LINEは2019年4月16日、小説プラットフォーム「LINEノベル」を開始した。専用アプリで人気作家の作品が読める他、小説の投稿も可能。出版社9社が参画し、有望な新人発掘にもつなげる。さまざまなコンテンツ配信を展開するLINEが、事業領域をテキストにまで広げてきた。

「LINEノベル」発表会にて。左からLINE執行役員プロデューサーの森啓氏、日本テレビ放送網プロデューサーの植野浩之氏、乃木坂46の高山一実氏、アニプレックスプロデューサー高橋祐馬氏、ストレートエッジ代表取締役兼LINEノベル編集長の三木一馬氏
「LINEノベル」発表会にて。左からLINE執行役員プロデューサーの森啓氏、日本テレビ放送網プロデューサーの植野浩之氏、乃木坂46の高山一実氏、アニプレックスプロデューサー高橋祐馬氏、ストレートエッジ代表取締役兼LINEノベル編集長の三木一馬氏

 YouTubeやInstagramなど、ビジュアル系コンテンツが人気の現在、今回、あえて小説というテキストコンテンツに着目したLINE。その理由について、同社取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏は「ビジュアルコンテンツと違って、ワンフレーズから想像力を育めるテキストコンテンツは、まだまだ可能性がある」と説明する。

LINE取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏
LINE取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏

 「LINEノベル」が提供するサービスは、小説の「読書」と「投稿」の2つ。同社がまず事業として可能性を見いだしているのは「読書」のほうだ。同社執行役員プロデューサーの森啓氏は「まずはプラットフォームを成長させることが大事。そのために読者数を増やしたい」と話す。小説を投稿するより、読むほうがはるかにハードルが低い。またいくら投稿があっても、読者がいなければ事業の芽は断たれる。そこで第一ステップとしては、LINEノベルのファンを増やしてビジネスの基盤を固めようというわけだ。

LINE執行役員プロデューサーの森啓氏。令和小説大賞の審査員も務める
LINE執行役員プロデューサーの森啓氏。令和小説大賞の審査員も務める

 読者獲得には魅力的な作品が不可欠。LINEノベルでは宮部みゆきや伊坂幸太郎、川原礫(れき)をはじめとする、人気作家の約200作品が読める。さらに今回、LINEは自ら『LINE文庫』『LINE文庫エッジ』という2つのレーベルを立ち上げた。レーベルの統括編集長にライトノベルの編集者として知られるストレートエッジの三木一馬氏を迎え、原田マハ、中村航、鎌池和馬など人気作家による限定書き下ろし作品を投入する予定だ。

 ただし、読書サービスが始まるのは2019年の夏から。読書には専用の「LINEノベル」アプリが必要となる。アプリのダウンロードは無料で、アイテム課金を導入するという。

1話単位の販売で読書のハードルを下げる

 さらに読者を引き付ける仕掛けがある。それはLINEノベルが作品を「話売り」する点だ。1冊の本を約2000文字ごとで区切り、1話、2話……というように、細かくバラした形式で販売する。「通勤や通学の電車に乗っているほんの数分で読めることを想定した」(森氏)。

 漫画やSNS、ゲームなどさまざまなコンテンツがあふれ、スマートフォンを触る時間の奪い合いが起きている現在、「(デジタル)小説は読者にとって敷居の高いものになっている」と森氏。小説への接触機会を増やすには、コンテンツを小割りにする「話売り」が有効と考えた。確かに1話当たりの読む負荷が下がれば、すき間時間で気軽に楽しめるだけでなく、アクセス頻度の向上にもつながるだろう。料金も低く抑えられるため、読者は面白ければ払い続ければいいし、つまらないと判断したらその段階でやめればいい。

無料で小説が読める仕組み

 掲載作品(一般ユーザーからの投稿作品は除く)は1~3話を無料で公開し、4話以降を有料にする。現在のところ1話当たりの値段は未定。アプリ配信時に発表する予定だ。さらに読書時間に応じて、4話以降(有償コンテンツ)が無料となるチケットも配布する。読書時間が長いほど多くの無償チケットを手に入れる仕組みで、1週間継続すると、小説1冊を無料で読めるという。

