10倍ハイブリッドズームカメラを搭載した新シリーズ「OPPO Reno」の発売を2019年4月10日に正式に発表した、世界第5位のスマートフォン端末メーカーのオッポ。同社のアジア太平洋地域担当社長である黄紹東(ピーター・ファング)氏に、5G時代に対峙するオッポの戦略と、日本市場への思いや今後の取り組みについて聞いた。

黄紹東(ピーター・ファング)氏
オッポ アジア太平洋地域担当社長(President of OPPO APAC)
中国・中南大学卒業。2009年にオッポ入社。製品開発やマーケティングの統合、販路の開拓と管理などに力量を発揮し、15年にオッポ アジア太平洋地域担当のセールスマネジャーに就任。18年から現職

 10倍ズーム搭載機種の発売は、世界第2位で中国最大のスマホ端末メーカーであるファーウェイに続く2社目。新シリーズ「OPPO Reno」は当初、中国で発売し、2019年中には日本での発売も予定している。中国向け予定価格はファーウェイの新機種の約半額で、優れた技術をより美しく、低価格で提供し、成長してきたオッポの哲学を示すシリーズともいえる。そんなオッポのアジア太平洋地域社長である黄氏が、目の前に迫った5G時代の到来にどう対応するか、18年に本格参入したばかりの日本市場では今後どのような展開を考えているのか、などを語った。

本格的な5G時代の到来がもう目の前に迫っている。これまでの時代は、端末メーカー、通信キャリア、コンテンツプロバイダーのように通信サービスに関わる事業者の役割が明確に分かれていたが、5G時代にはこれらの垣根が崩れるとの見方が強まっている。

黄紹東氏 その通りだ。4Gまでは主に通信キャリアが市場をリードしてきたが、5Gの時代は、市場をけん引する役割を果たすプレーヤーが多様化する。通信キャリアや端末メーカーはもちろん、半導体メーカー、ネットワークプロバイダー、コンテンツプロバイダー、それに各国の政府や自動車産業のような異業種も、重要なプレーヤーになるはずだ。技術の発展によって5Gに関わるあらゆることが融合し、1人のプレーヤーだけで物事は決められなくなる。多くのプレーヤーが力を合わせて市場を広げていく必要に迫られるだろう。

その中でオッポはどのような成長戦略を取るのか。

5Gの時代はネットワーク端末をサービスの入り口として、ユーザーに対してクラウドサービスやAI(人工知能)を活用したサービスなど様々なサービスが提供されるようになる。それらを各種のソフトウエアや半導体のようなハードウエア、通信インフラが支える構図になる。こうした構図の中で、オッポならではのポジションを獲得し、成長を継続させていく。

 具体的には、これまで通り、まずネットワーク端末の部分で存在感を出す。今後3~5年は、ユーザーがネットに接続するための中核デバイスはスマホのままだろう。従って、ユーザーに満足してもらえるスマホの新機種開発には、力を注ぎ続ける。

新端末開発の専門部署を発足した

2019年4月10日に、中国・上海で10倍ハイブリッドズームカメラを搭載した新シリーズ「OPPO Reno」の発売を発表したリリースの抄訳
2019年4月10日に、中国・上海で10倍ハイブリッドズームカメラを搭載した新シリーズ「OPPO Reno」の発売を発表したリリースの抄訳

 しかし、実際問題としてネットワークへの入り口となるデバイスは、スマホ以外にもたくさん出てくるはずだ。スマートウオッチやマイクロソフトの「ホロレンズ」のようなデバイス、家庭内で使われるIoT端末など数え上げれば切りがない。そこでオッポは18年末、ネットワークに接続できる新たなデバイスを開発する専門部署を、社内に新規に立ち上げた。この部署が中心となって、次世代のネットワーク端末を開発していく。

 もちろん、端末だけを手掛けるわけではない。5Gの上でユーザーが利用するコンテンツやサービスの開発にも力を入れる。例えば、動画やゲームの配信サービスやプライベートクラウドサービスなどは、既に社内でインキュベーションに入っている。さらに、先端技術として、5G以降の時代に活用できるAI技術や動画の圧縮・配信アルゴリズムなどについても研究を進めている。将来はこうした分野でも多くの収益を稼ぎたい。

研究・開発に相当な時間とコストがかかる。全部自力で開発するのか。買収などで時間を買うことは考えないのか。

5Gについてはビジネスチャンスが巨大なので、大きな果実を得るには研究開発にそれなりの投資をする必要があると考えている。ただし、今後、他社を買収して、優れた技術を入手したり、時間を買ったりする可能性は否定しない。

5G時代には、端末だけでなくコンテンツやサービスも手掛ける考えのようだが、競合他社の多くも同じ考えだろう。オッポの強みはどこにあるのか。

大別して3つの強みが挙げられる。消費者の多くは、今の私たちの強みとして、競合他社と比べたときの価格の安さや、搭載する機能の割に価格が低いコストパフォーマンスの良さを挙げがちだ。しかし、それは結果である。私たちは常にユーザーの満足を目標にして、まだ市場には出ていない画期的な製品の開発を志向してきた。この姿勢そのものが、オッポの持つ強みの1つだと思っている。

