタルギフトをプレゼント」(20年3月31日まで)という販促支援策の実施しか公にしていない。
QRコード決済サービス事業者としては後発であることを自覚し、今後、ゆうちょPayの強みを生かした、ユーザーへの利用促進策を打てるかどうか──。それができなければゆうちょPayは、かつて大手都銀が普及に躍起になったが、利用するメリットが伝わらずにユーザーにそっぽを向かれたデビットカードと、同じ運命をたどることになりかねない。