読書時間に応じて課金コンテンツが無料になるチケットをもらえるというもの。読書時間の蓄積は1週間ごとにリセットされる。読書が習慣化すれば、毎日無料で読むことも可能
読書時間に応じて課金コンテンツが無料になるチケットをもらえるというもの。読書時間の蓄積は1週間ごとにリセットされる。読書が習慣化すれば、毎日無料で読むことも可能

 これらの施策によって、LINEユーザーが小説に親しむ機会を増やす、つまり「小説の習慣化」が同社の狙いだ。

 しかし「話売り」については、「既存の出版社に提案しても、なかなか『うん』と首を縦に振ってもらえない」(森氏)という。現状、マンガのデジタル市場は拡大したが、小説のデジタル市場はそれほど伸びていない。「デジタル小説の(読書の)習慣化ができているユーザーが増えれば、話売りできない小説でも読んでもらえる可能性が高まり、市場の裾野が広がる」と森氏は期待する。

いきなり“メジャーデビュー”も夢ではない

 アプリでの作品公開に先駆けて、LINEは2019年4月16日から投稿サービスを先行スタートさせた。これに伴い、KADOKAWA、講談社、新潮社、集英社、文藝春秋など出版9社がLINEノベルに参画した。

 これまでも「小説家になろう」や「魔法のiらんどNOVEL」など、自由に小説を投稿できるサイトはあった。LINEノベルがこれらの投稿プラットフォームと異なるのは、出版業界の主な枠組みである「投稿作の独占出版」を行わず、LINEノベルに参画するすべての出版社が投稿者の情報を共有する点だ。

 優れた投稿作品があれば、参画する出版社は投稿者にLINEノベルを通じて書籍化のオファーを出すことができる。ある出版社がオファーを出したという情報は、参画するすべての出版社に共有され、他の出版社も同じ投稿者にオファーを出すことが可能。複数社からオファーを受けた投稿者は、各社の条件を踏まえて最適な出版社を選べる。

 投稿者は自分の作品が複数の出版社の目に触れる機会を得るため、出版のチャンスが高まる。投稿作品が優れていれば、より好条件を獲得できる可能性もある。逆に出版社側も、“新しい才能”を発掘する機会が増える。この循環がうまく機能すれば、良質な小説が次々と生まれるプラットフォームになり得る。なお、LINEと出版社間の収益分配を含む取引条件に関しては非公開とのこと。

 現在のところパソコンでしか投稿できないが、今後はスマートフォンでも投稿できるようにするという。

投稿者自ら書籍化する出版社を選ぶことができる
投稿者自ら書籍化する出版社を選ぶことができる

 新たな才能の発掘を目的に、LINE、日本テレビ、アニプレックスの3社共同で「第1回 令和小説大賞」を開催する。プラットフォーム立ち上げに際し、投稿作品数を増やす狙いがある。

 アンバサダーには、自身初の長編小説「トラペジウム」で20万部の売り上げを突破した、乃木坂46の高山一実氏が就任。大賞受賞作品には賞金300万円に加え、作品の書籍化および映像化の権利が贈呈される。応募は2019年9月30日まで、大賞発表は2020年3月を予定しているという。

 小説の生産から流通、販売、消費まで、一気通貫で提供する新プラットフォームで、テキストコンテンツの事業化に本腰を入れ始めたLINE。「LINEスタンプ」や「LINEマンガ」、「LINE MUSIC」などに続く、新たなコンテンツ事業の柱に成長するかどうか注目したい。

新設される「令和小説大賞」の第1回アンバサダーに就任した、乃木坂46の高山一実氏
新設される「令和小説大賞」の第1回アンバサダーに就任した、乃木坂46の高山一実氏

(写真/古立康三、松野紗梨)

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