休暇と仕事。これまで相反すると思われてきたこれら2つを、両立させる働き方「ワーケーション」が盛り上がりを見せている。JTBとスノーピークがハワイでサービスを開始した他、三菱地所は海が近い和歌山県白浜町にワーケーション用オフィスを構築するなど、国内外で環境が整いつつある。

JTBとスノーピークビジネスソリューションズは、ハワイで休暇と仕事を両立できるワーケーションサービスを開始した
JTBとスノーピークビジネスソリューションズは、ハワイで休暇と仕事を両立できるワーケーションサービスを開始した

 鈴木さん(男性、34歳)は、食品会社のマーケティング担当者。5日間の休暇を取得してハワイにやってきた。唯一の心残りは、企画書づくりを終えないままに出国してしまったこと。そのため、休暇初日の午前中は、企画書作成の時間に充てることを会社に申請しておいた。企画書を東京の職場にメールで送信してから、心おきなく休暇を満喫するつもりだ。宿泊するホテルの庭にはテントなどを張ったアウトドアオフィスが設営されていた。ここで爽やかな風に吹かれ、青い海を見ながら企画を練っていると、良いアイデアが次々と浮かんでくる。鈴木さんは、予定よりも早く企画書を送信すると、晴れやかな気分でサーフィンに出かけた――。

 こうした新しい働き方を「ワーケーション(Workation)」と呼ぶ。仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語で、インターネットなどのリモート環境を活用し、リゾート地や自然の中で休暇を取りながら、その合間に仕事をする働き方を指す。

 近年、ワーケーションを実現するサービスが相次いで登場している。旅行会社のJTBとスノーピークビジネスソリューションズ(愛知県岡崎市、以下、スノーピークビジネス)は2019年4月1日に「CAMPING OFFICE HAWAII」を開始した。同サービスは、米ハワイにあるホテルやレストラン、レジャー施設や有休スペースなどで、スノーピークのキャンプ用品を活用して、仕事の環境を提供するもの。

 スノーピークビジネスは、キャンプ用品メーカーであるスノーピークの子会社で、オフィスでテントなどのキャンプ用品を活用するアウトドアオフィス事業やアウトドア活動を通した研修事業を展開している。

ホノルル・ワイキキにあるJTBハワイオフィス内のキャンピングオフィス
ホノルル・ワイキキにあるJTBハワイオフィス内のキャンピングオフィス
映画のロケ地としても知られるクアロア牧場に設置したアウトドアオフィス
映画のロケ地としても知られるクアロア牧場に設置したアウトドアオフィス

 JTBは、仕事環境として、映画「ジュラシック・ワールド」などのロケ地としても知られるクアロア牧場やオアフ島の高級住宅地・アイナハイナの邸宅などに設けたアウトドアオフィスの他、ホノルルの中心にあるJTBハワイオフィス内にテントなどを設置したキャンピングオフィスを用意する。

 利用者は、いつもの職場とは異なる環境でミーティングをしたり、アイデアを練ったりすることで、クリエーティビティーと生産性が高まる効果を期待できる。スノーピークビジネスは、グループでテントを設営したり、料理を作ったり、片付けたりする作業を通してチームビルディングを実現するプログラムなどを現地で提供する。こうしたプログラムを利用して、企業研修を実施することもできる。料金はアウトドアオフィスのロケーションによって異なるが、JTBハワイオフィス内のキャンピングオフィスの場合、同時に利用できるのは40人までで、2時間当たり500米ドルから。

チームビルディングを目的に、グループでテント設営作業などに取り組む研修プログラムも用意する
チームビルディングを目的に、グループでテント設営作業などに取り組む研修プログラムも用意する

 JTBは、同サービスをまずは企業向けに販売し、今後個人向けのサービスを展開する考えだ。同社は、企業が職場旅行などで同サービスを利用するケースも多いと見ている。その場合、5日の休暇を設定した職場旅行であれば、1日をテレワークでの仕事に当てるといった利用法を想定している。同社執行役員グローバル事業本部グローバルDMC事業部長の治福司氏は「旅を楽しみながら仕事もすることで、良いアイデアが生まれ、仕事のモチベーションも高まる」と話す。両社は、今後、ハワイ以外に米国西海岸や英国などでも同サービスを拡大する計画で、「21年には60社に販売する」(治福氏)考えだ。

ワーケーションで商談件数が20%増

 国内でもワーケーションを推進する動きは広がっている。中でも和歌山県白浜町は、国内におけるワーケーション先進地域だ。

 同県の南紀白浜空港から車で5分、海岸まで1キロほどの場所に、「白浜町第1ITビジネスオフィス」がある。同施設は、白浜町が、ワーケーション用の仕事環境として、04年に開設した。ここがIT企業などの利用で満室になったため、18年6月に町営の平草原公園内に「白浜町第2ITビジネスオフィス」を開いた。こちらは空港に近い高台にあり、白浜町の街並みや紀伊水道を一望できる。

和歌山県白浜町にある「白浜町第2ITビジネスオフィス」
和歌山県白浜町にある「白浜町第2ITビジネスオフィス」
三菱地所がテナント企業向けに開設したワーケーション用オフィス「南紀白浜ワーケーションオフィス」
三菱地所がテナント企業向けに開設したワーケーション用オフィス「南紀白浜ワーケーションオフィス」

 ワーケーションの普及は地域活性化につながるとして、和歌山県と白浜町は一体となって、企業誘致や環境整備に取り組んでいる。その効果で、和歌山県内では17年4月から18年2月末までに、把握できただけで24の企業・団体、延べ240人がワーケーションを実施した。

 米国のセールスフォース・ドットコムの日本法人は、15年、第1ITビジネスオフィスにサテライトオフィスを開設し、テレワークに近い形でワーケーションを導入している。これまでに延べ100人程度が利用した。ここでは、同社インサイドセールス部門の社員が東京から訪れ、3カ月間働き、電話やメールを使って営業活動をしている。同オフィスで働く社員は、オフィスに近い場所に居住することで通勤のストレスから解放され、休日には海岸や温泉でのレジャーを楽しめることから、仕事のモチベーションが上がったという。また、東京で同様の作業をするのに比べて商談件数が20%増えるなど生産性も向上した。

 三菱地所は、第2ITビジネスオフィスの1区画を借り上げて、同社が東京・丸の内などで運営するオフィスビルのテナント企業向けに、ワーケーション環境を提供するサービスを19年5月から開始する。ワーケーションに加えて、短期研修のニーズもあると見ている。

 ワーケーションが注目される背景には、19年4月1日に施行された「働き方改革関連法」がある。社員に毎年5日以上の有給休暇の取得させることが企業に義務付けられた。企業が、ワーケーションを導入することで、社員がこれまでよりも柔軟に休暇を取得できるメリットがある。

 ワーケーションには、休暇と仕事の境目が不明確になりかねないという課題はあるが、普及によって休暇と仕事の在り方は大きく変わる可能性がある。