 例えば、「Find7」では急速充電技術を搭載して電池切れを避けたいユーザーのニーズに、また回転式カメラを積んだ「N3」では高画質で自撮りしたいというユーザーのニーズに、それぞれスマホメーカーとして最初に応えてきた。今回、発表した「Reno」シリーズでも、望遠撮影したいというニーズに10倍ズームという新技術で応えた。このように、ユーザーのニーズを満足させようと努力してきた結果が、最先端の技術をいち早く活用し、デザインも優れた製品として具現化されている。開発するものがコンテンツやサービスであっても、この姿勢は変わらないし、それこそがオッポの強みだと考えている。

 もう1つの強みは、グローバルで2億5000万人を超えるスマホユーザーを抱えていることだ。これらのユーザーは製品やサービスについて様々な意見を持っており、私たちはその声を拾うだけでなく、具体的な声になる前の消費者インサイトも分析して、製品開発に生かしている。このような、グローバルに広がる大量のユーザーのニーズや可視化されていないインサイトに基づいて、5Gに関わる製品やサービスの開発体制を実際に敷けるのは、世界で両手を超えるくらいの企業しかないのではないか。

 そして最後に挙げる強みは、高い技術力だ。私たちは、かなり早い時期から5Gの実用化を見据えて研究開発に努めてきた。そのおかげで現在、5Gに関連した特許を2000個以上も取得している。AIや動画の圧縮・配信アルゴリズムなど、さらに将来を見据えた技術の研究も進めている。これらが、5G時代が実際に到来したとき、大きな強みになるはずだ。

「日本には素晴らしい技術がまだたくさん残っている」

オッポ日本法人の社内の模様。社員それぞれの宣言を社内で公開するなど、モチベーションを高める工夫がなされている
オッポ日本法人の社内の模様。社員それぞれの宣言を社内で公開するなど、モチベーションを高める工夫がなされている

中国だけでなく既にグローバルでビジネスを展開するオッポにとって、日本市場は重要な市場なのか。他国と比べると通信キャリアの力が相対的に強く、アップル「iPhone」の市場シェアが大きい。しかも、日本の主要な鉄道の乗り降りに対応するにはFeliCaチップを内蔵する必要があるなど日本独特のルールも多い。上がる収益の割にコストがかかり、必ずしも旨味(うまみ)のある市場とはいえないのではないか。

そんなことはない。私たちは慎重に検討を重ねたうえで、日本市場への進出を決めている。アジア太平洋地域の責任者として、日本市場でビジネスを展開する意味を少なくとも3つは挙げることができる。

 1つは、よく言われていることだが、日本のユーザーの厳しさだ。品質はもちろん、デザイン、機能、操作性などあらゆる面で要求するハードルが高い。こうした日本のユーザーを満足させることができれば、必然的に私たちの製品のレベルは上がり、よりグローバルで通用しやすくなる。それに日本で成功して知名度が上がれば、既に私たちが進出した国・地域はもちろん、これから進出する市場でも、高い知名度を得てビジネスが展開しやすくなる。

 それに日本には、素晴らしい技術がまだたくさん残っている。消費者から見ればそれほど目立たないがスマホには絶対必要不可欠というデバイスを誰が開発し、供給しているか。業界の人間はみんな知っている。日本市場でビジネスを展開することで、こうした優れた技術を持つ日本企業との関係を構築しやすくなるはずだ。

 もう1つ。日本はアジア太平洋地域の中で、外に向かってファッションカルチャーを発信できる国の1つだ。私たちは、日本で受け入れられたスマホの使い方やデザインを、カルチャーとしてアジア太平洋地域に広げることを考えている。

日本でのブランドイメージ確立を目指す

オッポが日本市場で達成すべき目標は何か。

本来なら目標を設定すべき売り上げや利益については、数量、金額とも具体的な数値目標をまだ設定していない。18年2月に日本市場向けの最初の製品を発売してから、まだ1年強しかたっておらず、数値目標を設定するにはまだ早すぎると考えている。

3月18日のメディア向け発表会での宣言
3月18日のメディア向け発表会での宣言

 今言えることは、先日発表した通り、19年中には10倍ハイブリッドズームカメラを搭載した新シリーズ「Reno」と、FeliCa・防水対応の新製品を日本市場向けに投入し、同時に販路を拡大して、アフターサービスも強化するということだ。今、優先すべきは、売り上げを稼ぐことより、こうした手立てによって、オッポというブランドを日本市場に浸透させることだ。

 実際、日本市場で1年活動してみて、私たちオッポの目指すところと、日本の文化との親和性は高いという感触を得ている。実はオッポの経営陣は皆、京セラを創業した稲盛和夫氏の経営哲学を信奉している。稲盛さんのいう、利他の心などに象徴される価値観を私たちは重視しているのだ。加えて、メーカーとして、細かいところまで決して手を抜かないような“匠(たくみ)の精神”も重視している。こうしたオッポが重視する価値観は、日本において既に文化として定着しているように思える。従って日本の消費者は、私たちの考える価値観を、どの国よりもよく分かって受け入れてくれるのではないかと思っている。

 もっとも、こうした私たちの思いを、日本や中国はもちろん、各国・地域の消費者に訴えるブランド戦略は、まだ構築できていないのが現実だ。本来ならば、先日発表した「OPPO Reno」シリーズも、10倍ハイブリッドズームカメラを搭載した、というだけにとどまらず、このスマホを使ってこんなことができるという具体的なシーンまで示せないといけない。それが私たちのブランドイメージにつながるからだ。この点が今のオッポの課題であり、対応が後手に回っているという認識は持っている。19年は、オッポとしてのブランド戦略を立ち上げる年にしたい。

(写真/志田彩香)

この記事をいいね!する