ドトールコーヒーやアルペンなど、「Tポイント」プログラムを終了する企業が相次いでいる。ファミリーマートもTポイントに加えて「dポイント」「楽天スーパーポイント」を利用できるようにするという。共通ポイントの老舗に何が起こっているのか――、ポイ探を運営する菊地崇仁氏に解説してもらった。
企業の離脱を騒ぐ必要はない
Tポイントの状況を考えるうえでは、提供側と利用者側のそれぞれの観点で考える必要があります。
提供側としては、ドトールやアルペンがTポイントの提供を辞めたためにその動きが目立っています。ファミリーマートもマルチポイントに移行します。「Tポイント、やばいんじゃない?」と考える方も多いと思います。ただ、私は現時点ではそんなに大騒ぎすることではないと考えています。
ここで少しTポイントをおさらいしましょう。Tポイントは、Tポイント・ジャパン(東京・渋谷)が運営する共通ポイントです。2003年にサービスを開始し、当時は企業やグループの垣根を超えて利用できる点が画期的でした。1年以内にTカードを利用した会員数は19年2月末時点で6888万人と、日本の人口(1億2644.3万人、18年10月1日時点)の半数以上となります。
今回のドトールやアルペンの動きは、長期にわたりTポイントを活用したうえでの顧客戦略の見直しでしょう。たまたま時期は重なりましたが、通常の企業活動の一環。それぞれTポイントに加盟してから9年(09年11月開始)と12年(06年8月開始)が経過し、Tポイントの効果を見極めたうえで顧客戦略を見直したわけです。だから大騒ぎする必要はないのです。
例えばドトールは、「Tカードで新規顧客を獲得し、15年5月に開始した独自の電子マネー『ドトールバリューカード』で固定客を作る」という方針がうまくいきました。店舗ではTポイントとドトールの独自ポイントの二重取りはできません。おそらく、ドトールで最もお得なドトールバリューカードの会員が増加し、Tポイントをためている人が少なくなったと考えるのが妥当ではないでしょうか。そのため、ドトールはTポイントによる新規顧客の獲得が一段落したと判断したのでしょう。
アルペンがTポイントから楽天スーパーポイントに切り替えた理由は、オンラインと実店舗のポイントカードを統合し、O2O(Online to Offline)効果に期待したからです。実店舗はTポイント、オンラインショップでは楽天スーパーポイントという状況では、O2Oの効果が薄れてしまうと考えたのもうなずけます(関連記事「アルペンが『脱Tポイント』で楽天と提携、O2O展開も決め手に」)。
完全な離脱ではないもののファミリーマートも19年7月にスマホ決済「ファミペイ」をスタートし、19年11月よりdポイントや楽天スーパーポイントに対応します。こちらもTポイントだけでは新規顧客を獲得することが難しいと判断したためでしょう。他社の共通ポイントを導入すれば、それだけ新規顧客を開拓できる可能性は大きくなると考えた結果です。
確かにファミリーマートのマルチポイント化はTポイントにとって影響は大きいですし、加えて同社が保有するTポイント・ジャパンの全株式をCCCマーケティング(※Tポイント・ジャパンの親会社)に譲渡すると発表した点も気にはなります。ですが、ドトールやアルペンなどの他の企業は、繰り返しになりますが通常の企業活動の一環である顧客戦略の見直しです。
自社で展開するポイントプログラムと比べると、共通ポイントは離脱が容易な部分はあります。撤退してもポイントプログラム自体はなくならないからです。今後も顧客戦略の見直しのためにTポイントを辞める企業が出てくる可能性はあります。とはいえ、19年2月時点では187社105万店舗がTポイントを導入しているので、新規に加盟店になる企業が現れてもおかしくはありません。
利用者のTポイント離れのほうが心配
一方、利用者側の視点に立つと、Tポイントは他社のポイントプログラムに比べてためにくいという弱点があります。多くの加盟店で200円ごとに1ポイント付与されます。還元率は0.5%です。
ソフトバンクのユーザーが「Yahoo!ショッピング」で商品を購入すれば10%分のポイントが還元されるものの、ボーナスポイント分つまり9%は期間固定Tポイントなのでファミリーマートなどの実店舗では使えません。今後、Yahoo!ショッピングなどでの期間固定Tポイントは廃止予定で、PayPay残高に切り替わります。PayPay残高はファミリーマートなどでも利用できますが、そもそもTポイントではなくなります。
これに比べて、楽天スーパーポイントの場合、「楽天市場」で各種キャンペーンを利用して商品を購入すれば数千・数万ポイントをためることもそれほど難しくありません。dポイントの場合は「dカードGOLD」を持っているだけで毎月のNTTドコモの通信料金および「ドコモ光」の利用料金の10%がポイントとして還元されます。
Tポイントにとっては、利用者に「たまりづらい」という印象を持たれるのは致命的です。いくら加盟店が多くても消費者が使わなければ、企業側からは新規顧客の獲得ツールとして魅力的に見えません。また、最近は「ポイント投資」がトレンドになっていますが、Tポイントはようやく4月10日にSBI証券と新会社を設立して、Tポイントで株式が購入できるサービスを始めました。トレンドをキャッチアップするのが遅いのは否めません。

でも一番の悪い話は、19年1月に個人情報を捜査令状なしで警察に無断提供していたのではないかという報道があったことでしょう。たまらないうえに個人情報を守ってくれないとなると利用者のTポイント離れがさらに進んでしまうかもしれません。(談)