米国のトランプ大統領と衝突している中国政府が、輸入の大幅増にかじを切った。この流れに乗り、香港に本拠を置く中国の流通グループ大手、新華集団(サンワグループ)が、日本の健康関連産業が手掛ける商品やサービスを、これまでより効率的に中国市場に供給する専門の越境サプライチェーン会社を2019年3月に立ち上げた。

 医薬品から栄養補助食品、健康器具、医療サービス、それにフィットネスクラブのような施設まで、日本の健康関連産業が手掛ける商品やサービスを、これまでよりも効率的に中国市場へ供給する、専門の越境サプライチェーン会社が、2019年3月に設立された。

 新会社の名は広東省新華日品サプライチェーン管理公司(SUNWAH JAPAN BRAND SCM Co.,LTD.)。香港に本社を置き、中国国内に小型スーパーや百貨店、コンビニエンスストアなど約4万9000店のリアル店舗を抱える流通グループ大手、新華集団が、新会社の株式の60%を保有して経営を主導。他に、中国国営中央テレビ(中国中央電視台、CCTV)のテレビショッピング部門と提携して日本市場向けにテレビショッピング事業などを手掛ける日本ブランド(東京・千代田区)などが出資する。

4つの流通ルートを新設

 新会社は、以下の4つのルートを主に使って日本のメーカーの商品を中国に輸入。中国の大手流通事業者や小売事業者に卸したり、ECを経由して中国の消費者に直接販売したりする予定だ。中国国内の自由貿易区内の倉庫などを活用するため、通関手続きなどが簡略化され、これまでより迅速に、手間も少なく効率的に、輸入業務を進められるという。

①~④のルートが新設される。うち3つのルートは、自由貿易区に置かれた保税倉庫にまず商品を保管し、そこから出荷する形を取る
①~④のルートが新設される。うち3つのルートは、自由貿易区に置かれた保税倉庫にまず商品を保管し、そこから出荷する形を取る

 新会社が用意する4つのルートとは、通関前の商品を保管する保税倉庫と同等の位置づけとされる前置き保税区を中国の大都市近辺に配置し、そこから流通事業者や小売店に商品を卸す「前置き保税区」モデル。中国国内の11の自由貿易区や一線都市と呼ばれる大都市に開設した新華集団傘下の免税店で商品を販売する「自由貿易区免税店」モデル、自由貿易区に置く保税倉庫を活用する「越境ECー保税輸入」モデル、海外の倉庫から商品を供給する「越境ECー海外郵便」モデルの4つである。

 新華集団の主席で、中国人民政治協商会議常務委員、広東香港澳門大湾区企業家連盟主席などを兼務する蔡冠深(ジョナサン・チョイ)博士は、今回の取り組みの最大の狙いを、「日本の健康関連産業や同産業を支えるヘルスケアの精神を中国に輸入し、発展させることができれば、日中両国にとって大きな利益になる」と語る。

 蔡(チョイ)氏は続けて、「日本の医療水準は世界でもトップクラスで、世界有数の長寿社会を実現している。その背景には、医療や健康関連の商品が優れているだけでなく、ヒューマンケアについての進んだ理念や、サービスの質を担保する高い業務管理の手法がある。中国側は、これらを含めて日本の健康関連産業を中国に呼び込み、学ぶべきだ。日本からの健康関連商品やサービスの輸入が増えれば、中国の地場企業を含めて競争が激化し、中国企業の品質向上にもつながる。日本の先端的な健康関連産業と中国という大市場が組み合わさることで、日中双方にメリットがある」と言う。

15年で約4500兆円輸入を宣言した中国

 新会社がこのタイミングで始動する背景には、中国が抱える2つの事情がある。

 中国政府は今、米国のドナルド・トランプ大統領から大幅な貿易黒字を非難され、実質的な米中貿易戦争に突入しており、事態改善のためにはどうしても輸入を増やす必要がある。そのために開催されたのが、18年11月5~10日、上海で開催された第1回国際輸入博覧会(China International Import Expo)だ。

 習近平(シー・チンピン)国家主席は、輸入博初日の開幕式で、保護主義の台頭を牽制(けんせい)しながらも、中国は今後15年で物品とサービスを合計40兆ドル(約4500兆円)超輸入する見通しだと表明した。この目標を達成するには、中国の消費者から人気の高い日本の商品の輸入増を、今以上に働きかける必要があるわけだ。

 また、中国では16年に、国家戦略目標として「健康中国2030」を掲げている。医療保健、食品安全、レジャー・スポーツ、医療保険、養老、環境保護といった幅広い分野で産業を育成。同時に医療水準を引き上げ、国土の環境を改善し、平均寿命の上昇を図るという狙いがある。目標としては、健康サービス産業の市場規模を、2020年に8兆元(約134兆円)、2030年には16兆元(約267兆円)へ引き上げることを目指している。

 これらの2つの事情を考えると、日本の健康関連産業が手掛ける商品やサービスを中国市場へ大量に輸入することは、中国側からすると一石二鳥の良策となる。日本の健康関連商品やサービスを提供する企業にとっても、巨大な中国市場へのアクセスを得やすくなるメリットがある。

既に関税引き下げなどは実施

 既に中国政府は輸入増を加速させるため、自由貿易区内での規制緩和や、関税の引き下げなどに力を入れている。例えば、内陸部にある四川省自由貿易区試験区青白江エリアでは、越境ECについては1回の輸入取引額が5000元(約8万3500円)以下か、年度を通しての取引額が2万6000元(約43万4200円)以下であれば、関税はゼロで、輸入付加価値税並びに消費税は規定の70%に抑制される措置がある。

 18年7月には中国政府が、おむつの関税を7.5%からゼロへ、生理用ナプキンの関税を10~14%から5%へ、乳児用粉ミルクの一部商品の関税を20%からゼロへとなるように、一部消費財の関税を暫定税率方式で引き下げた。対象となる商品の平均税率は15.7%から6.9%へと、単純計算で50%以上も引き下げられた計算になる。

蔡冠深(ジョナサン・チョイ)博士。中国人民政治協商会議常務委員、広東香港澳門大湾区企業家連盟主席なども兼務するなど、中国当局と太いパイプを持ち、“働きかけ”が実現する可能性は高い
蔡冠深(ジョナサン・チョイ)博士。中国人民政治協商会議常務委員、広東香港澳門大湾区企業家連盟主席なども兼務するなど、中国当局と太いパイプを持ち、“働きかけ”が実現する可能性は高い

 蔡氏はさらに、「検査検疫体制を見直し、健康関連商品とみなされる果物やシーフード、牛肉、医薬品などについては、含有成分の厳格な表示義務の見直しや、認可に至るまでの期間短縮を、当局に働きかける」と明言。特に、これまでCFDA(国家食品薬品監督管理局)が1年以上かけることも珍しくなかった医薬品の認可にかかる期間については、新たな認可機関となったNMPA(国家薬品管理監督局)に対して、認可期間の短縮を強力に働きかけるという。

 新たに設立した日本の健康関連商品専門のサプライチェーン会社は、売り上げ目標として、19年に35億元(約585億円)、23年には100億元(約1670億円)を掲げる。もくろみ通りに日本の健康関連企業が中国市場への進出に積極的な姿勢を取れば、「中国でよく売れる日本の商品は、ゲーム機や紙おむつ、化粧品、衣料品、それに菓子類……」という常識をひっくり返すことになるかもしれない。

(写真/新関雅士)

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