日経クロストレンドは2019年4月5日、東京都内で読者向け無料イベント「日経クロストレンド・ミートアップ」の第1回を開催。同イベントには、書籍『マーケティングプロフェッショナルの視点』を発刊したばかりのクー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔氏が登壇し、プロマーケター育成理論を熱弁した。

「日経クロストレンド・ミートアップ」で講演した、クー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔氏
「日経クロストレンド・ミートアップ」で講演した、クー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔氏

 日経クロストレンド・ミートアップは、日経クロストレンドのアドバイザリーボードメンバーを中心に、マーケティング&イノベーション分野で活躍する専門家、著名人を講師として招く講演イベントだ。東京・大手町の「大手町ファイナンシャルシティ グランキューブ3F グローバルビジネスハブ東京」で開催した。

 その基調講演を務めた音部氏は、日経クロストレンドの人気連載「音部大輔のマーケティング視点」を執筆。19年4月4日には同連載が書籍化された。講演では、この書籍の内容を軸に、社内でマーケティングプロフェッショナルを育成するために必要な「共通言語作り」について説明。一部、立ち見も出るほど盛況となり、150人を超える聴講者が音部氏の声に耳を傾けた。

 音部氏はプロクター・アンド・ギャンブル ジャパン(P&G)、ダノンジャパン、資生堂といった企業でマーケティングを手掛けた経験から、複数ブランドを展開するP&Gや資生堂のような企業と、1カテゴリを中心に単一ブランドを展開するダノンのような企業とでは、CMO(最高マーケティング責任者)の役割が異なると持論を唱える。

第1回「日経クロストレンド・ミートアップ」には、150人を超える聴講者が訪れた
第1回「日経クロストレンド・ミートアップ」には、150人を超える聴講者が訪れた

 その役割やCMOのタイプの違いを音部氏は、「ナポレオン」と「モルトケ(※)」という2人の歴史上の人物に例えて説明する。

※ヘルムート・カール・ベルンハルト・フォン・モルトケ。1858年から1888年にかけてプロイセン参謀総長を務め、対デンマーク戦争・普墺戦争・普仏戦争を勝利に導き、ドイツ統一に貢献した。近代ドイツ陸軍の父と呼ばれる。

ナポレオン型とモルトケ型の違い

 ナポレオンは言わずと知れた名将だが、部下の将軍らの主体性をあまり重視していなかったとされる。そのためナポレオンが圧倒的なリーダーシップで部隊を率いる前線は崩れなかったが、全体の戦力を底上げするほどの力はなく、戦線が伸びると優位に戦えなかった。ダノンやマクドナルドのような強力な単一ブランドを展開する企業では、ナポレオン型のCMOが強みを発揮するだろうと音部氏は説明する。

音部氏はCMOを「ナポレオン型」と「モルトケ型」に分類する
音部氏はCMOを「ナポレオン型」と「モルトケ型」に分類する

 一方、複数ブランドを展開する企業の場合は、すべてのブランドマネジャーが同等の力を発揮できる仕組み作りが重要になる。この仕組み作りに才覚を発揮したのが、モルトケだ。複数のブランドを束ねる企業はモルトケ型のCMOが求められる。

 なぜなら、どれだけリーダー個人の能力がたけていたとしても、多数あるブランドのマーケティング施策を一人で網羅することは難しいからだ。ブランドが対象とする消費者層をすべて理解することも不可能に近いだろう。モルトケは、すべての部隊が同等の力を発揮できる仕組み作りに奔走した。これにより、部下全員の平均レベルが底上げされ、結果として強い組織を作り上げた。モルトケ型のCMOはこうした仕組みや組織構築が役割となる。

 では、どうすればモルトケが指揮して作り上げたような、リーダー個人の力量に依存しない組織を構築できるのだろうか。ポイントはたった1つ、「知識の共有」だ。「マーケティング」「ブランド」といった、捉え方が個人によって異なりがちな言葉の指す意味や、「顧客層の設定」といった知識を共通言語化し、各人が同じ視点を持てるようにする。これにより、知識の共有が促進され、組織全体を成長させる。

 仕組み作りによって、全員一丸となってマーケティング戦略を遂行でき、ビジネスの伸長につながる。音部氏の書籍『マーケティングプロフェッショナルの視点』では、こうした共通言語をつくるための実践的で汎用性のある概念を提示している。

「マーケティングワーカー」になるな

 イベント後半では、アジャイルメディア・ネットワーク取締役CMOブロガーの徳力基彦氏がモデレーターを務め、パネリストに音部氏の他、エステー 執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏を交えて議論した。徳力氏からの最初の質問は、「マーケティングプロフェッショナルのいる組織にするためにはどうすればいいか?」だ。

イベント後半では、アジャイルメディア・ネットワーク取締役CMOブロガーの徳力基彦氏がモデレーターを務め、パネリストに音部氏の他、エステー 執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏を迎えた
イベント後半では、アジャイルメディア・ネットワーク取締役CMOブロガーの徳力基彦氏がモデレーターを務め、パネリストに音部氏の他、エステー 執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏を迎えた

 音部氏は「何をもって良いマーケターか、明確な定義がないと、マーケティングプロフェッショナルの育成は難しい」と指摘。すると、鹿毛氏は自身が考案したという、マーケティングプロフェッショナルの対極にあたる「マーケティングワーカー」という定義について解説した。

 鹿毛氏の考えるマーケティングワーカーとは、単なる「マーケティング作業員」のことを指す。例えば、ソーシャルメディアでの拡散、年齢で区切ったセグメンテーション、データ分析など、トレンドを取り入れたフレームワークを使いこなすマーケターは、一見するとプロフェッショナルに見えるだろう。だが、実ははやり言葉に踊らされているだけで、マーケティングプロフェッショナルが本来行うべき「本質的な行為」から外れていることも少なくないと鹿毛氏は指摘する。かつては自身もそうだったと言い、自戒を込めて名付けたそうだ。

 後編では、三者が考えるマーケティングプロフェッショナルが行うべき「本質」と、音部氏が若手マーケーターに贈る、マーケティングプロフェッショナルを目指す人がすぐに始められるスキルアップ術を紹介する。

(写真/山田愼二)